第7話 決闘です。一振りで屠りますよ。


 ―― Ready ――


 ―― Fight! ――


「死ねぇぇぇぃぃいい!!」


 決闘開始の合図と共に気合いの掛け声を口にしながらカッ跳ぶ。

 掛け声が物騒?

 「刀剣舞踏」なら日常茶飯事。つまりいつものこと。


 一歩。


 敵はまだ動く気配なし。というか、びびってる?


 ――二歩。


 まぁよし! 後衛に届く間合いに入った!

 思ったより跳べるぞこのゲーム。


 魔本持ちの斜め前で足を付き軽く跳び掛かる。

 今の背の小さなアバターだと跳ばないと首が届かないのだから仕方なし。


「ひっ」


 悲鳴を上げる暇があるなら攻撃しなさいな。


 ぶおんとセーバーを横に薙ぐ。その刃はきっちり魔本持ちの首に滑り込みするりと通り抜けた。

 はい。すぱっと一人目。


 ―― critical! Deadly! 1082 ――


 4桁! いいね! クリティカルだけじゃなくて致命打の判定もあるのステキ!


 トタッと着地してそのまま横の弓持ち目掛けてもう一回ジャンプ。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ」


 魔本持ちが絶叫してる。

 どうした少年? 痛覚は決闘受諾時に最小設定にしておいてあげたはずだぞ?

 かわりにゴア表現最大設定にしておいてやったけどな!


 なので今首をカッ斬った魔本持ちはどばどば血しぶきが上がっている。

 うん。時代劇チックな血糊。


「せいっ」


 魔本持ちの絶叫にひるんだのか敵が誰も動かないので弓持ちの首も刎ねとばし、そのまま胴体を蹴り飛ばし魔本持ちにぶつけて戦線から弾き飛ばす。


 ―― critical! 573 ――


 ん、ちょっとずれてたらしい。

 致命打判定シビアだなぁ。

 でも、弓持ちもHP1になってるし問題なし。


「いざ。いざいざ! 素っ首刈られたくなければ戦え! 武器を振れ! それでも尚殺すがな!!」


 あまりにも一方的だとつまらないし鼓舞してみるけど望み薄だなぁ。


 とりあえず構え直しながら戦況分析。


 槍と盾が近くにいて、片手剣二人がちょっと遠いところにいるのだけど、槍と盾の子は戦意喪失してる感じ。

 さっきの鼓舞でなぜか盾の子が尻餅ついて後退ってるし、槍の子は構えもせずに震えている。


 ん~、これは思った以上にメンタルが弱いぞ~?


 片手剣二人はといえばやっとこさこちらを向いて構えて、でも信じられないって顔で固まっている。


「しゃぁなしかなぁ」


 とりあえず居ても邪魔なだけなので槍持ち目掛けて踏み込み跳び込む。

 喉元目掛けて刃を突き入れそのまま弾き飛ばす。

 HP1残る使用上首が切断されることはないからそのまま押し込めば胴体付きで吹っ飛ばせるのだ。さっきわかった。


 んで、盾の子なんだけどマキナだからかいまいち首がどこかわからん。

 なんでこの子はこんなずんぐりむっくり系ドラム缶体型のボティ作ったんだ。いや、見る分にはかわいらしいけど。


「さて」


「ひぃぃぃごめんなさいごめんなさいごめんさいごめんなさい」


「痛くないから大丈夫よ」


 ということで上段に構えて袈裟斬り。


「カッタイなぁ」


 ずいぶんと硬いが斬れないことはなかった。ずんばらりと斜めに胴が分かれる。

 久々に斬鉄したわぁ。もう少し硬かったら斬れなかったねこれ。


 そして、マキナの斬られた体からどばどばと噴出する水・・・・・・。

 水? え? なに? マキナって動力どうなってるの?


「はい、次。首謀者と実行者の二人の番ね!」


 そう宣言して切っ先を二人に向ける。


「ち、チートだ!」


 勘違い勇者系の子が怒鳴った。

 ちょっと気になってギャラリーと化してるプレイヤー達を盗み見ると呆れてるの半数、睨んでるの半数、物欲しそうなの極少数。


 ん~思ってるよりプレイヤー層若いのかなぁ。


「チートじゃなきゃ初期武器で一撃とか絶対あり得ない! 俺達のレベルは5なんだぞ!!」


 そういえば、ちょっと疑問なんだけど、開始一時間ぐらいしか経ってないんだけどそんなにレベルあがりやすいのかしら?

 MMOは倍々で必要経験値増えてぐイメージだから初期はあがりやすいのかな?


「俺たちは最速最強なんだ! 負けるわけないんだ!! ふざけんな!!」


 うぅむ。あ、そういえばさっきGMいたよね? お、まだいる。

 終わるまではいてくれるかな? いろいろ聞きたい。


「シカトすんなあああああ」


「うっさい! 喋る暇があるならかかってこんかい!!」


 と、いうことで戦闘再開。

 二人の元目掛けて駆け寄る。


「やああああああ」「うおおおおお」


 息あわなすぎ。

 なんで一人が上段振り下ろしの構えで掛けてくるのにもう一人が中段刺突の構えなのよ。

 さてはなにも考えてないな?


「残念だわぁ」


 足を止めて二人が近づいてくるのを待つことにした。

 どたどた足音をたてながら走ってくる二人を見て、悲しくなる。

 ゲームの中なんだからもっとスマートで機能的な走り方とかイメージすればいいのに。


「はぁ・・・・・・」


 とりあえず、上段に構えて走ってくる子の両足を瞬時に斬り跳ばす。


「え??」


 横薙ぎに振り切った勢いそのままにぐるっと一回転して刺突の構えの子の懐に入り込んでこちらも両足を斬り跳ばした。


 足が無くなってどさりと倒れ込む二人。


「なんだこれ!? なんだこれなにしやがったクソがぁぁ」


「相手をよく見ないからこうなるのよ。目を鍛えなさい、目を。見えてれば大体のことは何とかできるんだから」


「ふざけんなチーターがあああ」


「ふざけてるのはどっちよ」


 ちょっといらいらするので両腕を切り落とす。


「ちくしょおおお、ちくしょおおおお」


 それにしてもタフね。四肢切り落としたのにHPまだ残ってる。

 もう一人は・・・・・・足斬り跳ばした時点でHP1になってるわね。


「で、反省は?」


「だれがするかああああ」


「あっそ」


 仕方ないので髪を掴んで上空に放り投げた。


「うわああああああああああ」


「そーれ」


 落ちてくる瞬間に蹴り上げてお空の旅へ。

 リフティング。リフティング。


「ひとでなしいいいいいいおれがなにをしたあああ」


 元気なこと。それにしても蹴りのダメージが低い。全然HP削れてない。


「女の子を脅そうとしたり、むりやり言うことを聞かせようとしたり、無理矢理かわいがりしようとしたり。どれもだめよ~」


 ぽーんぽーんとダルマになった勘違い勇者系ヒューマンくんをカチ上げ続ける。


「うおおおおあああああううううおれがわるかったああああごめんなさあああああいいいいいい」


「よろしい」


 落ちてきた彼の胴体を串のように指してHPを削りきる。


 ―― You Win ――


 システムアナウンスと共に体が決闘開始位置、決闘開始状態に戻された。


「ふぅん。こうなるんだ」


 決闘でのリザルトは特にない。そういう設定にしておいてあげた。


 それにしてもこの決闘システム受け手に有利だ。

 勝利設定、痛覚設定、ゴア表現設定、勝利品設定、時間制限を受け手が決められる。

 つまり、挑発してふっかけさせれば幾らでも巻き上げられる。

 ちょっと考え直した方がいいんじゃないだろうか?


「エコさん」


「はい?」


 誰だ? まだこのゲームで名前教えた人なんかいないぞ。ってGMか。そりゃ知ってるわ。


 GMはなんかわかりやすく美形だった。

 たぶんヒューマンで金髪碧眼のモノホン勇者様って感じ。白い全身鎧に赤いマント装備というこの格差よ。



「やりすぎです」


「あ、はい」


「故意に過度な残虐行為を行ったプレイヤーはイエローカード一枚です。三枚でレッドカードになって三日間のログイン停止になるので気をつけて下さい」


「はぁい」


 まぁしょうがないね。「刀剣舞踏」ならダルマ刑とかまれによくあるけど、ここ「SteamMagiTechnika」だしね。


「あと、こういう時は決闘じゃなくてGMコールして頂けるとありがたいです」


 あぁ、ログ漁ったのかな。


「ん~サービスイン初日ですし、プレイヤー間でどうにかできることはプレイヤー間で解決した方がいいかなって」


「いえ、こういう問題の洗い出しもβテストの課題ですので“是非”にGMコールして頂きたい」


「わかりました」


 苦笑するしかないね。完全に私面倒なプレイヤーじゃん。


「さて、あちらですが」


 といって視線を向ければ、青い顔でガタガタ震えてる六人。

 女の子こわいとかブツブツ言ってるけど、トラウマでも植え付けちゃっただろうか。


「ハラスメント行為でイエローカード一枚なのですが・・・・・・今は聞こえなさそうですねぇ」


「ですねぇ。あ、そうだ。GMさん」


「はいはい?」


「レベルって一時間で4もあがるもんですか?」


「あがりますね。当ゲームは10刻みで必要経験値が跳ね上がりますので、チュートリアルクエストだけで10ぐらいにはなります」


「なるほど。あと、初期服なんですけど、もう少し裾長くして下さい。色々見えそうですよ」


「それは多くのプレイヤーから既に要望が出ていますのでグラフィックが完成し次第オンメンテで反映されます」


 さすが対応が早い。よきかな。


「あとあと、決闘の仕様、受けて有利過ぎませんか?」


「それは先程の決闘で運営内でも疑義が発せられたので検討中です」


「おぉ。お疲れ様です。もう・・・・・・ないかな?」


「では、今後も「SteamMagiTechnika」をお楽しみ下さい」


 どろんと消えるGM。一緒にあの六人組も消えたけど、GM部屋でもあるのかな?


 さて、服買いに行こうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る