第142話・狂おしいほど嗤って

 勇者レイジは、自信満々だった。


「へへ、このフィヨルド王国の軍隊がお前たちを捜索したんだ。いろんな町をあちこち移動してるみたいだけどよ……ようやく見つけたぜ」


 勇者レイジは、自信満々だった。


「ん? 一人増えたのか……けっこう可愛い女の子じゃん。おいリン、その子誰だよ? つーかお前、いい加減こっちに戻って来いよ!!」


 勇者レイジは、どこまでも自信満々だった。


「ま、いいや。女の子はともかく、ライト……テメェはこのオレが直々にぶっ殺す。へへへ、聞いて驚くなよ? オレたちは以前の数倍強くなった。なんでだかわかるか?」

「「「「…………」」」」


 ライト、リン、マリア、シンクは無言だった。

 なんというか……あまりにも勇者レイジが滑稽に見えたのだ。

 そして、レイジは聖剣フォースエッジを抜き、自信満々に応えた。


「オレたちは、この地におわす『愛の女神』、リリティア様の加護を得た!! はっはっはっはっは!! 驚いたか? 女神様はフリアエ様だけじゃない。この世界には何人もの女神様がいるんだ!!」

「「「「…………」」」」


 四人は、無表情だった。

 滑稽を通り越し、もはや憐れだった。

 ライトも、復讐心よりも憐れみ、そして……嗤いがこみ上げてくる。


「……カドゥケウス」

『あん?』

「……………………できるか?」

『まぁできるけど……』

「頼む」

『悪趣味だねぇ……でも、そんな相棒も愛してるぜ♪』

「はいはい。タイミングは俺に任せろ」

『おう。っつーかあの勇者、バカだよなぁ』


 ライトとカドゥケウスはボソボソと相談した。

 その間も、レイジの話は続いている。


「女神様の『愛』はオレたちを包んでくれている! 以前はちょっとやられたけど、今回はそうはいかねぇ!! リリカ、アルシェ、アンジェラ、セエレの仇を取るぜ!!」

「ええ、そうね……ライト、今日で終わらせてあげる」

「世界の脅威……ここで排除します」

「わ、わたくし、やります!!」


 戦闘態勢に入る勇者一行。

 不思議だった。レイジたちを前にしたのに、以前ほどの憎しみや恐怖を感じない。

 吹っ切れたような……違う。ライトは、落ち着いていた。

 レイジたち四人が剣を構えているのを見ても、特に戦闘準備はしていない。


「行くぜ!!「あー……ちょっと待った」……あ?」


 ライトは左手を前に突き出し、レイジたちにストップをかける。


「なんだよ、テンション下がるじゃねぇか」

「あー、いや、その……ちょっといいか?」

「あ?」


 ライトの手が、ボコボコと脈動する。

 まるで、飲み込んだ『何か』が、逆流するような。


「愛の女神リリティア、だっけ?」


 マリアは表情を変えず、シンクは欠伸し、リンは目を背けた。

 レイジたちは、怪訝な表情をした。


「それって――――」


 ぼこぼこ、ぐっちゅ、ずりゅ……と、水っぽい音が響く。

 ライトの左手には、溶けかけの肉の・・・・・・・塊が握られていた・・・・・・・・




「それって、これのことかぁ……♪」




 ライトは、歪んだ笑みを浮かべながら、女神リリティアだった・・・・・・・・・・肉の塊・・・をレイジたち四人に見せつけた。

 溶けた皮膚、桃色の髪、溶解した顔面……レイジたちは、知っていた。

 女神リリティア。

 自分たちに、新しい『力』をくれた、偉大なる女神。

 ライトが手に持つ物は、間違いなく女神――――。





 そう認識した瞬間、レイジの左腕と左足が吹っ飛んだ。





「――――え」

「おお、威力上がってんじゃん」

『口径も大きくなったからな』


 女神リリティアに気を取られた瞬間、ライトはクイックシルバーを発動。呆気に取られるレイジの左肘と左足の膝を狙って発砲した。

 一度引き金を引くと、二つの銃口から2発の弾丸が発射され、レイジの膝下と左肘に命中、弾丸の口径も大きくなっていたので、ねじ切るように吹っ飛ばしたのである。


「っぎ――――っっっやがぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっっ!?!?」


 響く絶叫。

 ようやく我に返るリリカ、アルシェ、アンジェラ。

 リリカの眼前に、巨大な漆黒の拳が迫り――。


「っごっびゅぁっ!?」

「雑魚は任せる」


 リリカは、思い切りぶん殴られ吹っ飛んだ。

 アルシェとアンジェラが剣を構えるが――――。


「ふふ、わたしと遊びましょう?」

「きゃぁっ!?」

「手と足、落とすね」

「ッチ!!」


 シンクの爪がアルシェの剣とぶつかり、マリアの百足鱗がアンジェラの剣に絡みついた。

 リンは、痛みで涙を流し、必死に腕と足を交互に押さえているレイジに近付く。


「あ゛ぁあ゛ぁぁ~~~……うで、うでぇぇ……り、りぃん、腕、うでぇぇぇ、あじぃぃぃぃっ!!」

「……レイジ」


 憐れむような眼を向け、レイジの治療を始めた。

 だが、おかしい。

 なぜ、手足を繋げようとしない。なぜ、傷をそのまま塞ぐ。


「死なないようにはしてあげる。手足がなくても生きていけるでしょ……?」

「な、なにを、なにを言ってんだぁぁ!! な、直せよ、治せるだろお前なら!! 手足くっつけろよぉぉぉぉぉォォォォッ!!」

「…………」


 戦いにもならない戦いが、始まった。


 レイジたちは、完全に見誤っていた。


 女神リリティアの加護はすでに消え、ライトが圧倒的に強くなっていることに。

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