プロローグ:とある世界の英霊召喚

世界の滅びを告げる終焉の宴エンドレススタンピートが始まるまでタイムリミットが一年をすぎ世界中の人々が恐怖に打ち震え国は何をしているのだと各国て小規模のデモが散発する様になって暫くしたある日のこと、複数の大手SNSのとある人物のアカウントから一つのメッセージが発信された。


『今夜、俺はお前達愛すべき馬鹿どもに希望をみせる。』


その男…日本国国家認定冒険者にして一年程前に生まれた『最初の英雄』はそうコメントして大手動画サイトで今夜行われる生放送へのURLを貼った。


このことに各種SNSや大手掲示板サイトは非常に沸き立った。

日頃ダンジョンに引き篭もりっぱなしで滅多に表に出てこない男が何かをする。それだけで人々は大いに興味をそそられた。

何より『最初の英雄』が何かをすると言うのである。


『彼ならば何か変えてくれる。』


そんな期待もあってか多くの人がその配信を心待ちにしていた。


その日の夜


『おっす。これちゃんと映ってるか?声入ってる?…オッケーだな。チューブもニコもコメントありがとう。』


配信が始まり男の顔が映されると凄まじい量のコメントが流れた。


『するまでも無いと思うが一応自己紹介するぞ?

俺の名前は鈴木亮一郎。今は縁あって国家認定冒険者をやっている。世間一般には『一なる英雄』とか『最初の英雄』って方が有名か?まあ俺は『虚無の英雄』ってのが一番気に入ってるんだけどな。』


そして男…鈴木亮一郎はおちゃらけた顔を消し、真面目な顔をして話始めた。


『まず初めに断っておく。今から行うことは十割本気だ。それを見て笑いたければ笑えばいいし帰りたきゃ帰れ。俺は大真面目だ。そしてもしこれが上手くいくのだったら今後の世界全体のダンジョン攻略の中でも特に上位勢…俺みたいな国家認定冒険者の探索スピードは更に加速することだろう。

…んじゃ始めるぞ。まずはこれだ。』


そう言って『虚無の英雄』は一振りの剣を取り出した。


『こいつは一年程前に俺がユニークボスモンスターを世界初討伐した際に手に入れた伝説箱レジェンダリーボックスというアイテムから出て来た剣で銘は【邪竜魔剣 バルムンク】。聞いたことのある奴も多いだろう。…別に邪竜の死体から創り出したわけでも無いのにこんな名前をしている理由については俺も知らん。だが大事なのはこいつが伝説で実際に使われたバルムンクだということだ。』


カメラの視点が遠のき亮一郎だけでなく部屋全体が見える様になった。そこは何処かの地下室なのか四方を真っ白い壁に区切られた質素な部屋だった。…唯一、亮一郎の足元に描かれている真っ赤な魔法陣を除いて。


『この魔法陣の意味がわかる奴に先に言っとく。馬鹿だろ?俺。だけどこんな世界ならもしかするかも知れないんだよ。こんな世界の中でもとびきり神様連中の頭がイかれているこの国ならあり得るかも知れないんだよ。』


そう言って亮一郎は魔法陣の真ん中にバルムンクを置いた。


『この日の為に大量のマジックポーションをかき集めて大量の全属性の魔石も揃えた。んでもって俺の霊力と血を媒介にしてこの魔法陣を書き上げた。これで失敗したら俺はとんだ笑い者だろうな。だがやる。何故ならそこにロマンがあるから。』


そして英雄はその祝詞を紡ぎ始める。


『祖に銀と鉄。──』


これを見て意味の分かる者達の大半が呆れていた。そんな物・・・・が上手くいくわけが無いと。だが


『──礎に石と契約の大公。』


その祝詞が紡がれると同時に床に描かれた魔法陣が輝きを持ち中央に小さな光球が生み出されると多くの人が言葉を失った。


『──降り立つ風には壁を。』


その言葉と共に魔法陣中央の光球を覆う様に亮一郎から霊力が消費されて東西南北の四方向に霊力の壁が展開された。


『──四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。』


魔法陣の真上の虚空からエネルギーの塊が一直線に落ち光球にぶつかって溢れ出そうとするが四方の霊力の壁に阻まれる。


閉じよみたせ閉じよみたせ閉じよみたせ閉じよみたせ閉じよみたせ。』


魔法陣の上空で霧散することなく留まり続けているエネルギーは圧縮され更に輝きを増していく。


『繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する』


《ERROR!!》

《ERROR!!》


その祝詞の約半分が終わった時唐突にそのメッセージは現れた。ステータスウィンドウの様な真っ赤なUIにメッセージが映し出されそれは何故かカメラ越しに視聴者達にも見ることができた。


《このシステムは現在未実装のシステムです。》

《このまま実行する場合システムアシストは働きません。》

《システムアシストによって賄われる分の代価は貴方自身が支払います。》

《宜しいですか?》


真っ赤に染まったシステムメッセージはそれそのものが世界からの警告だということが見て取れる。だが、


『んなもんイエスに決まってんだろ!』


英雄は戸惑わない。


“ビキッ!”


その了承と同時に亮一郎の身体中から妙な音がした。

そしてその音と共に亮一郎の全身を青白い枠線が駆け巡る。

それは最近になって解明された霊力や魔力のみが通る血管の様な物、通称『霊脈回廊』。

亮一郎の全身に浮かび上がった霊脈回廊は勢いよく其処彼処から霊力が溢れ出て魔法陣に流れ込み始める。


『アアアアアアッ!』


亮一郎が絶叫をあげる。それも無理のないことでこれは例えるなら全身の血管に穴を開けられてそこから無理矢理血液を吸い上げているに近い。


『────告げる。』


だがそれでも英雄は止まらない。


『汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!』


その時妙な異変が起きた。魔法陣上空に留められたエネルギーからか細い線の様な魔力が亮一郎に流れ始めたのだ。


『星の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!』


そして知る者たちですら誰も知らない詠唱が始まろうとしていた。


『誓いを此処に!』


『我は常世総ての善と成る者。』


『我は常世総ての悪を敷く者。』


『汝三大の言霊を纏う七天』


ようやく祝詞が終盤に差し掛かったその時


『──されど我は万能の願望器を求めず。』


『我が望むは星の秩序ただ一つ。』


『名誉を望まず、名声を望まず、根源を望まぬ。』


『我が寄る辺の神は常世思金神オモイカネ。』


『神との契りを呼び水に此処に契約を果たす。』


そう告げると亮一郎の全身から青色の漢字の羅列が浮かび上がり光球へと吸い込まれる。それは知る者が見れば【神格】が発動した際に出る物と一緒だということに気付くであろう。


『此処に代価は支払われ契約は成された。』


そう亮一郎が叫ぶとその全身から大量の血液が溢れ出した。


「がはっ!?」


それは地に宙に魔法陣を拡張する様に新たな陣を描いていく。


そして亮一郎の《亜空庫》から大量の魔石が溢れ出し新たに描かれた陣達へと捧げられていく。


そして亮一郎は血に塗れ霊力の大多数を消耗して朦朧とする意識の中、最後の祝詞を紡いだ。


『星巡る大輪廻の輪より来たれ、天秤の守り手よ!』


その瞬間部屋の中は光に包まれた。


「くっ…」


永遠に続くのかと思われる程に強烈な光が治ると部屋の中には二人の男がいた・・・・・・・


一人は勿論我らが英雄たる鈴木亮一郎。

そしてもう一人、背中の半分程にまで届く灰色の髪に先程まで魔法陣の上に置かれていたバルムンクを持つ2m弱程の身長を持つ大男。


地に塗れ倒れ伏している亮一郎に向かって男は問うた。


「すまない。お前が俺の契約者か?」




この日、世界が湧いた。


─────────────────

【TIPS】

本来のシステムアシストされた英霊召喚術式の解禁条件は

①奉納された神器の数が40を超えること。

②【No.050 万物二分天秤 ライブラ】が奉納されている。

この二つの条件のいずれかが満たされることである。

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