第2話 誕生日ですよ? プレゼントは新作です。


「うぅん・・・・・・。模様替えでもしようかなぁ」


 フローリング6畳一間の私の部屋は友人に言わせると女の子らしくないそうだ。

 シングルベッドはまぁ、普通。

 対面の壁には刀剣とか剣術とか体の鍛え方とか食事バランスとかなんかいろんな本が雑多にしまわれた本棚がひとつ。

 その隣には勉強机。最近勉強してないから埃かぶってたりする。

 その隣にはVR用のパソコンが置かれた机と床擦れしないように設計されたVR用の椅子。

 斜め向かいの壁は窓があって、私の好きな色な薄緑色の厚手のカーテンが掛かっている。

 その窓の下には太刀が一本飾られている。といっても本物ではなく模造刀。

 ついでにいうと、寝かせて置いて飾るタイプではなくて、立て掛けて飾るタイプ。


 うん、確かに女の子の部屋ではないかもしれない。

 でも、刀剣が趣味な女の子ならこんなもんじゃないかなぁって気もする。

 あ、そもそも刀剣が趣味な女の子が珍しいって?

 一昔前にはそれなりにいたらしいんだけどねぇ。

 まぁ、それはそれとして。


「今、長屋風だし、武家屋敷風とか? でも、ストレージ容量が足らないか」


 模様替えしようと思ったのは現実の部屋じゃなくて仮想空間の方。

 ここ一年ぐらい同じだからそろそろ飽きた。


「ストレージ交換は地味にお金かかるしなぁ。自分でやると保証対象外になっちゃうし」


 VR用の椅子に座って無意味にグルグル廻りながら考える。


 今使っているVR用のヘルメットについてるストレージは120ゼタなのだけどこれだと6畳の凝った部屋をエディットするだけでいっぱいいっぱいになってしまうのだ。


「トラ先生分の容量は残しておかないといけないしなぁ」


 ぐるぐる。ぐるぐる。

 意外と楽しい。

 私の三半規管けっこう強い。


「木霊。夕飯の時間だ」


「はぁい」


 一旦考えるのを止めて部屋を出る。

 廊下に出てきて違和感。なんだろうと首を捻ってる間に気がついた。


「リビングの電気ついてる? なんで?」


 我が家の有能管理AIトラ先生は節約家だ。

 間違っても誰も居ない部屋の電気をつけっぱなしにすることはない。


「父さん・・・・・・は撮影終わってないはずだし、お母さん? でもこの前サービスイン直前だからしばらく帰れないって」


 廊下でブツブツ考えていたらリビングのドアが開いて、お母さんがにゅっと顔を出した。


「何してるの? ご飯できてるわよ?」


「お母さん!? なんで!?」


 盛大に溜息を吐かれた。なにゆえ?


「いいからはやくいらっしゃい」


「は~い」


 なんか釈然としないままリビングに入って、テーブルの上にのってるケーキで納得した。


「今日、私誕生日じゃん」


 なんで気づかないかな私。十六歳いえーい。


 ―― 一時間後 ――


「ごちそうさまでした~」


「はい。おそまつさまでした」


 久々に食べたけどやっぱりお母さんの手作りはおいしい。

 私も料理はたまにするけど、何が違うのかよくわからない。

 同じレシピの筈なんだけどなぁ。


「そうそう。はいこれ。誕生日プレゼント」


 そう言って、手渡されたのは、カード?


「なにこれ? プリペイド?」


「ダウンロードカードよ。明日12時からβテストで、アバターエディットはもうできるわ」


「・・・・・・またこのパターン?」


「なんかバグ見つけたらメッセとばして。音声よりテキストの方がいいわ。毎回言ってるけど」


「はいはい。デバッグぐらいやりますよっと。丁度いつもやってるの長期メンテ入っちゃったし」


「あら? そうなの?」


「そうなの。だから暇ではあったんだけど」


「じゃぁ丁度良かったわね。とりあえず貴方向けのアピールするなら、今回、魔法も斬れるわよ」


「え?」


「前に言ってたじゃない。あのアニメみたいに魔法斬ってみたいって」


「・・・・・・言った、かな?」


「プログラマーにあのアニメ好きな人が居て、すっごいシビアだけどできるように組んだらしいわ」


「それ、普通にやってたらできないやつじゃん!」


「貴方ならできるわ。・・・・・・たぶん」


「えぇぇ」


「あと、初期武器に片刃の刃物入れてって言っておいたからたぶんあるわ」


「そこは日本刀ってちゃんと言っておいて欲しかったなぁ」


「西洋ファンタジーだから初期武器に日本刀はちょっと難しいのよね」


「ぐぬぬっ」


「じゃ、よろしくね。そろそろ会社戻らないと」


「あ、そうなんだ。わざわざありがとう」


「いいのよ。・・・・・・ちゃんと生活するのよ?」


「トラ先生いるから大丈夫」


「それもそうね。じゃ。また」


「うん。いってらっしゃーい」


 お母さんが家を出て行くと、急に静かになった気がした。


「にゃにゃーん」


「・・・・・・トラ先生、無理しなくても」


 渋くて低い男性の声でにゃにゃーんは笑っちゃうから止めて欲しい。


 生態アニマロイド端末のトラ先生が私の足をすりすりしてくる。


 ・・・・・・もふい。


 ロボットなのに柔らかくてもふもふしてるのが売りの生態アニマロイド端末は私が産まれたときに両親が用意したもので、ちょっと色々と劣化してきているのだけど買い換える踏ん切りがつかなくてこのままになっている。


「さて、どうするのかな?」


「とりあえずアバターエディットしようかな。あと公式サイトがあれば予習」


「ふむ。・・・・・・存在するようだ」


「そか。じゃぁ、とりあえずターミナルで予習してからキャラクリしよ」


 どんなゲームなんだろうとちょっとワクワクしながら自室に戻った。 

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