第203話・残りは二人

「はぁ~……やっぱり、女の子は最高ですわ」

「─────♪」

「はぁ……疲れた」


 マリアとツクヨミを同時に相手したライトは疲労困憊だった。

 正直、リリカより強敵だった。ノンストップで二人を交互に愛し、出すものを全て出し切ったライトは、ベッドの上でだらけていた。

 

「ふふ、だいぶお疲れのようですわね」

「ああ……のど乾いた」

「─────水」


 ツクヨミがそう言うと、喪服を着た人形が水の入ったカップを三つ準備する。

 姿はリリカの肉体だが、これは人形。魂は消滅し、ツクヨミとライトの言うことを忠実に聞く世話係だった。

 ライトは、リリカの姿をした人形になんの感情も持っていない。水のカップを受け取り、一気に飲み干した。


「っぷあぁ……美味い」

「ふふ。いい飲みっぷりですわね♪」

「ねぇ、もっとしたい─────」

「今日は勘弁してくれ……また明日、な?」

「─────わかった」


 ここは、ワイファ王国近くにある商業都市。

 リリカの襲撃があり、戦闘でのダメージを癒すために立ち寄った……という建前だが、怪我はリンが治療し、ダメージはない。

 本当は、しっかり休める場所でツクヨミを愛する。それだけのために立ち寄っただけだ。おかげで、朝方まで愛することができた。


「もうすぐ、旅も終わりですわね……」

「ああ……」


 マリアがライトに抱き着く。

 柔らかい身体が密着し、とても気持ち良い。


「─────♪」


 ツクヨミはその反対側に。マリアの真似をしたようだ。

 マリアと比べるとやや細身だが、それでも女の柔らかさを感じた。


「……全部、終わらせる」


 あと、二人。

 勇者レイジと、女神フリアエ。

 この二人を始末して、ライトの復讐劇は終わる。

 そのあとは……仲間たちと過ごすのも悪くない。

 リン、マリア、シンク、メリー、ツクヨミ……自分の復讐に付きあってくれる、大事な仲間たちだ。


「やっぱり気が変わった。もう少しやる」

「あら? たくましいのね」

「─────きて?」


 ライトは、マリアとツクヨミに手を伸ばした。


 ◇◇◇◇◇◇


「ふふ、かわいいです」

「まさか、神に出会えるとはね……これも運命なのか」


 ワイファ王国の孤児院に、大柄な神父と若いシスターの少女が立ち寄っていた。

 少女は、可愛らしい赤ん坊を抱く。すると赤ん坊はケラケラ笑う。

 赤ん坊の寝ていたベビーベッドから、どこか軽薄そうな男の声が聞こえる。


『これはこれはダミュロン殿……ふぅむ。またもや同士が』

『…………』

『はっはっは。相変わらず無口でいらっしゃる。あなたの声を聴いた者はいないと言われていますが……』


 【傲慢】のギルデロイは、大柄な神父ことバルバトス神父に話しかける。正確には、バルバトス神父と契約している【憤怒】のダミュロンだが。

 

『ふぅむ……カドゥケウス殿たちは不安でしたが、あなたからは高貴、尚且つ安心感を感じますな』

「おお、神の声が私に……!!」

『ふむ。あなたになら頼めそうだ。よろしいですかな?』

「はい。なんでしょうか……?」


 ファーレン王国の元王女アンジェラことサニーは、赤ん坊を抱いたまま腰当に話しかける。バルバトス神父はギルデロイという『神』に感極まっていた。


『この赤ん坊。アシュレーを引き取っていただけませんかな?』

「え? わ、わたしがですか?」

『ええ。お嬢さん……あなたに、この子の母になっていただきたい。ダミュロン殿の契約者には護衛を』

「お任せください。神よ」

「え、し、神父さま!? そんな簡単に」

『ほっほっほ。では決まりですな』


 こうして、バルバトス神父の一行に【傲慢】のアシュレーが加わった。

 神父、シスター、そして赤ん坊という組み合わせは、仲のいい夫婦にも見えたそうでサニーが恥ずかしがるのだが……それはまた別の話。


 ◇◇◇◇◇◇


「いやだ、いやだ、いやだ……」


 勇者レイジは、ファーレン王国の自室で毛布をかぶって震えていた。

 すっかり覇気を失い、食事もろくに取らずやせ細り、髪と髭は伸びっぱなしという、あまりにもみすぼらしい姿だった。


「レイジ……」

「え……ふ、フリアエ、さま?」

「ふふ……」


 祝福の女神フリアエが、レイジの部屋にいた。

 ドアも開けず、いつの間にかいたのである。

 レイジは、かぶっていた毛布を剥がして言う。


「た、たすけ、助けて下さい!! おれ、おれ……どんでもないことをやっちまった!! あ、あいつが……あいつが、おれを殺しに」

「大丈夫。大丈夫……もう怯えなくていいの」

「え……」


 フリアエは、レイジを優しく抱きしめる。

 髪はボサボサ、髭も剃っていないし風呂にも入っていない。そんなレイジを優しく抱きしめながら言う。


「あ─────」

「レイジ。あなたはよくやってくれました」

「え─────?」


 レイジは、身体が動かない。

 フリアエに抱きしめられているから、だろうか?


「なぜ、あなたとリンが異世界から召喚されたかご存じですか?」

「─────?」

「簡単なことです。お母様の復活のため……そのために、神界でも魔界でも人間界の存在でもない、異世界の人間を依り代とするために、私がファーレン王国に与えた秘術」

「─────?」

「聖剣勇者とか祝福剣とか、本当はどうでもいいんです。異世界召喚の真の目的は……異世界人の肉体そのもの。本当はリンの身体の方がよかったのですが……まぁ、あなたでも構いません」

「─────?」

「ようやく、準備が整いました……長年、時間を掛けて生み出した私専用の『ギフト』が完成し、お母様の復活準備が整いました……レイジ、あなたの肉体をいただきましょう」

「─────??????????」


 意味が、わからなかった。

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