第166話・ダンジョン初日完
「シンク、マリア、リン。いけるな」
「ん」
「ええ、もちろん」
「ったく、なんなのよこのダンジョン!!」
第五相『大迷宮』ラピュリントス・第20階層。
ライトたちは雑魚を蹴散らしながら進み、ようやく歯ごたえのありそうな敵と対峙していた。正確には巨大なオーガの集団で、数は50以上いる。
オーガは、身長が二メートル、大きくて三メートルを越える魔獣だ。パワーと耐久力は凄まじく、普通の剣では肌に傷一つ付けられない。
「よし、やるぞ!!」
混戦。
襲い掛かるオーガを、ひたすら屠る。
メリーは戦力にならないので放置。放っておいてもダメージを受けることはない。
ライトはカドゥケウスを発砲しながら、左手を使いオーガと接近戦を試みた。
「っと……まだまだ甘い。もっと慣れないと」
左手を巨大化させ、オーガの拳を受け止めて発砲。オーガの額にいくつかの穴が空き絶命。
左手とカドゥケウスのコンビネーション。そして接近戦や身体を使った動きの訓練にもってこいだ。
シンクもマリアも、己の修行になっている。
マリアは苦手な接近戦。シンクは中距離での戦いに磨きをかけている。
リンも、魔術をフルに使いオーガを蹴散らしていた。
「楽しいですわね!!」
「ん!!」
「あんたら、無茶しないでよ!!」
オーガの集団は、数分で全滅した。
修行といっても、やはりライトたちは強い。オーガの集団程度なら、千匹出ても問題ない。
「深く潜れば強い魔獣がいるんだよな?」
「う、うん。そう聞くけど……」
「じゃ、行くぞ。このダンジョン、修行に最高の環境だ」
オーガの持っていた鉄の棍棒を掴み、カドゥケウスに装填する。
オーガの硬い皮膚も、カドゥケウスの弾丸は容赦なく貫通した。
『ケケケケケケケケッ、楽しそうだねぇ相棒』
「強くなるって目的があるからな。やる気が出てしょうがないんだよ」
『マリア、あなたも強くなってるわ』
「あら、そうですか?」
『シンク。あなたもです』
「ボク、がんばる」
『メリー、あんたは……』
「……zzz」
大罪神器たちも、契約者たちが強くなっていることを実感した。
特に、ライトの成長は並ではない。女神を倒し喰らった経験が、カドゥケウスの能力だけでなく、ライト自身の強さと自信になっている。
「さぁて……今日は50階層まで行くか」
カドゥケウスを構え、ライトたちは上層へ向かう。
◇◇◇◇◇◇
第五相『大迷宮』ラピュリントス攻略初日。
ライトたちは50階層まで進み、戻ってきた。
ダンジョンの脱出は同じで、階層ごとに脱出用の魔方陣がある。次回挑戦するときに潜った最高層から挑戦できるのがダンジョンのいいところだ。
「第五相のダンジョン、最高到達階層はいくつだ?」
「確か……ガイドブックには『268階層』までと記されていましたわ。その冒険者は虹級で、ダンジョン攻略のために冒険者になり、かれこれ30年以上ダンジョンに潜り続けているのだとか」
「さ、三十年……すごいな」
「ええ。ダンジョン階層の仕組みや、トラップや魔獣のデータを細かく記し、ダンジョンマップとして販売しているそうですわ。虹級になれたのも特例で、ダンジョン攻略に貢献し、冒険者たちの無駄死にを少なくしたから、と言われてますわね」
「ふーん……」
現在。ライトとマリアはガイドブックやダンジョンのマップを見ながらワインを飲んでいた。
夕食をガッツリ食べたおかげで、シンクとメリーは風呂に入るなり寝てしまった。明日のダンジョン探索の話をしようとしたが、リンも疲労で眠そうだったので、仕方なく部屋に戻りワインを飲みながら二人で話していたのである。
「とりあえず、200階層くらいはいけるか?」
「そうですわね。ですが、魔獣相手ならともかく、迷宮となると……」
「ま、大丈夫だろ。シンクの奴に任せれば」
「……そうですわね」
ダンジョンには階層ごとに種類がある。
何もないドーム型の階層では大量の魔獣が出現し、全て倒さなければ脱出できないフロアもあれば、魔獣が出ない代わりに広大な迷路や森が形成されたフロア、宝箱がポツンと置いてあるだけのフロアと様々だ。
これまで進んだ50階層は、魔獣出現型と迷路型が多かった。
魔獣は楽だった。倒せばいいだけだが。
「迷宮は本当の迷宮だったな……」
「ええ。まさか、シンクが活躍するとは思いませんでしたが」
「野生の勘、ってやつかもな」
ライトはワインを飲み干す。
迷宮型は進むしかなかった。リンがマッパーを務めゆっくり進んでいたのだが……シンクが示す方向を進んだら、あっという間に出口に着いてしまったのである。
偶然かと思ったが、その後もシンク任せで迷宮を進むと、迷うことなく脱出できた。
ライトたちが半日で50階層まで進めたのは、間違いなくシンクのおかげである。
「よし。目標は200……いや、300まで行こう」
「ふふ。敵も強くなりますし、やりがいがありますわ」
「そうだな。賞金首もいる……シンクにも言ったけどもう一度言う。死体は原形を残しておいてくれ」
「わかりましたわ」
マリアもワインを飲み干し、ほんのり紅潮した顔でライトを見る。
互いに見つめ合い、ライトはカドゥケウスを取り出し、祝福弾をセットした。
『相棒、ほどほどにしとけよ?』
『マリア、明日もあるんだからね?』
「ああ」
「ええ、わかってますわ」
ライトは、天井に向かって発砲した。
「狂乱。『
発射された第三相『冥霧』ニブルヘイムの祝福弾は天井に命中。ビー玉みたいな球体がポコッと浮かび、薄く白い霧が室内を満たす。
霧を吸うと、ライトとマリアの身体が熱くなる。
劣化した性能なので、狂うほどではない。でも、男と女の本能が刺激される。
「風呂は?」
「では、ご一緒に……」
ライトとマリアの夜は、まだ始まったばかり─────。
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