第141話・カドゥケウス・セカンド

 カドゥケウス・セカンド。

 一回り大きく、装弾数も銃口も増えた新しい形態。間違いなく、女神リリティアを捕食した影響で進化した姿だった。

 祝福弾は作れない。純粋に、女神に対する復讐だけで動いたライトにとって、ありがたい結果だった。

 カドゥケウスをクルクル回し、ライトは喜ぶ。


「っしゃ!! カドゥケウス、パワーアップだ!!」

『……オレも驚いてるぜ。こんなこと、今までなかった』

「へへ、女神の肉を食ったからか?」

『多分な……いやはや、力がみなぎるぜ』


 ライトは腰のホルスターにカドゥケウスを収めようとしたが、焼けてボロボロになってしまったことと、サイズが変わったので入らないことに気が付き、仕方なく諦めた。どこかで新調する必要がある。

 ライトは、自分の服が燃えてしまい、上半身裸なのに気が付いた。


「っくし!! 寒いな……おい、もうここに用はない。下山しよう」

「そうですわね。まさか、女神を殺してカドゥケウスが進化するなんて……」

「ライト、強い……第五階梯も目覚めた」

「ああ。今回のは今までと違ってかなり使い勝手がいい」


 第五階梯・『咀嚼する悪魔の左手ヴァイト・オブ・ディアボロス』は、自在に変化する左手だ。

 糸のように細くしたり、肥大化させて硬化させたりと、ライトの思うが儘に操れる。最大のポイントは、何の制約もないことだ。

 今までは肉体に負担のかかる大技だけだったが、今回の左手は近接戦闘でも真価を発揮できる。唯一『剣』を造ることはできないが、それでも強力だった。


「みんな、早く帰ろう……ここ、いたくない」

「そうだな。リン、影の中に入れてくれよ。着替えが欲しい」

「わかった」


 リンの影の中に入り、ライトは着替えを済ませた。

 あとは、下山して次の領土を目指すだけ。思わぬ強敵に全滅しかけたが、なんとか乗り越えることができた一行。

 影の中、ライトは三人に言った。


「みんな、ありがとな」

「「「え?」」」

「その、助けられた……マリア、シンク、リン。本当にありがとな」

「「「…………」」」


 三人はポカンとして、互いの顔を見て……笑った。

 こんなにも素直なライトは珍しい。そう言いながら笑ったのだ。

 いつの間にか、大事な仲間になった。

 レグルスやウィネと一緒にいた時のように、温かい気持ちにライトは包まれる。

 これが、仲間。


『相棒、いい気分だねぇ……』

「ああ。今日は最高かもな」


 影の中は暗いが……気分は最高に明るかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 下山し、馬車に乗ってウェールズ王国への国境を目指す一行。

 フィヨルド王国にはもう用はない……第三相は、これから情報を集めて探すのは億劫だった。

 シンクに確認すると、にこやかな顔で返事をした。


「いいよ。ボク、ライトたちと一緒のほうが楽しい。ライトたちと一緒に行く!」

「シンク……」

「ライト、これからいっぱい強いのと戦うんでしょ? ボク、もっともっと強くなるから!」

「ああ。わかった……これからもよろしくな」

「ん!」


 第三相は、またの機会に。仲間になれば、いつでも一緒に冒険ができる。

 マリアもリンも嬉しそうにシンクの髪を弄っていた。

 ライトは手綱を握り、御者席の傍らに進化したカドゥケウスを置く。


「ウェールズ王国か……これで4つの領土をクリア。大罪神器は四つ発見、残り三つか」

『ああ。【怠惰】と【強欲】と【傲慢】の三つだ。今だから言っとく、残りの連中はクソだ。いきなり襲ってくる場合もあるから用心しろ』

「そんなにヤバいのか?」

『ああ……イルククゥやシャルティナが可愛いレベルだぜ。ダミュロンみてーなおかしい奴とは違う、喧嘩っ早いクソって考えとけ』

「…………」


 バルバトス神父が頭をよぎる。

 ウェールズ王国に行けば会える。そんな気がした。


「…………」


 果たして、自分はどれほど強くなったのか。

 女神を殺し、血肉を喰らっ






「─────」






 馬車が、止まっていた。

 広い街道の道を塞ぐように、一台の馬車が止まっていた。

 全ての思考が停止した。

 馬車を止め、カドゥケウスを握る。

 馬車の前に、数人の男女がいた。


「……………………」

『相棒』

「……………………」

『ったく、聞こえてねぇか』


 ライトは馬車から下りる。

 馬車が止まったことに不審を感じたリンたちも下りた。そして。


「だれ?」

「…………ぅ、そ」

「…………まさか、こんなところで」


 シンクは首を傾げ、リンは青くなり、マリアは驚いていた。

 街道を塞ぐように立っていたのは、四人の男女。


「よーぉ…………久しぶりだなぁ」と、勇者レイジが。

「ふふ、また会えたね」と、剣士リリカが。

「あ、あれが……魔銃王」と、姫剣士アンジェラが。

「用心を」と、剣士アルシェが。


 勇者パーティーが、そこにいた。

 ドロリと、ライトの中で何かが煮え始めた。

 そして、勇者レイジは自信満々に叫ぶ。




「殺しに来たぜ『魔銃王ライト』、愛の女神リリティア様からもらった新しい『力』で、お前をぶっ殺してやるぜ!!」




 と、その愛の女神を殺し喰らったライトに向けて。

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