技術部

「というかこの先どうします?」


「この先?」


「どのダンジョンに入ります?私はいつもコロコロ変えているのでどれでも構いませんよ。」


「俺は基本マイクラに潜ってるけど気分転換に別のでもいいな。」


「ではどっちにしますか?」


「どっち?」


「2chとMMDのどっちかって聞いてるんですよ。」


「…!ああっ!そういうことね。」


「何ですか急に叫んで。気持ち悪いですよ。」


「言葉のナイフが痛い。」


「で、結局どっちにしますか?」


「ああうんそれなんだけど…君もしかして知らない?」


「はい?何のことですか?」


「これこの三つ以外も選べるんだよ。」


「は?」


『は?』『え?』『まじ?』『知ってた』


「うんうん騙されるよなー。これ音声認証の癖に出てくる選択肢スライド出来るとか気付かねぇよな。」


そう言いながら俺は空中に表示された

1.2ch

2.マイクラ

3.MMD

の文字を下から上へとスワイプした。すると…


4.ASMR

5.技術部

6.MAD


「本当にあった…」


『隠しコマンド見たい』『いや隠しって程でも無いだろ』『ってかASMRのダンジョンって何だよ』


「ASMRはまじで性癖歪むか精神イカレるの二択だから絶対におススメしないぞ。」


「そこまでのことって中で何やるんです?」


「○○時間耐久系の音声常時聴きながら襲いかかってくる口とか食べ物を倒す。」


「意味がわかりません。」


そりゃそうだろ俺だってわかんねぇよ。


「それで残り二つのどちらにする?ASMRをやりたいなら一人で行ってくれ。」


「今の話聞いた上で行くと思います?」


「いやもしかしたらそっち系の特殊性へ「《星火フレイムスター》!」あっぶねぇ!?」


赤月がこちらを凄まじい目付きで睨みつけている。


「次にまたそんな戯言抜かしたらぶち殺しますよ?」


『ヒェッ』『いつもの』『平常運転』『流石姉さん』


「…まあ、冗談はさておき。MADと技術部なら技術部を推すぞ。」


「理由をお聞きしても?」


「MADダンジョンには二種類ある。単一MADと複合MADの二つだ。そのうちどちらが選ばれるかは完全にランダムだ。そしてもし複合の方を引くとかなり辛い。」


「と言うと?」


「前に俺が遭遇したのは数秒おきにいろんなアニメのキャラの必殺技ラッシュを浴びた。約束された勝利の剣エクスカリバーとかスターバーストストリームとか食らった時はマジで死を覚悟した。」


「寧ろそれ受けてよく無事でしたね?」


「第四階梯霊術でギリギリ凌いだ。あれがもっと離れた間隔で来てたら積んでたな。」


「第四階梯…」


「多分俺のよりも術士よりの君なら使えるだろ?」


「嫌です。」


「出来ないでも疲れるでも無く嫌?」


「嫌です。何があっても私は第一階梯の霊術しか使いません。」


「…理由について追求はしないがダンジョンに潜ってたら死にかけることなんて五万とあるからそうも言ってられないと思うぞ。」


「大丈夫ですよ。だってここインターネットでは死なないんですから。」


「………。」


別に気負った様子もなく飄々と言っているのに、どうにも俺には赤月がそう言い聞かせているだけに見えた。


「ところでそう言う事なら消去法で行くのは技術部で構いませんか?」


「おう、俺もそこには行ったこと無いが話によると誰かが作ってみたいろんなものがあるとか。」


「個人で作れるものにそこまで危険な物は無いでしょうから。」


「この時の俺たちはまさかあんな事になるなんて思いもしなかった。」


「フラグ立てるのやめて下さい。」


「君のセリフも大概だと思うぞ?」


《技術部が選択されました。専用フィールドに転送します。》


いつもの一瞬の浮遊感を受け、気付けば別の空間に俺たちは立っていた。


「なんだここ?」


「闘技場ですかね?」


俺たちが降り立ったのは灰色の円形闘技場の様な場所だった。周りには同じく灰色の壁が全方位をグルリと囲み、外に出ることは愚か中には入ることもできそうに無い。唯一普通の闘技場と違う所は、地面が外周から中央に向かって蟻地獄の様に逆様の円錐の様な形で掘り下げられている。仮に外周からボールを投げれば全てのボールがこの中央に向かって転げ落ちて来るだろう。


「…何も出てきませんね?」


「ああ、それにコメント達が消えた。ここだとコメントが物理的に反映されないんだろ。」


そういったダンジョンは物理的な障害が無い方がいい作りをしている。【東方異界譚】とかまさにそれだ。…あそこでは防御系の霊術全てが無効化されるから少し違うかもしれんが。


“ズッ”


その時唐突に空に影がさした。


3スリー


空に浮かんでいるのはこの闘技場に比べれば小さいがそれでも俺たちに比べたら十倍以上の大きさの逆さの円錐。


2トゥー


円形を基礎とした卍型の様に点対称の複数のパーツが層を成して形作られているそれは、どこか見覚えがあるもののあまりに大きさが違いすぎて直ぐにそれ・・だとは理解出来なかった。


1ワン


“ギイィィィィィン!!!”


それ・・がどう考えても普通では無い速度で回転を始める。最初はなんとか目で追えていたが、今は早すぎて元の形状が思い出せなくなってきている。


Goゴーシュート!》


上空で高速回転していたそれが落ちて来る。質量と速度を伴ったそれにぶつかったら一撃でミンチだ。


ああ、確かにそれは間違いなく『技術部』の管轄だろう。本来のそれより数倍どころでは無い加速を用いて実行犯ですら余裕で怪我をするそれを俺は幾度となく見たことがある。だが、まさかそれをやられる側になる日が来るなんて想像もしていなかった。



「す、鈴木さん。あれって…」


赤月が顔を痙攣らせながら聞いて来る。


「あれはな、改造ベイブレードって言うんだよ。」


雨だれよりもなお早く盤を穿つ超速の独楽


─────────────────

【TIPS】

【言霊弾幕方形 ニコニコ】から接続出来る小ダンジョン【創意混沌匠域 技術部】はどれも非常に初見殺し性能が高く、それに加えて純粋に難易度も高いので挑戦する冒険者はあまりいない。

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