第11話 ちょっとログアウト休憩です。トラ先生はなかなか厳しい。


 ―― Steam Magi Technika からログアウトします ――


 ―― またの御利用をお待ちしております ――


 一瞬ブツリと視界が切れて、元に戻るとそこは見慣れた4畳半円卓袱台付き和室虎柄猫を添えて。


「トラ先生ただいま~」


 そのままドサリと畳の上に倒れ込む。


「おかえり、木霊。お楽しみだったようだね」


 卓袱台の上からステキヴォイスが降ってくる。

 トラ先生はいつものように卓の上でごろごろしてるらしい。


「うん。たのしかったー。魔法も斬ってやったし。・・・・・・あぁぁでもスライムに殺されたの~。絶対許さぬからな~」


 ぐるぐる笑う声が聞こえる。どこに笑い所があったんだろう?


「粘体生物如きに遅れをとったのかね」


 うごごごごご。相変わらず的確に嫌な言葉投げかけてくるなぁ。トラ先生きびちい。


「前後同時に魔法投げられたらそりゃ死にます」


「鉄砲玉なら避けられるのに魔法が避けられないは道理ではないのではないかな?」


 うぐぐ。たしかに。「刀剣舞踏」の世界でなら間違いなく前後から銃弾が飛んできても避けられるけども。


「つまり、斬ることに固執して、視野を狭くし、思考を鈍らせ、殺されたと。未熟窮まりないのではないかね?」


 ・・・・・・。そうだよなんで斬ろうとした私。

 左右に逃げられない渓谷とかだった訳じゃあるまいし。


「ううぅぅぅ。休憩したらリベンジしてきますよぉ」


 というか私、別に刀の“道”を進もうとしてる訳じゃないんだけどなぁ。


 トラ先生はたまにこういう“道”の話をしてくることがある。

 道とはすなわち生き方、心の在り方、境地境涯。ってトラ先生が最初に言ってたけど、そんなの知ったこっちゃない。

 私はちょっと日本刀が好きなだけ、ちょっとチャンバラが楽しいって思ってるだけのJK。

 刀理だとか刀道とかそういう理論を喋られてもね。


「一期一振が座右の銘なのは変わらないのだろう?」


 心を見透かしたかのように言葉を投げかけないで欲しい。


「一つの期には一振りあれば事足りる。そう信念を持ったのだろう?」


 ・・・・・・そうだ。私はそれがどんな“期”であろうとも得物の一振りで道を斬り開くことを目標にした。

 “一期一振”という言葉に出会った時、私はなぜかそんな意味だと誤解して座右の銘とした。

 本当は「人生において唯一の機会に仕上げられた至高の一振り」という意味で、とある太刀につけられた号でしかないのに。


 なお、マイベストフェイバリット日本刀も一期一振。

 本物は宮内庁管理らしくて滅多にお目にかかれないけど。


 それにしてもこの言葉に出会った当時の私は一体何を考えていて、何を感じていたのだろう?

 もはや今の私はなんにも覚えてないしわからないのだけど、凄い感動したんだろうなぁとは思う。

 座右の銘にするぐらいだし。


 座右の銘っていうのは元々父さんの口癖だった。

 俳優、演者を職業にしている父さんは演技をする人間には確固たる柱がいるってよく言っていて。

 父さんの柱が座右の銘、らしい。で、父さんの座右の銘がなんなのかってのは全然語ってくれないけど。

 父さん曰く口に出すと陳腐になるから言葉に乗せないんだって。


 それなのにもかかわらず私には事ある毎に口に出して思い出しなさいって言うんだから理不尽。

 でも、まぁ、感謝はしてる。おかげでモヤモヤ悩むことが少ないから。

 悩むぐらいなら斬ればいいのだ。


「さって。雑事やってきてもっかいログインしよっかな」


「揺れは修まったようだね」


「ん。平常平常。トラ先生あんがと」


 一期一振。

 これは道じゃなくて、理でもなくて、生き方在り方なんて大それたものでもなくて、ただの私の処世術。

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