一期一振 -ドワーフ褐色ロリ巨乳幼女が征く、首刎ねプレイ日誌-

天野平英

SteamMagiTechnikaへようこそ

初ログインしてみましょう

第1話 突然ですが長期メンテナンスです。


「いざ。いざいざ」


 東は江戸から西は京へと敷かれた大きな途のどまんなか。

 平らかになるまで踏み慣らされた土の大通り。


 そんな処でも、不用心にぶらぶら歩いていたのが悪かったのだろうか。


 擦れ違い様に鯉口をカチャカチャ鳴らす輩と出会ってしまったので、とりあえず首を刎ねることにした。


「いざ、いざ、尋じょ――」


 振り返りざまにそのまま抜刀して首を刎ね飛ばした。

 するりと別かたれた首は空を跳び、胴はドシャりと地面に倒れ込む。

 少しして、ゴトリと首が地面に落ちたのだけど、なんか驚きの表情で固まっていた。


 このヒトがどんなことを考えて私に喧嘩売ったのか知らないけど、「いざ」とほざいておいて斬られる覚悟がないとか意味がわからん。

 小娘だから斬られるより先に斬ってやるとでも思っていたのだろうか。

 まぁ、死人に口なし。考えたところで無駄。どうせただの「モブNPC」だ。


 そうそう、と思って視線を移せば、既に死体は消えていて、地面に残っているのは先ほどのごろつきが刷いてた刀のみ。

 何となく拾って鞘から抜いてみる。


「うん。ド三流の数打だね。ガタガタじゃん」


 こんなでも鍛冶屋に持っていけばそれなりに売れる。

 まぁ、潰して別の鉄製品になるのが定めだ。


 とりあえず、近場の宿場町に寄って売っぱらうかと思い「インベントリ」に放りこみ、そそくさと歩き出す。


 それにしても、この世界のヒトは「いざ」って言葉を口に乗せすぎじゃないかとたまぁに思う。

 そりゃ、私だって口にすることはある。

 刀剣を振るう者からするとこんなに便利な言葉はないから。


 擦れ違い様に「いざ」と言えば決闘の申し込みだし。

 構えて「いざ」と言えば準備OKの意味だし。

 とりあえず「いざ」と言っている奴は斬り殺してもお咎め無し。


 あぁ素晴らしきかな「刀剣舞踏」

 目についたモノ何でも斬れるという謳い文句は伊達じゃない。

 そこらへんの樹木から、家屋、鋼鉄、大名、朝廷、ほんとに何でも斬って捨てられるオンラインゲーム。

 それが「刀剣舞踏」

 娘の12歳の誕生日にプレゼントするには些か殺伐としすぎてやしないかとか当時は思ったりもしたものだけど。

 今ではおたくの娘さん、嬉々として首刎ねてますよ。


「それにしても、今日はヒトがいない」


 いつもなら、この街道はプレイヤーがそれなりにいるのだけど、今日は全然見かけない。


「なんかあったかしらん?」


 特に思いつかないなぁなんて考えていたら、ポーンとシステム告知音が脳内に響いた。


「なんじゃらほい」


 思考入力でシステムタブを呼び出して見れば、運営からのお知らせだった。


 ――――――  メンテナンスのお知らせ  ――――――

|                           |

| いつも「刀剣舞踏」を御愛好頂きありがとうございます。|

| 告知通り10分後よりメンテナンスを開始致します。  |

| 余裕を持ってログアウトをお願い致します。      |

| なお、メンテナンスの詳細については公式SNSを   |

| ご参照下さい。                   |

|                           |

 ―――――――――――――――――――――――――――


「はっ!?」


 メンテ!? メンテナンデ!??

 見逃した!? そんなバカな!!

 「剣客はお知らせが読めない」とか都市伝説かナニカかと思ってたのに自分がやらかすとかナイわ!


「間に合う!? 間に合うのか!?」


 現在街道のど真ん中。

 ログアウト可能な町村まで全力疾走してもギリ間に合うか。


 私は一もなくにもなく全力で走り始めた。


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ―― 「刀剣舞踏」からログアウトしました ――


「おかえり木霊。ずいぶんと息があがってるじゃぁないか」


 4畳半、畳敷きの小部屋。真ん中にはレトロな木製円形ちゃぶ台。

 ちゃぶ台の上には虎柄の猫が香箱座りしている。

 ほか、なんもなし。白い土壁と木目調の天井が何にも遮られずに見える。

 まぁ、VRのターミナルステーションなんてこんなもんだ。


「はあぁぁつかれたああぁぁ。・・・・・・トラ先生ただいま」


 畳の上に倒れ込んでごろごろ。

 いぐさの匂いが鼻腔をくすぐる。


 ぴょいんとちゃぶ台から飛び降りたトラ先生が私の胸の上に乗っかってきた。


「・・・・・・トラ先生重い」


 トラ先生をどけようと両手で持ち上げる。

 びろーんと伸びるトラ先生の胴体。


 そのまま横に降ろそうとしたけど、しっかり後ろ足の爪で固定してるのか、動こうとしない。


「せんせえぇぇじゃまぁぁ」


 何度かどけようと試みたけどトラ先生は動く気が無いようで、仕方なく私の胸の上に戻した。

 重いけど、しょうがない。


「それで、いったいどうしたんだね」


 トラ先生のダンディヴォイスが心地よい。


「メンテのお知らせ読み逃した」


「ふむ」


 トラ先生が「刀剣舞踏」の公式SNSを開いてくれた。

 さすが先生。有能AI。

 でも、顔の前にウィンドウ開くの止めて?

 近くて逆に見づらいよ?

 グルグル喉鳴らしながら笑ってるからわざとだな。

 とりあえず手を動かすのも億劫だから視線操作。


「はぁっ!!? 長期メンテ???」


 メンテナンスの詳細を見てみれば、そこには大型アップデートのための長期メンテナンスの文字。


「マジぃぃ・・・・・・。一ヶ月inできないとか・・・・・・」


「ふて寝しよ」


 そのまま目を瞑ろうとしたらトラ先生が頬をタシタシ叩いてきた。


「なにぃ?」


「ちゃんと現実で眠りなさい」


「ぐぬぬ。・・・・・・はぁ、わかったぁ。『リンクカット』」


 一瞬の暗転。


 私は現実に帰還した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る