第205話・ファーレン王国へ

 ファーレン王国では、女神フリアエが『儀式』を行っていた。

 勇者レイジを生贄に、全ての女神の母であるテレサを復活させる。そのために時間を掛けてフリアエにしか使えない復活の《ギフト》を作りだし、人間の信仰心を集めて力を付けた。

 大罪神器が動き出したことを察したフリアエは、自らの護衛にリリティア、ラスラヌフ、キルシュを呼び出した。だが女神は敗北……保険として呼び寄せたパティオンとブリザラの同行は不明。

 フリアエは知らない。パティオンとブリザラはフリアエを手伝う気など全くなく、それどころか母テレサですら危惧した存在であるツクヨミを復活させた。しかも……ツクヨミはライトを気に入り、すっかり懐いてしまっているということに。


 だが、そんなことフリアエにはどうでもいい。


 フリアエの目的はただ一つ。最初から母テレサの復活だけなのだから。

 それ以外は、全てどうでもいい。

 大罪神器も、パティオンもブリザラも、ツクヨミも、ライトも、何もかも……フリアエにとっては『どうでもいいこと』なのだ。


 その『どうでもいいこと』が牙を剥き、自分の存在が掛かっていても……フリアエにとっては『どうでもいいこと』で、母テレサが蘇ればそれでいい。

 フリアエは、ファーレン王国にある専用の儀式場……勇者レイジとリンを呼び寄せた場所で、儀式の準備を始めていた。


「……お母さん」


 その瞳に映るのは、触媒として『作り替えられた勇者レイジ』だ。

 人としての機能は全て奪われ、『命』という機能だけを残されて『作り替えられていた』勇者レイジは、手足が無くなり胴体だけの状態だ。

 神聖な空間に相応しいとは思えない姿だ。

 

「もうすぐ……でも」


 フリアエは、静かに呟く。


「まだ、邪魔をされるわけにはいかない……」


 ゆっくりと振り返り、手を伸ばした。


 ◇◇◇◇◇◇


 ライト一行は、ついに戻ってきた。

 ファーレン王国郊外の街道で馬車を止め、ライトとリンは降りる。

 まだ遠いが、見えてきた。


「ファーレン王国……俺の旅が始まった場所」

「私の旅が始まった場所でもあるわね……」


 二人は並び、前を見る。

 全てを失った場所。父と母、親友が死んだ故郷。召喚され、運命が始まった場所……共に、思い出深い国だ。

 リンはライトに言う。


「ライト、わかってると思うけど……城下町で暴れて住人に被害を出さないでよね」

「あのな、いくら俺でもそこまではしないぞ。狙うのはハナから二人……勇者レイジと女神フリアエだけだ」

「ならよし。私、うぅん……私たちもサポートするからさ」

「ああ……頼りにしてる」

「うん……全部終わらせて、今度はこの世界をみんなで楽しみましょう」

「そうだな。今度は、みんな楽しく冒険しようぜ」


 ライトは、少年のように笑った。

 その笑顔にリンは赤くなりそっぽ向く。すると、馬車からマリアたちが下り、リンたちの隣に並ぶ。


「あらあら、妬けてしまいますわね。二人で楽しそうにして……」

「ボクもまぜて」

「あたしもー」

「─────私も」


 シンクとメリーがライトの両腕を取り、ツクヨミは正面から抱き着く。

 マリアはリンの背後に抱きつき、手をいやらしく動かしてリンの身体をまさぐった……その動きに、リンの身体がビクッと震える。


「ちょ、やめなさいマリア!!」

「もう、素直になればいいのに……リン、一緒に愛されましょう?」

「あ、アホなこと言ってんじゃないの!! あんたやツクヨミはともかく、シンクやメリーの教育に悪いからそういうこと言わないで!!」

「ボク、べつにいい」

「あたしも」

「駄目ったらダメ!!」


 リンがギャーギャー騒ぎ、全員が笑った。

 いつの間にか、かけがえのない仲間たちはここまで打ち解けていた。

 心と身体を赦し、愛すら感じる仲間たち。

 ライトは、シンクとメリーの頭を撫で、ツクヨミの頭も撫でる。


「終わったら……みんなで打ち上げでもやるか」

「ボク、お菓子食べたい」

「あたしはお肉ー」

「─────甘い物」

「ったく、あんたたち……マリアは?」

「わたしは魚がいいですわね」

「よし。決まりだな。終わったらみんなでメシだ」


 もうすぐ、終わる─────。


「─────」


 ツクヨミが、ゆるりと前を向き─────。


「─────来る」

「あ?」


 次の瞬間、地面がボコボコと盛り上がった。

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