第202話・ライトとリリカ、幼馴染み

「なぁ、お前……女神になったんだって?」

「あっぶ!?」

「ブクブクに太ってた頃とは別人だ。強くなったらしいけどよ……お前が一人で何かやってた頃も、俺はずっと戦ってたんだよ。女神を喰らって強くなってな」

「がっは!?」

「不思議だな? お前は確かに強くなった。知らねーけど、勇者レイジとか魔刃王より強いんじゃないか?」

「あっぐぅ!?」

「でもさ、俺のが強い。昔は俺が強くて、勇者パーティーとして魔刃王を討伐した後はお前のが遥かに強かったな」

「ぎぁぁっ!?」

「何が俺を変えたと思う? そうだ、復讐だよ。大事な物を全部奪われた。その復讐心が俺を強くした。父さんと母さん、レグルスとウィネ。大事な物を奪われたんだ」

「あ、ぐぅえぇっ!?」

「リリカ、お前も同じだな。セエレとアルシェを俺に奪われた。ここでお前を見逃せばお前は強くなるか?」

「が、っかか……」

「無理だな。だってお前、セエレを失って俺に挑んでも勝てなかったよな? アルシェを失ってもこのザマ……つまり、お前はこの程度なんだよ」

「ご、ぽぇ……」

「お前なんて死のうが構わない。でもよ、違う未来はあったかもな。もしお前が勇者レイジと結婚しなかったら? 騎士として俺が認められて、結婚……おぇっ、結婚って言うだけで吐きそうだ」

「ぐっぱぁ……」

「おい、まだ死ぬな。苦しんで苦しんで苦しんでから死んでもらうんだからよ」

「が、ががががががっ!? ぐがっふぁ!?」

「お、生き返った。じゃあ続きだ。勇者レイジのどこが好きなんだ? 初めて戦ったときから思ってたけど……あいつ、弱っちいじゃん。容姿は優れてたけど、それだけか? その場の雰囲気で甘い言葉でも囁かれたのか? なぁ?」

「ぐっぽぇ……」

「おい、聞いてんのか?……おい!!」

「ぐがっふぇ!?」

「ったく……ちゃんと聞けよ」


 両足を失い、剣が握れないように両手を踏み砕かれ、顔面が変形するほど殴られたリリカは、意識がもうろうとしていた。

 長い黒髪はライトの手で引き千切られ、「もう少し弱らせておくか」と言われ身体の至るところに銃弾による風穴が空いている。

 リリカは、間違いなく強くなった。

 それ以上に、ライトは凶悪なまでに強くなっていた。

 それが、復讐のための強さ。大事な人を奪われた恨みの強さ。

 リリカは、ようやく理解した。


「ら、いと……」

「お、生きてた。おい、勝手に死ぬなよ」

「ごめ、ん」


 それは、謝罪の言葉だ。






「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」






 ライトは、薄く嗤った。

 この状況で命乞いをするリリカが、とても滑稽に見えたのだ。

 まさか、命を救って欲しいとでも言うのだろうか?


「た、すけ」

「無理。お前は死ぬ……いいか、お前は死ぬんだ」

「し、ぬ……」

「ああ。死ぬ。俺の手で、お前は死ぬ。いいか……死ぬ!!」

「死、死死……」

「死ぬ、死ぬ!!」

「…………ふへ」

「よし、理解したな」


 ライトは、リリカの踏み砕いた右手に銃弾を叩き込む。

 指が弾け飛び、リリカの右手は手首から先が消失した。


「~~~~~~~~~ッッ!?!?」

「気付けだ。まだおかしくなるなよ、もっと悔いろ、お前の行いに絶望しろ」


 あまりにも凄惨な拷問だった。

 リンは青ざめていたが、マリアとシンクとメリーは平然としている。

 リリカの敗北と同時に銀色の鬼は消え、こうして拷問を見守っているのだ。


「……ツクヨミを殺したお前は何を考えてる?」

「……………」

「なぁリリカ。ツクヨミは「――――呼んだ?」……は?」


 リリカを拷問中、そんな声が聞こえた。

 マリア、シンク、メリー、リンが驚愕していると、地面に黒いシミのような物がジワジワと広がり、そこから全く無傷のツクヨミが現れたのだ。


「――呼んだ?」

「な……つ、ツクヨミ、あなた、死んだんじゃ」

「?―――私、死なないよ? 不死身」

「え」


 ツクヨミは首を傾げてキョトンとしている。

 ライトを見てにっこり笑う。


「私―――死なない。『夜』が存在する限り、命は無限。刺しても切っても死なない。私、とっても強いから―――」

「……そうか」


 ライトは、ツクヨミを見て安堵した。

 リリカの潰れた顔が驚愕に染まるのがわかった。


「ねぇ―――それ、どうするの?」

「ああ、リリカか? もう用はないし殺すよ。こんな奴の魂は喰いたくないけどな」

『えー……人間と女神の混じった魂なんてめっちゃ珍味じゃん』

「やかましい」

「―――じゃあ、私にちょうだい?」

「は?」

「―――だめ?」


 ツクヨミは首を傾げてお願いした。

 ライトとしては殺して喰いたいが、ツクヨミの願いなら。


「いいぞ。でも、ちゃんと始末しろよ」

「うん―――」


 ツクヨミはリリカに手をかざすと、リリカの全身が黒いドロドロしたなにかに覆われる。

 リリカは抵抗もできずにドロドロに包まれる。すると、欠損した四肢や潰れた顔が綺麗に修復された。


「―――これ、いらない」


 そして、黒いドロドロからペッと【鬼太刀】が吐き出された。

 こんなにあっさりと《ギフト》が分離した。

 そのことに驚愕しつつ、泥が落ちていく。

 

『…………』

「完成―――私のペット」


 そこには、黒い喪服のようなものを着たリリカがいた。

 だが、目は死んでいる。生気がない。


「…………おい、なんだこれ」

「ペット―――意識を消して私とライトに従うように作り替えた―――私とライトの従順なペット―――これから必要でしょ?」

「こ、これから?」

「うん―――いっぱいいっぱい、愛してもらうの―――」


 ツクヨミは顔を赤くした。

 正直、リリカの姿は気に食わない。

 だが、リリカは死んだ。これは人形だ。

 

「ま、いいか」


 ライトは、リリカに対する興味を全て失った。

 復讐は果たされた。

 リリカは死に、肉体だけが残った。肉体はツクヨミのペットになり、魂はツクヨミの『夜』に飲まれ消えていった。


「ライト―――今夜も愛してね?」

「ああ。もちろん……あ、マリアも一緒だけどいいか?」

「うん―――」


 こうして、戦刃の女神リリカは、勇者レイジへの愛も女神フリアエの忠誠心も全て飲み込まれて消滅した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る