最終章・最後の晩餐

第204話・最終標的

 ファーレン王国へ。

 リリカを倒したライトたちは、旅の最終目的地であるファーレン王国へ向かう。目的は女神フリアエと勇者レイジの完全消滅。

 馬車を走らせながら、ライトは隣に座って腕を離さないツクヨミに言う。


「何度も言うけど」

「わかってる―――フリアエ、勇者レイジには手を出さない―――それ以外で邪魔するのは全部呑み込んでいい・・・・・・・んでしょ―――?」

「あ、ああ……」


 呑み込んでいい。その意味はわからないが、『死』と同義語であることは理解出来た。不死身の特性といい、このツクヨミは全てが規格外だ。

 ちなみに、馬車の屋根には『人形』が横たわっている。落ちないように両手で屋根にしがみつかせ、ファーレン王国に向かっていた。


「もうすぐ、終わる」

「終わったら―――いっしょ?」

「ああ。一緒に暮らすか……それか、どこか落ち着ける場所でのんびりするのも悪くないな」

「―――♪」


 ライトだけじゃない。このパーティーは全員が十代だ。

 隠居するには早いし、やりたいことや見たいんものもたくさんある。今度はツクヨミを連れ、仲間たちと世界を回るのも悪くない。

 

「ツクヨミ、これからもよろしくな。それと……不死身だからって、俺の目の前で死ぬ事は絶対に許さない。いいな?」

「うん―――」


 馬車は、ファーレン王国に向かって進む。


 ◇◇◇◇◇◇


 リンは、ライトと一緒に夜警をしていた。

 馬車を止め、いつものように野営の支度をして、交代で見張りをする。

 もう、何回同じことを繰り返しただろうか。

 ライトとリンは隣同士で座り、カップに淹れた白湯を啜る。ちなみにツクヨミはマリアに連れて行かれ、一緒にテントで寝ていた。


「…………ねぇ」

「ん?」

「ライト、終わったらどうするの?」


 もう、何度もした。何度もされた質問だ。

 ファーレン王国が近いからこそ、リンは聞く。


「のんびりするのもいいし、今度は純粋に世界を回って冒険したいな。マリアとツクヨミは俺に付いてくるって言うし、メリーとシンクも一緒だ。リン、お前も一緒だと嬉しいな」


 ライトは、明るい声で言った。

 自然に出てきた答えだ。リンはそう思い、白湯を啜る。


「私も、一緒でいいのかな……」

「は?」

「聞いて……私、レイジと同郷だし、止められなかった責任もある。この世界に来たときにレイジの増長を止められれば、こんなことにはならなかったかもしれない……そう思うときがあるの」

「…………」

「ライト、私……私にも、あなたの復讐の責任がある。レイジと戦うときは私も一緒に連れてって……お願い」

「…………わかった」

「ありがとう」


 たまに、考える。

 もしレイジの増長を止めることができれば。魔刃王討伐の旅をしているとき、セエレとリリカに手を出すことを止めていれば。魔刃王討伐だけに集中させることができれば。もしかしたら、こんなことにはならなかった……と。

 だが、現実は違う。

 セエレとリリカはライトを裏切り、ライトに処刑された。

 仲間のアルシェは喰われ、罪を後悔したアンジェラは罪の意識を感じて謝罪、今はバルバドス神父と贖罪の旅をしている。

 未来は、どうなるかわからない。


「……カップ、洗うね」

「あ、俺が」


 互いに立ち上がり、リンがよろめいた。


「あっ……」

「っと。大丈夫か?」

「あ、う、うん……」


 リンを抱くライトの手は大きく、暖かい。

 マリアやツクヨミはこの手に触れ、温められ、抱かれた……そう思うと、リンは気恥ずかしくなってくる。

 

「リン?」

「…………カップ、洗ってくる」

「あ、ああ」


 リンは、ライトから離れた。

 赤い顔を、悟らせないようにしながら。

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