禁断の果実
岡上 山羊
第1話 干物女
外では晴天を
スズメはアスファルトの上をピョンピョンと飛び跳ねて、再度、
やがて、郵便か配送の軽トラックが、スズメのいた13階建てのマンションの前に停車した。スズメは大空に飛び去ってしまった。
次の餌場を求めたのか、巣へと帰って行ったのか?誰一人知る者はいないし、考える事もないだろう。
軽トラックの運転席側のドアは静かに
配送員はマンションのオートロック方式になっている玄関ドア前にある操作パネルの前に立ち、伝票を見ながら "1103" と押した。
"トゥルットゥルッ" という音がスピーカーから聞こえて来たが、中々反応がなく、7回目に音はしなくなってしまった。
配送員は"フーッ"と軽い
同じように呼び出し音がなっている間に、配達員は不在票に必要事項を記入しかけた。
しかし、今度は3回目の途中に、やっと反応があった。
「ハイ、どなた?」
「毎度、お世話になります。丸猫宅配便です。ジャングル書房さんから、代引きでのお届け物です」配送員の言葉を受け、ゴソゴソと何やら支度する様子が感じられた。5秒余り経った
オートロックが付いた13階建てマンションと言えど、敷地面積を
1103号室の部屋の前に向かうと、ドアは
「おはようございます。相崎 智美さんですね?ジャングル書房さんからで、¥3728になります」言いながらも、カーディガンから飛び出ているクリーニング札が気になる配送員だったが、料金を丁度用意してくれていたので、印鑑をもらうと、配送控え兼領収書と商品を手渡すと、
相崎智美は羽織ったカーディガンを針金ハンガーにかけ直すと、ソファベッドに置いていたビニールで
「まさか午前中の、しかも9時半に来るとは…9時~12時指定なんだから、お昼前に来いっちゅうの」智美は誰に聞かせるでもない文句を言いながら、小包を開けた。
「これこれ!ミックス・タイガーの初回限定アルバムCD。欲しかったんだぁ…でも朝からハードロックって気分でもないし…取りあえず
智美は冷蔵庫からヨーグルトを出すと、食器棚からは、鉢のような
「
「あっ、いけない。スプーンがなかったら食えないじゃん」智美はリモコンの一時停止を押して、再びキッチンに行くと、ついでにインスタントコーヒーを入れ、リビングに戻って来た。
「う〜ん、やっぱジャスティン・リップはこの海賊映画のジョー・スワロー役が一番だわ」都心で会社員をして、3年目になる智美は、大学時代から付き合っていた恋人と仕事のすれ違いから、入社半年ほどで別れて以来、次の恋を目指して自分磨きにと、休日はエステサロンに行ったり、ジム通いをしていたが、いずれも三日坊主に終わり、気が付けば、週末は一週間の疲れを癒やす為と、家の中で過ごすようになっていた。たまに学生時代の友人から誘われ、合コンと称しては、出掛けたが、めぼしい相手も見つからず、友人達が、どんどん恋人を作って週末のデートに
無論、まだ恋も結婚も諦め切った訳ではない。しかし "いつか白馬に乗った王子様が!" などとメルヘンチックな考えをしている訳でもない。だからと言って、運命の人は必ずいて、そう言う人とは自然に出会えるものと
気付けば時刻は夕刻も17:45を指していた。
「あぁ、もうこんな時間か?明日から、また仕事なのに、アタシ何してんだろ?」そう言いつつ、スウェットに黒い前空きパーカーを羽織って、マンション下のコンビニエンスストアへと向かった。
買い物かごに720mlのロゼワインとローストビーフ、カップサラダに一人分用のイタリアンドレッシング、スモークチーズとクラッカー、最後に少し悩んで結婚情報誌を入れた。
家に戻った智美は、テレビ番組のドラマを見ながら買って来たものを口に運びつつ、ロゼワインを
「あぁ、このデューク・フジヤマ、カッコいい♡こんな男に言い寄られたら直ぐにでもOKするのになぁ。でも、この人も結婚してんだよね。あぁ、もう良い男は売れ残ってないもんなのかなぁ」智美は逆輸入俳優として売れ始めた男優との愛のやり取りを夢想しつつ、昨夜同様に、いつの間にやら眠りに落ちて行った。
翌朝、目を覚ますと、いつもは7:00に起きる所を、時刻を見ると7:56になっていた。
「ヤ…ヤバ!早く支度しなくちゃ」智美は髪を
「駅に着くのは、急いでも、いつもより15分遅れくらいか。何とか間に合うよね?」左腕の腕時計に目を
「あれ?ここの工場、いつの間に
「何?これ?ここに当てんの?」恐る恐る当てて見ると、改札機は "ピコンピコン" とアラームを鳴らした。
「もう!どうすりゃ良いのよ!」智美は仕方なく券売機で切符を買って、改札機を通り抜けた。
プラットフォームに上がる階段を駆け上がる智美だったが、ここでも違和感を感じた。
「この駅ってこんなに綺麗だっけ?」しかしそんな事を言っている場合ではなかった。智美は必死にホームまで駆け上がった。
しかし、智美はまだ気付いていなかった。自分が今いる世界の本当の意味を…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます