ネットダンジョン

ダンジョンを踏破して戻ってきたらなんか世間が大騒ぎになってた。

どうも深層級ダンジョンは内部と外部の時間の流れが違うらしく俺の入った古代樹の森は内部の時間の進みが外と比べて遅いらしい。だから内部で一日程ぶっ通しで戦っていたら外では三日程時間が経っており、その間に発生した【電脳仮想領域 インターネット】とやらで大騒ぎだった。


どうもインターネットに入り込んで攻略するダンジョンという最高に意味のわからないダンジョンであった。そんでもって一部の連中二次元ガチ勢が突撃をかましたそうな。


曰く


「俺の嫁に会いに行ってくる。」


曰く


「二次元が画面から出てこないならこっちから入ればいい。」


曰く


「生で現実にあり得ないレベルの美少女を見れるとか最高じゃね?」


等々、己の欲望全開の馬鹿どもが突撃をかました結果、過去類を見ないレベルで内部が把握されていったそうだ。


まずこのダンジョン、入場条件がめちゃくちゃ緩い。ネットでdungeon.exeで検索したら専用ページに飛ぶからアカウント登録を済ませるとログイン画面が出るのでログインをクリックするとダンジョンに転移される。これだけだ。スマホやノーパソなど様々な電子媒体からのアクセスが可能という驚きの手軽さだ。フレンド登録をすれば好きな人と一緒に挑むことも可能である。ソシャゲかよ。


内部はいくつものダンジョンを内包する複合ダンジョンであり、各ダンジョン毎にグーグルなどのアカウントを要求される。因みに最速で攻略されたのはイラスト投稿サイトのR18ページであったという。詳細は謎の力年齢制限により話せないが■の■■■達が襲いかかってくるとかなんとか。

インターネットと言っても全てのサイトがダンジョンになっている訳ではなくニコニコとかチューブなんかの大手動画サイトや密林なんかのネット通販サイトや2chなんかの掲示板サイト、後はウィキなんかのまとめサイトなんかが主だっている。

ただしいわゆるMMORPGなんかのオンラインゲームのダンジョンは殆ど無いとのこと。

俺に関しては一部の人達が絶望の声を上げていた。


このダンジョンに対する一部の人々の熱狂ぶりは凄まじく、多くのダンジョンが攻略されていった。だがまあ、そんな彼等の熱狂振りを冷めた目で見ている人達も一定数いたりするわけですが…


俺?勿論歓喜の声上げましたけど?(真顔)


俺が注目したのはニコニコとチューブに内包されたダンジョン【立方構成世界 マイクラ】である。そのダンジョンは全ての物体が立方体で構成されていて、嘘か真か地球の八倍の面積を誇るという。全てが立方体で構成されるその世界は万人が全く同じ力となり、武器や【特殊能力スキル】などの恩恵を一切享受出来ない。だが、代わりに何故かそのダンジョンでは死ぬことが無い。どの様な死に方をしようともダンジョンの入り口に舞い戻るのである。ただ後々わかったことだが、これはどうやら【立方構成世界 マイクラ】だけでは無く【電脳仮想領域 インターネット】の内包する全てのダンジョンに適応されるらしい。ダンジョン内にて死亡すると死亡者はダンジョンにログインする前の状態に戻り【電脳仮想領域 インターネット】への一週間の侵入禁止と一日の間ステータスの七割が制限され、【特殊能力スキル】、【固有能力アビリティ】、【加護能力ギフト】の全てが機能停止する。幸いというか何というかこの状態になると状態異常『超怠い』状態とでも言うべきか、家から出る気力すら失せるのでこの状態になった事での事故や事件は、出先でダンジョンにログインした人を除けばあまり起きていない。


兎も角、死なないダンジョンというのは大きな話題を呼んだ。今までダンジョンに踏み出す事を躊躇っていた層の人々が一歩踏み出すきっかけとなったのだ。…最も、死なないだけで死の苦痛や恐怖が発生しないわけではないのでその辺りを履き違えた人がダンジョン内で死んでPTSDになる人が増加したなんてこともあり、政府は対応に追われていたりする。


◆◇【言霊弾幕方形 ニコニコ】◇◆


「うぽつ」「upotu」「うぷ乙」「うぽ」「うぽつ」「おまどうま!」「うぽつ」


開幕一発目の『うぽつ』の群れを切り裂きながら足を進める。


「さて、質問コーナーと行こうか。」


「彼女いますか?」「彼女いますか?」「彼女いますか?」「彼女いますか?」「彼女いますか?」「彼女いますか?」「彼女いますか?」「彼女いますか?」「彼女いますか?」


「オーケー画面の向こうのお前らが死にたいってことはよくわかった。」


迫り来る『彼女いますか』を殴って蹴って捻り潰しながら進む。


「もっとマシな質問はねーのかよ!」


「趣味は?」


「ダンジョン攻略」


「彼女は?」


「いねーよぶち殺すぞ?」


「年収幾ら?」


「ご想像にお任せする。」


「それなんて武器?」


「【簒奪竜刀 チギリ】」


「厨二病?」


「厨二病」


「否定しろよw」


「だって自覚あるもん」


「可愛無いぞ?」


「うっせ」


襲いくるコメント達を返答しながら叩き斬る。


そしていつもの距離を歩いてさあ、ダンジョンを選ぼうとしたその時


《条件を満たしました。赤月陽菜さんとのコラボを行いますか?》

《はい/いいえ》


「は?」


《赤月陽菜さんとのコラボを行いますか?》

《はい/いいえ》


何だこれ?こんなの今まで一度も見たこと無いぞ。


《赤月陽菜さんとのコラボを行いますか?》

《はい/いいえ》


「うるせえっ!なんか知らんがやりゃいいんだろ!?」


《両者の同意を確認しました。》

《フィールドの統合を行います。》

《空間位相結合…完了》

《相互干渉オブジェクト排除…完了》

《空間隔離防壁…融解確認》

《セットアップが完了しました。》

《これよりコラボ生放送を開始します。》


瞬間、周囲の空間が0と1で構成されたヒビに呑み込まれ見えない何かが取り払わらて行く。


そして俺の背後に唐突に気配…


「うおっ!?」


「うわっ!?」


振り向けばそこには、…えっ?魔法少女?なにあの人コスプレ?にしたってクオリティ高いなおい。


「あの、その、あんまりジロジロ見ないでくれます?…恥ずかしいので。」


「あっ、えっと、その、…すまん。」


「ナニコレ」「けっ」「ぶーぶー」「ヒューヒュー」「ラブコメの波動を感じる」「余所でやれ」


「「うっせー黙れ!」」


煽りコメントどもにイラついて思わず斬り刻むと隣で花壇の魔法少女?も星型の炎で焼き払っていた。


そしてお互いに目が合う。


“ガシッ”


お互い無言でなにも語らずに握手を交わす。


「君とは仲良く出来そうだ。」


「私もそう思う。」


謎のシンパシーの様な何かを感じた。この子とは仲良くなれそうだ。


「ところでこのコラボ生放送って何か知ってるか?」


「聞いたことがあります。生放送の弾幕の壁を抜けてダンジョン選択をする場所で全く同じタイミングでソロで潜った同じくらいの強さの人がいると強さが同じくらいな場合に限り稀にコラボイベントが発生するらしいです。…要は野良でパーティ組むみたいなものです。」


「なるほど。」


「ところでいい加減自己紹介しません?」


「ああ、それもそうだな。」


「ではまず私から。

先程のシステムアナウンスで知ってるかも知れませんが私の名前は赤月陽菜、赤い月に太陽のさいで赤月陽菜です。訳あって魔法少女やってます。特技はお絵かきです。」


「その訳とやらが凄く気にならんだが…。というか生放送の条件からするとあんた相当強いのか?」


「何ですか?「俺と同じくらいってことは相当強いんだろ?」って自惚れ発言ですか?」


「いきなり風当たりが強いな。改めて、俺は鈴木亮一郎。自惚れかどうかは兎も角俺より強い奴は日本全体じゃそうはいないぞ?」


「何ですかそれ…鈴木?…もしかして『虚無の英雄』さんですか?」


「そうだよ?」


「えっまじ?めっちゃ有名人じゃん。」


「驚くならせめて表情を取り繕えよ。かけらも興味ないってよくわかるぞ。」


「おっと、これは失礼しました。」


「まったくそう思ってない顔しやがって…」


このなんとも言えない出会いが俺と赤月の最初の遭遇だった。


─────────────────

【TIPS】

如何に真なる神の力を以ってしてもなんのリスクもなく死の回避は不可能である。だが、死んだその場所が星の内に存在しない虚空の場所であり、死生の概念を持ちつつも明確な死を与えないという信仰にも迫る人々の意思がそこに寄り集まっていたのならば、その場所は半ば神性を得て世界の絶対の真理に対して歯向かうことが叶うだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る