第14話 検証勢さんと出会いました。スライムとは一向に出会えません。


「すらいむ~すら~いむ~」


 口ずさみながら夜の草原を歩く。

 時折、ランタンの光に引き寄せられるのかグレイウルフが襲って来るけど一刀一振りでフィニッシュ。

 ミスターラビットさんは構えなきゃ戦闘にならない。ってかそもそもポップ数が少ないっぽい。あんまり見かけない。

 全体的に夜の方がエンカウントが少ない気がするね。


「スライムいないんかなぁ?」


 きょろきょろ眺めながら歩いているんだけどそれらしき物体は見つからない。

 結構遠くまで歩いてきた気がするんだけどなぁ。


「ま、行けるとこまで行くかぁ」


 とことこ。とことことことこ。むぎゅ。


「ぎゃっ」


「ん?」


 なんか踏んだっぽいから足下を見ると、人が俯せに倒れていた。


「あ、ごめんなさい」


 さっと足をどけるとその人はゆっくりと体を起こした。


「いえいえ。こちらこそすみません。こんなところで寝そべってたらそりゃわからないですよね」


 襤褸の貫頭衣に、草のマント? 顔も泥塗ったくってるし、完全にサバイバルの恰好に見える。

 ぼっさぼさの黒髪でたぶんヒューマン。プレイヤー。


「こんなとこで何してたんです?」


「検証ですね」


「はぁ」


 どうやら検証勢の方らしい。いや、勢と言うほどやりまくってる人なのかしらないけど。


「昼にこの辺りでエリアボスと遭遇したという情報が結構あったので張り込んでました」


 お、エリアボス。情報欲しいかも。


「なるほど。もしよかったら教えて欲しいんですけど、このゲームのエリアボスってどうゆうタイプです?」


「ん?」


 首を傾げる検証勢さん。けどしばらくして思い至ったのか、あぁ、と気がついてくれた模様。


「変異種か上位種ですよ。ユニークネームドとかレイドとか強制インスタンスとかじゃぁないです」


「おぉ、そうなんですね。って事は犬か兎かスライム?」


「スライムですね。キングスライム」


「でっかいやつ?」


「でっかいやつです」


「それ、伝統的に仲間を呼ぶやつですよね」


「ですねぇ」


「・・・・・・やっぱりここの運営優しくない」


「しかもキングも取り巻きもじゃんじゃん魔法撃ってきますから首刈りさんとは相性悪そうですね」


「ん?」


「ん?」


 はて? 知り合いだろうか?

 まぁ、確認するスベはある。


「いざ?」


 柄に手を掛けてみる。

 検証勢さんは笑って手を振った。


「あぁ。違いますよ。お昼に決闘したでしょう? その時掲示板で実況がありまして。すでに有名人ですよ」


「あぁ~そういうことかぁ。その掲示板ってどこのです?」


「システムウィンドウから開けるゲーム内公式コミュニティ掲示板ですね」


「あ、そんなのあるんですね」


「おや? ということはまだチャット表示もオンにしていませんね?」


「どういうことです?」


「ワールドチャットとエリアチャットはデフォルトだと表示オフなのです。表示オンにするにはコミュニティウィンドウから設定で変更しないと」


「あぁどおりで。MMOにしては静かだと思ってました」


 説明された通りコミュニティを開く。チャットと掲示板が表示され、右下に設定ボタン。ささっと設定を変える。


 ぽーんぽーんぽぽぽーん


「あぁ、この煩いぐらいの通知音。MMOって感じ」


「わかります。今ここで遊んでる別の人が居るんだなって感じられて良いですよね」


「そうですそうです。まぁ、もう通知音は切りますけど」


「ですね。町中ならまだしもフィールドで鳴らしとくのは自殺行為に近いですし」


「あ、そうだ。スライムのエンカウント条件とか、棲息地とかわかります?」


「はて?」


「全然エンカウントしないんですよね」


「あぁ。なるほど。ソロだとそうなりますよね」


「え?」


「三分動かないと魔法が飛んでくる仕様です。で、飛んでくるとスライムがそこにいると認識できるようになる」


「うわ。罠ですわぁ。そりゃ探し回っても見つからないわけだわ」


「お役に立てたようで何より」


「あれ? でもそれってつまり、スライムは定点狩りってことですよね? お仕置きエネミーとか居ない感じです?」


 すると、検証勢さんはなぜか驚き顔をした。


「なにか?」


「キングスライム、エリアボスじゃなくてお仕置きエネミーの可能性に思い至りました」


「あ、なるほど。もしかして他のエネミーも乱獲したら対応したお仕置きエネミーが出てくるのかしら?」


「可能性はありますね。・・・・・・もしよかったら検証手伝って頂けますか?」


「ん~~まぁいいですよ」


 レベル上げにも丁度良いしね。


「ありがたいです。パーティーどうしますか?」


「どちらでもお好きに」


「じゃぁなしでいいです。このゲームパーティー組んでなくてもヒールとかバフとか掛けられる仕様なので」


「あ、そうなんですね」


「えぇ。だから辻ヒーラーロールとかできますよ」


「あ~ありがたいやつ」


「では何からいきましょう? 各種エンカウント増加バフのスキルと薬揃えてきてるのでどれでもいけますよ」


「あ、その前に名前お訊きしても? わたしエコです」


「あ、すみません。ツネオミといいます」


「ツネオミさんですね。あと武器は?」


「魔本です。アタック、バフ、ヒール、アーツは一揃い揃えたので支援は任せて下さい」


「ありがたいです。基本一振りですけど、うじゃうじゃこられるとさすがに避けきれないでしょうし」


「僕はまだ一撃で倒せる火力出せないので凄いですね」


「種族特性のクリティカル頼みですけどね。とりあえず狼からいきましょう。夜の兎は範囲も火力もきついので」


「了解です。では狼寄せの笛」


 検証勢さんが笛のアイテムを出して吹いた。音がしないけど犬笛とかそういう類なのかな?


「「「「「グルルルル」」」」


 おぉ。どんどんやってくる。これはやりごたえありそう。


「ふふ。いざ! 参る!」

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