3章:電脳仮想領域 インターネット

とある魔法少女の憂鬱

※スマホの方は横向け推奨


「はっ、はっ、はっ」


全方位が真っ暗な直線の通路をひたすらに走る。道の作りは巨大な立方体を横に引き伸ばしまくった様なとても綺麗な形をしている。


《まもなく開始します。》


唐突に流れるシステムメッセージ。不定期に起きるこのイベントに対処しながら一定距離を走ればゴールという単純明快なダンジョン。でもこのイベントはそうそう突破できるものじゃない。


《開始まで3、2、1…オンラインに接続しました。》


“ブォーン”

“ブォーン”

“ブォーン”

“ブォーン”

“ブォーン”

“ブォーン”

“ブォーン”


オンラインに繋がった瞬間に無数の白い塊が生成される。


開始直後の洗礼こと『うぽつ』だ。


「うぽつ」「upotu」「うぷ乙」「うぽ」「うぽつ」「おまどうま!」「うぽつ」


通路全体を埋め尽くす夥しい数の質量

を持った文字の群れ。これを超えなきゃ始まらない。


だからは右手に持った杖を掲げながら未だに恥ずかしく感じる魔法の言葉を紡ぐ。


炎妃纏装ドレスアップ


その瞬間、私の着ている服が光り輝き形を変え始める。

バギーパンツは少し長めのスカートに、上半身に着ていた服はまとめて白とオレンジを基調としたドレスに、そして日本人特有の黒髪が燃え盛る炎の様に根元から先端へとグラデーションのある色へと変化した。トドメに束ねることなく伸ばしていた髪がよくわからないリボンの様な装飾品でツインテールに括られてフィニッシュだ。


そして私の口が勝手に動いて言葉を発する。


「闇を搔き消す炎の光。魔装炎妃ここに推参!」


何故か私の背後で小さな色付き爆発が

おこり周囲にデフォルメされた火の粉が紙吹雪の様に舞っている。


心の底から恥ずかしいと感じているが、私の霊術はこの状態にならないと使えないのだ。

杖を構えると先端に火が灯る。それをペンの様に振り、空中に五芒星を描くとそれがそのまま星型の炎になって迫り来る『うぽつ』を薙ぎ払う。私の固有属性魔法少女の第一階梯霊術の《星火フレイムスター》だ。


「《星火フレイムスター》!《星火フレイムスター》!《星火フレイムスター》!」


術の名前を叫んでから発動すると威力が向上するのも謎だ。あとこの変身状態だと物理戦闘力が凄く上がるのも謎だ。魔法少女なら魔法使えよ。


私の霊術はかなり独特で描いた物を形にして攻撃する。そして同じ階梯の霊術であっても描き方で挙動が異なる。

例えばこの《星火フレイムスター》だって五芒星を描けば正面に向けて突っ込んで着弾すると爆発するし、外枠だけの星型を描くとカービーのワープスターみたいな挙動で近くの敵を追尾して突っ込んで爆発する。六芒星を描けば描いた地点に地雷の様に設置されて敵が触れると大爆発を起こす。

要は星型に分類されるならどんなものでも《星火フレイムスター》なのだ。

だからさっきの《星火フレイムスター》だって正確に言えば。


「《星火弾フレイムスター》!《追尾星火弾フレイムスター》!《星火地雷フレイムスター》!」と言うのが正しいのだ。


そして大学時代の親友のみっちゃん、本当にありがとう。あなたに勧められてペンタブ弄りまくったおかげで私の霊術魔法の幅が広がったよ。お陰で第二階梯以降の霊術魔法は使わずに済んでます。でもこの生放送は観ないでね。死にたくなるから。


そしてようやく『うぽつ』の嵐を乗り越えたら次の山場が待っている。そんでもって私はここが一番嫌いだ。何度も打ちのめされたし何より流れてくる『言弾ことだま』が気に食わない。


「プリキュア来たー!」「ぷいきゅあがんばえー」「なんちゃってプリキュア」「プリキュア」「プレキュアだろ」「ぷれきゅあがんばえー」


流れてくる『言弾ことだま』を見て青筋が浮かぶのを自覚する。だがこれだけは我慢ならない何としてでも言わせてもらう。


「私はプリキュアじゃねぇって言ってんだろうがーーー!!!!!」


私はあんなフリフリした服は着てないしキャピキャピ(死語)しても無い。頼れる仲間も居なければ輝かしい夢もない。何だったら戦う目的だって金稼ぎでしかない。


そんな私を女の子の夢が詰まったプリキュア様方と同列に扱ってんじゃねーよブチ殺すぞ?(プリキュアガチ勢)


しかもなんだプレキュアって。あれか?エンプレスとプリキュアをかけてプレキュアってか?喧しいわ。アホじゃねーの?

そもそもエンプレスは女帝とか皇后で妃はエンプレスとは訳さねぇよ。訳すんならせめて皇妃だよ。


むしゃくしゃしたので自分の持てる画力全てを用いて全力で星型を描く。限界まで小さくした星を無数に散りばめ巨大な惑星を描く。


惑星火砲フレイムスターぁぁぁっ!」


“ドオォォォォォン!!!”


「…なんか出た。」


いやまじで何だよ今の。この魔法ってあんなドラゴンブレスみたいな極太レーザー出せたの?通路を埋め尽くしていた『プリキュア』が一瞬で消し飛んだ。


その後は『ひえっ』とか『えぇ…』とか『いつもの』とか『草』とかが細々と断続して襲ってくるのを切り抜けようやく前回の挑戦時と同じ場所までたどり着いた。


《ルートを選択してください。》


1.2ch

2.マイクラ

3.MMD


前回は3を選んであらゆる作品のモデルに襲われて撤退するハメになったので今回は1か2を選ぼうと思っている。


「マイクラ選んだらエンドラ殺せとか言われそうだしここと同じく文字(大体罵倒)が襲ってくるだけの1にするか。」


《2chが選択されました。専用フィールドに転送します。》


一瞬の浮遊感と共に別の空間に吹っ飛ばされた。


“ザッ、ザザッ”


空間にノイズが走り黒い粒子が集まって形を取る。


「早速来たわね。」


そして黒い粒子が構成したのは…


『  ∧_∧

  ( ´∀`)< ぬるぽ』


「はっ?」


顔文字、しかも前後の連続性がかけらも存在しないもの。先程までいたニコニコとは違うから法則も違うのだろうか?


「よくわかんないけど消し飛べ《フレイム…!?」


唐突に背後から気配がした。咄嗟に横へ飛ぶと何かが私の横を凄まじいスピードで通りすぎる。


『 ( ・∀・)   | | ガッ

 と    )    | |

   Y /ノ    人

    / )    <  >__Λ∩

   _/し' //. V`Д´)/ グヘェ

 (_フ彡        /』


私の後ろから突如として現れた絵文字は、先程「ぬるぽと」叫んだ顔文字を殴り飛ばして一緒に消えた。


「まさかとは思うけどここ…」


『_______

//[ゲリラ豪雨]\\

|◎|  ^_^   |◎|

|◎| (´・ω・)  |◎|

\\ ⊂  ⊃ //

 (⌒(⌒(⌒)⌒)⌒)

(⌒_(⌒)(⌒)_⌒)

(_(__)(_)(__)_)

⚡//////⚡⚡\\\\\\⚡』


「アスキーアートが襲ってくるのダンジョンとかふざけんなーーー!!!」


“ゴロゴロピッシャーン!”


襲いくる雷の群から必死に逃げる。


《このスレは1000を超えました。》


瞬間。私の足元が膨らみ始める。


*     +     巛 ヽ

            〒 !   +    。     +    。     *     。

      +    。  |  |

   *     +   / /イヤッホォウ!

       ∧_∧ / /

      (´∀` / / +    。  

      / ュヘ    | *     +   

     〈_} )   |

        /    ! +    。  +

       ./  ,ヘ  |

 ガタン ||| j  / |  | |||


地面を突き破って巨大な人型の何かモナーが飛び出してきた。


他にも三頭身バージョンの奴や人型ですらない何かがシステムメッセージと共に現れ襲いかかってくる。なんだアレ?人力セグウェイ?


兎も角何かこう意味のわからない奴らが集団で追っかけてくる。

特に最前列の倒立に失敗した状態みたいな体勢で高速で追いかけてくるお前。気持ち悪いからマジで死ね。


「あーもうっマジで辞めたい!」


「辞めないで」「だめ」「辞めないで〜」


前方に文字の群


「お前らまだ居たのかよ!」


赤月陽菜、24歳。職業、冒険者魔法少女。特技、お絵かき。将来の夢、神様をブチ殺すこと。


今日も元気に魔法少女やってます。


「あ〜死にたい。」


今日も今日とて未来永劫の恥黒歴史を量産しつつ戦ってます。


─────────────────

【TIPS】

基本的に属性という物は文字数が増えるほどにより強力な物へと進化する。この法則から漏れる物は存在せず、その中で言えば現在二文字の属性持ちは全世界で数人程で三文字の人間は存在しない。


【TIPS2】

【電脳仮想領域 インターネット】は【地下鉄道迷宮 東京メトロ】や【九界接続大樹 ユグドラシル】などの複合ダンジョンになっている。

その一部を示すと以下の通りである。

【電脳仮想領域 インターネット】

┣東方異界譚

┣空想英雄座 小説家になろう

┣白鳥従属迷宮 ツイッター

┣言霊弾幕方形 ニコニコ

┗全界接続商店 アマゾン

現在彼女が挑戦中のダンジョン【言霊弾幕方形 ニコニコ】は更にその中に小ダンジョンを内包しているため、正確には複合階層ダンジョンと言うのが正しい。

【言霊弾幕方形 ニコニコ】はダンジョン探索中の冒険者を生放送と言う形で見ることが出来、そこに打ち込まれたコメントがそのまま物理的な弾幕となって冒険者を襲う。ただこの弾幕に殺傷能力は皆無であり、挑戦中の冒険者をダンジョン入り口まで押し戻すことしかしない。故に視聴者達は面白半分でコメントを打ち込み、如何にして冒険者達がそれを潜り抜けるかを観て楽しんでいるのだ。

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