命を燃やす蛮賊の竜 その四

この戦いが始まった時、俺は絶望に満ちていてこんな奴には絶対に勝てないと思っていた。だが何でだろうな。今はこいつに勝てる気も負ける気もしなくてただ勝ちたいって考えている。

いつから俺は戦闘狂だったんだ?生まれつきだったりするならお袋にちょっと謝りたい気分だ。


未だに呻いている奴の方へ助走をつけて駆け出し奴の直前で一気にジャンプする。


「死ねぇやオラァッ!」


このまま奴の背中に着地すればその熱で脚が焼け落ちなくても大火傷を負うだろう。かと言って水をばら撒いてまた水蒸気爆発ては堪らない。だからこうする。


「その傷痛むんなら治してやるよ!ただしもっと大怪我負えや!」


着地の直前に奴の背中目掛けてポーションの瓶を二つ投げそれぞれの脚で踏み抜く。


“ジュッジュジュジュー”


靴底が焼けてそのまま俺の足の裏も焼ける。だが間に入ったポーションが多少なりとも熱を冷まし、序でに俺の足裏も治してくれる。


「歯ぁ食いしばれ!」


“斬!”


かなり深く斬り込んだ。このまま行けば失血死してくれるかも知れない。

だがこの程度で何とかなるボスじゃ無いだろう。だから。


「二枚おろしにしてやるよ!」


“ズブブブッ”


奴の中で刃を滑らせ傷口をより深く致命傷へとさせていく。


「ジャアアア!?アアアッ!?アアッ!」


背中から首に向かって思いっきり開いてやったら今までと比較にならない叫び声を上げながら傷口からバカみたいな量の血が噴き出してきたので《虚空玉》で消して視界を確保する。


「ジャッ!」


デタラメに暴れた奴の爪が運悪く俺の腹に突き刺さる。


「悪ぃな。こちとら神様に守られたんだよ。」


【神格】発動によりノーダメージ。


「修復したって間に合わねぇだろ。…いやそんだけダメージがデカけりゃエネルギーが足りねぇか?まあ、どっちみちお前はここで終わりだ。」


見れば尻尾の先から身体が少しずつ光になってきえて…


「あ?」


まて、おかしい。いつもモンスターが死ぬときは光の粒子になって空気中へ解けて消えていくのに今こいつの身体は尻尾の矢先から順々に光になりそれがそのまま頭部の方へ流れている。まるで減った分のエネルギー・・・・・・・・・・を吸収している・・・・・・・みたいに。


「っ!おまっ。まさか!」


「ジャシャッ!」


やりやがった。こいつ自分の身体をリソース・・・・・・・・・・にしてエネルギーを確保してやがる!


「ジャッ!」


「ぐうっ」


首元にいた俺を右腕で抑えつけて逃げられなくして確実に攻撃を当てる気だ。

見れば奴の口には戦闘開始時から一度も見たことの無い程にエネルギーが集まり炎の輝きが閉じているのに皮膚越しに見て取れるほどに増している。

押さえつけられているのもあって首筋に突き刺さった太刀は抜けない。精々ジタバタ動くのが関の山だ。


「くそっ離せ!」


どうする!このまま行けば良くてこいつと相打ち。悪ければ俺だけ焼かれて死亡だ。死にたく無いなら考えろ!生きる術を考えろ!

【神格】はまだ二回ある。だがあれは致命傷になる攻撃を一度防ぐだけだ。継続して致命傷に相当するダメージを何度も喰らえば直ぐに尽きる。

水はダメだ。この超至近距離でまた水蒸気爆発が起きれば確実に死ぬし起きない程度の量じゃ蒸発させられて終わりだ。

超ねっとり餅で口を塞いでもあの熱量じゃ炭になって終わりだ。

煙玉、激ウマ兵糧丸は使い物にならない。

霊術は《虚空玉》はあれだけダメージを受けていれば多少は耐性が落ちているかも知れないがその程度であれを倒せるわけもない。切り札の《虚空纏》は太刀が無ければ使えない。

サバイバルナイフや短剣じゃ奴に弾かれる…まてよ?


一つ閃いたことがある。だがこれは完全に賭けであり成功する保証なぞ一切無い。だがここでこのまま無抵抗で死ぬ気も毛頭無い。


「だったらやるしかねぇだろ!《虚空玉》《虚空玉》《虚空玉》《虚空玉》《虚空玉》《虚空玉》《虚空玉》!」


残りのなけなしの霊力を片っ端から消費して奴の首に向けて《虚空玉》を馬鹿の一つ覚えみたいに連射しまくる。


「ジャジャ」


それを俺の最期の悪足掻きと見たのか奴が最初の時みたいに嘲笑うような声を出す。


「(こい。)」


ドスアングラスの喉元で集まるエネルギーがさらに輝きを強めていく。

あれ程の熱量では仮に【神格】が三度発動しても凌ぎきれるものでは無い。三回助かって四回目で死ぬ事だろう。


「(こい、こい。)」


その間も俺は絶え間なく《虚空玉》を連射し続けている。


「(こい、こい、こい!)」


奴の身体は既に下半分は完全にエネルギーへと変換され俺を押さえつけていない左腕もたった今その全てがエネルギーとなり口の中へ消えていった。


そしてついに奴が口の中にエネルギーを貯めるのが終わった。


「ジャッ」


己の勝利が確定し笑い声を漏らした奴が喉元からゆっくりとその力を解放しようと口を開けようとしたその時


「…!来た!」


説明があったわけじゃ無い。わかる何かがあったわけじゃない。ただ感覚でそれが来た、そんな様な気がした時俺は既に腰のベルトからサバイバルナイフを引き抜いていた。


「《虚空纏》ぃぃぃ!」


サバイバルに莫大な量の属性の霊力が纏わり付き、溢れ出た霊力が刃とそれ以外の境界線を伸ばして行き、まるでそれは一本の小太刀と言えるほどにまで伸びた。

俺の全霊力・・・を注ぎ込んで抜きはなったそれに限界まで力を込めて奴の首に向かって振り抜く。


「これで、終わりだああああっ!!!」


“スッ”


拍子抜けする程あっさりとサバイバルナイフから伸びた《虚空纏》の刃はドスアングラスの首を真っ二つに斬り裂きその内側に溜め込まれていた奴の生命エネルギーすら注ぎ込まれた焔の塊を吸い込み虚空へと消えた。


瞬刻思考の中、跳ね飛ばされた奴の首が驚愕に目を見開き俺を見つめていた。

そしてゆっくりと俺の姿をその目に焼き付けると「ジャッ」と笑って光の粒子となって消えていった。


「………」


最期の笑い声、俺には何を思ってあんな顔をしていたのかさっぱりわからない。

だが子供の頃、あんな顔を毎日の様に見ていた。


“また会おう”


そんな風に友達と笑い合っていた時に良く似ている。


「…俺は二度とお前の面何て見たくもねぇよ。」






《ユニークボスモンスター【蛮賊竜 ドスアングラス】を討伐しました。》

《レベルが上がりました。》

《【称号】『蛮賊竜を制し者』を獲得しました。》

《【称号】『ダンジョン踏破者・Ⅰ』を獲得しました。》

《【称号】『ダンジョン単独踏破者・Ⅰ』を獲得しました。》

《【称号】『一なる英雄』を獲得しました。》

《【称号】『ユニークスレイヤー・Ⅰ』を獲得しました。》

《【称号】『刹那の勝者』を獲得しました。》

《ユニークボスモンスターの初討伐報酬として【伝説箱レジェンダリーボックス】が贈られます。》

《ユニークボスモンスター討伐報酬として【乱数箱シャッフルボックス】が贈られます。》

《ダンジョンソロ踏破報酬としてステータスポイントを5ポイント贈られます。》

《ユニークボスモンスター討伐報酬としてステータスポイントを50ポイント贈られます。》


《ワールドアナウンス》

《人類で初めて依り代以外のユニーク称号を獲得した人物が現れました。》

《これにより称号スキルが解禁されます。》

《これにより天啓システムの稼働を開始します。》


《称号スキルを獲得しました。》

《ユニークモンスターを討伐した事により【神格】が一段階上昇しました。》


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【TIPS】

【神格】は一瞬の超威力攻撃などを防ぐのには向いているがギリギリ致命傷の攻撃を継続して受ける分には非常に相性が悪い。

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