第164話・第五相『大迷宮』ラピュリントス

 ウェールズ王国は、これまで見た王国の中で、ひときわ異彩を放っていた。

 城下町に王城は賑わい、住人と商人以外は冒険者しか見られない。ライトはどうでも良かったが、リンは少し興奮していた。


「すごいすごい! 見て見て、あれがこの世界最大のダンジョン……第五相『大迷宮』ラピュリントス! 『八相』の中で唯一姿を確認できる存在……すごい」

「お前、興奮しすぎだぞ」

「い、いいでしょ? だって私、冒険者だし……異世界のダンジョン、しかもあれほどの大きさ、やっぱりこうじゃないとね!」

「…………」


 たまーにリンはワケが分からないことを言うので、ライトはスルーした。

 馬車の中を覗くと、仲良く寝息を立てているシンクとメリーを、マリアが抱きしめているのが見えた。

 女好きのマリアは紅潮し、ハァハァ興奮している……さすがにライトも引く。


「リン、マリアが見境無くなってる。恋人なら止めてこいよ。浮気だぞ浮気」

「はぁ!? って、私とマリアはそんなんじゃないし……って、マリア、また無防備な二人に手を出して!!」

「宿は?」

「町の中央、適当に!!」

「はいよ」


 リンは馬車に入り、マリアを引きはがしている。

 指示通り、ライトは町の中央を目指して馬車を走らせる。町の中央にはギルドや主要商店が建ち並んでいるはずだ。

 町の中央に着くと、かなり大きな広場だった。

 広場の中央に、ビルのような建物があった。看板には『冒険者ギルド』と書かれていることから、冒険者の大国ウェールズの名に相応しいとライトは思う。


「えーっと、厩舎付きの宿……」


 この辺りは、自動的に高級宿しかない。

 だが、賞金首の報酬に元々の持ち金もあるので、金は吐いて捨てるほどある。旅の足である二頭の馬。先輩と後輩にはゆっくり休んでもらいたかった。

 ウェールズ王国最大の高級宿に厩舎があるのを見つけ、なんの迷いもなく向かう。

 

「おい、ここでいいか?」

「あら素敵。あなたにしてはいい宿を見つけましたわね」

「いや、厩舎があるからな。この二頭はゆっくり休ませたい」

「お金は……うん。賞金首の報酬があるわね」


 リンは、白金貨がジャラジャラ入った袋を『影』から取り出す。

 ダンジョンで討伐した賞金首の報酬がかなり高額だったうようだ。


「シンク、メリー、お前たちはいいか?」

「ん。おやつある?」

「どこでもいいよー」


 シンクとメリーは手をパタパタさせて答えた。

 ライトは高級ホテルのような宿の入口に馬車を横付けし、ドアマンの男に金貨を一枚渡して言う。


「いらっしゃいませ」

「宿泊だ。馬車を頼む」

「畏まりました」


 馬車から降り、別のドアマンがライトたちを宿の中へ案内してくれた。

 チラリと馬車を見ると、宿の地下にある厩舎に連れて行かれた。後で知った事だが、高級ニンジンやマッサージ、馬や馬車の洗体などのサービスをしてくれるらしい。

 リンとマリアに受付を任せ、ライトたちはロビーでのんびりしていた。

 戻って来たリンは、少し言いにくそうにしている。


「お待たせ。部屋は最上階で、その……」

「部屋は二人部屋と三人部屋。わたしとライト、リンとシンクとメリーの三人ですわ」


 と、マリアはにっこり笑って言った。


 ◇◇◇◇◇◇


 二人部屋はベッドも広く、風呂もリビングも広かった。

 ライトとマリアは部屋に入り、着替えなどの荷物を置く。


「お前、何か期待してるか?」

「さぁ。でも……わたしは抵抗しませんわ」

「ったく、まぁでも……期待はしてていいぞ」

「ふふ」


 マリアはニッコリ笑う。

 何を考えているかは容易く想像できた。とりあえず、リンたちの部屋は隣なので、そちらに向かう。


「果物、おいしそう」

「切ってあげるから待って。ほらメリー、寝るならこっち。そこは通り道だから危ない」

「んー……ありがと」


 シンクがテーブルの上にあった果物盛り合わせに興味を持ち、床に転がるメリーをリンが抱き上げ、ソファ近くに寝かせた。


「リン、大変だな」

「お母さんみたいですわね」

「あ、二人とも。マリア、果物切ってあげて。ライトはメリーをよろしく。私はお茶煎れるから」

「わかりましたわ」

「マジでお母さんだな」


 ようやく落ち着き、これからの話をする。


「目的は、第五相のダンジョンだな。そこで訓練して、実力を付ける。いいかリン?」

「そうね。私もまだ実力不足だし……シンク、あなたも」

「ボク、強いよ」

「そうだな。でも、お前でも敵わない相手と戦うかもしれない。たとえば……女神とか」

「……ボク、強くなる」


 シンクはやる気が出たのか、リンゴをシャリシャリ齧りながらガッツポーズした。

 ライトは、寝ているメリーにも言う。


「こいつも、盾には使える。矢や魔術も停滞させちまう能力を鍛えれば、最強の盾として使えるぞ……まぁ、本人がやる気を出せばだけど」

「わたしは、階梯を駆け上がりますわ。あなたには負けたくありませんから」

「そうだな。よし……ここで鍛えるぞ」


 だが、鍛えるだけでは済まない事態に発展するとは、この時点で気付かなかった。

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