第131話・軟体と骨

 バルバトス神父の変貌は、恐怖となって傭兵たちに襲い掛かった。


「ウバォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!!!」

「な、なんだこいつは……や、やれ!! 殺せ!! ギフトを」

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!!!」


 力任せに傭兵の一人が殴られ、全身の骨を砕かれながら壁に激突、身体が爆発して内臓が飛び散った。

 真っ赤に染まった皮膚、血走った眼、真っ白になり逆立った髪、両手首に嵌められた手枷のようなリング、伸びたというより膨張したように、全身の筋肉が膨れ上がっている。殴られれば死は免れない。

 ライトはバルバトス神父が傭兵を襲い始めたのを機に、鉱山内の作業員たちに向かって叫んだ。


「逃げろみんな!! 早く!!」


 恐怖した子供たちや浮浪者たちは、一目散に逃げだした。

 傭兵たちも何人か逃げようとしたが、バルバトス神父が許さない。圧倒的暴力を持ち傭兵たちを殴る。殴るだけで肉と骨が飛び散る惨劇となった。


「この、バケモノがぁぁぁっ!!」


 傭兵の一人が大剣を生み出す『ギフト』で剣を作り、バルバトス神父の腕を斬り落とそうとした……が、腕は切断されるどころか、ゴムのようにグニョンと伸びた。


『見ろ相棒。あの【憤怒】の大罪神器は圧倒的筋力と柔軟性を持つようだ』

「んなこと言ってる場合か!! つーかお前、仲間の能力知らないのか?」

『はぁ? 大罪神器が仲間のわけねーだろ。同じカテゴリってだけで互いのことなんて何とも思っちゃいねーよ。なぁイルククゥ』

『ええ。その通りです』

「こんのアホ馬鹿ども!!」


 ライトは叫び、子供たちや作業員を避難させる。

 シンクはバルバトス神父を見て怯えていた。ライトから離れようとしない。


「ライト……こわい」

「シンク……?」

「あの人、怒ってる……すっごく、怒ってる」

「……?」


 暴虐の限りを尽くし、傭兵たちをぶん殴るバルバトス神父。

 能力は、ゴムのような柔軟性に岩を砕く筋力だけじゃなかった。


「オォォォォォォォォンンンン!!」

「なっ……ほ、骨?」


 バルバトス神父の腕から『骨』が飛び出し、腕と手を覆いつくす。

 覆われた手は骨によってギザギザとした鋭利な刃物のようになり、防御と攻撃を兼ね備えた武器トとなる。

 いつの間にか、傭兵はリーダーと数人だけになっていた。


「に、逃げるぞ……もうダメだ。早く逃げるぞ!!」

「無理だ、逃げられなぶっぎゃ!?」

「たずげ、あっびゃ!?」

「ウオォォォォォォアアァァァァァァンンンンン!!!」

「ひぃぃぃぃっっぎゃぁぁぁぁっ!?」


 完全な狂戦士バーサーカーとなったバルバトス神父は、傭兵リーダーの胴を摑み、そのまま握り潰した。

 傭兵団は、全滅した。

 

「ブォォォォォォォォォォォォアァァァァァァァァッ!!」

「ッ!! シンク……やばい」

「ひっ……」


 バルバトス神父が、ライトたちに狙いを付けた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ライトは瞬時に『強化』と『硬化』を自分に撃ちこみ、迷うことなくバルバトス神父に向けて発砲した。やらなければ狩られる。一瞬で判断した。

 バルバトス神父の身体に弾丸が食い込むが、ゴムのようにぐにゅ~んと弾丸が受け止められ、そのまま跳ね返される。


「ライト!!」

「おうらぁぁっ!!」


 弾丸は、シンクの爪で跳ね返された。

 ライトは発砲と同時に動き、バルバトス神父の側面に移動している。そして、バルバトス神父の側頭部に全力の蹴りを入れた。

 硬化で金属よりも硬くなった足で、強化した筋力から繰り出される蹴り。この状態なら、岩すら粉砕できる。


「噓だろ……」


 だが、蹴りは通用しなかった。

 ほんの少し首が傾いただけで、バルバトス神父にダメージはない。

 血走った眼をギョロリと向け、ライトを完全な敵と認識したようだ。


「ブガァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

「っぐ……なんつー声だ」


 ビリビリと全身を叩き付けるような声に、ライトの動きが止まる。

 バルバトス神父の強烈なフックがライトを襲う。ライトはギリギリで回避したが、フックの衝撃波で地面に転がり─────叫ぶ。


「シンク!!」

「うん!! ハドロンブラスター!!」


 シンクの掌から放たれた高密度のレーザー砲がバルバトス神父に直撃した。


「ギャウゥゥゥゥっ!! アガガァァァァァァァッ!!」

「こ、の……!!」

「ブガァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

「うそっ!?」


 シンクの『ハドロンブラスター』が弾かれた。

 そして、バルバトス神父は倒れたままのライトに狙いを付け、膨張させた手を思いきり叩き付けた。


「ぶっがっ……」

「ライト!!」


 ライトは叩き潰され、口から血を吐く。

 血管が破裂し、目や耳、鼻から血がブバッと噴き出し、白目を剥く。

 バルバトス神父はニヤリと─────。




「悪いな、『分身』だ」




 潰したはずのライトが掻き消え、バルバトス神父の死角から『大飯喰らいガトリング・オブ・バアル・ゼブル』を構えるライトがいた。

 ライトは、容赦なく引金を引く。硬化と強化の効果がある今しか、このガトリングガンを撃つことができない。


「悪いな、死なないように手加減するからよ!!」

「グギャアヴァァァァッァァッ!!」


 銃弾の雨がバルバトス神父を襲う。

 ゴムのような体躯でも限界はあるはず。そう思い、死なない程度にダメージを与えて正気に戻そうとするが……。


「え─────」


 バルバトス神父は、耐えていた。

 骨。全身を骨で覆い、真っ赤な皮膚が純白の骨鎧に覆われていた。

 反射ではなく、骨で弾く。弾丸が通じない。


「うそ、だろ……!?」

「ライト、あぶない!!」

「っくぉ!?」


 全身を骨で覆ったバルバトス神父が、弾丸を無視して突っ込んできた。

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