第132話・大罪神器【憤怒】ダミュロン・イーラ・エインガー
『硬化』と『強化』の効果が切れた。
通常時でもライトの身体能力は高いが、大型の猛牛よりも威圧感のあるバルバトス神父の突進に身体が竦みかける。
その一瞬が命取りとなる─────。
「ブォォォォォォォォォォォォアァァァァァァァァッ!!」
「く、クイックシルバー!!」
第三階梯『
「あっ、っぐぅ……くそ、なんだよこの、バケモンは」
「ライト!!」
「シンク、無事か?」
「うん。でも……あれ、どうするの?」
「…………」
バルバトス神父は岩壁に激突し、身体がめり込んでいる。なんとか脱出しようともがいているように見えた。
作業員たちはすぐでに脱出している。逃げるなら今しかないが……。
「……カドゥケウス、なんとかあれを止められないか?」
『んー……難しいねぇ。あの【憤怒】は理性をぶっ飛ばして暴走状態にしちまう。時間が経てば収まると思うけどよ、この鉱山は更地になっちまうだろうぜ』
「くそ、お前はどうだ?」
ライトはシンクの爪に向かって質問する。
『ふむ……あの狂戦士に話しても無駄でしょう。ならば【憤怒】……大罪神器【憤怒】、ダミュロンに話を聞くべきでしょう』
『おいおいイルククゥ、ダミュロンが喋ったことあるか? あの無口野郎、いっつもダンマリして話しかけても無視してたじゃねぇか』
『ですが、方法はありません。私としては放置して帰るという手段をおススメしますがね』
大罪神器【憤怒】ダミュロン・イーラ・エインガー。
それが意志の名前で、魔界最強の七人の一人。
ライトはダメもとで叫んだ。
「おい【憤怒】!! ダミュロン、バルバトス神父を止めろ!!」
『…………』
返事はない。バルバトス神父は空いた手で岩壁を殴り、めり込んだ部分を叩き割ろうとしていた。
カドゥケウスは呆れたように言う。
『な? あのムッツリ無口、話なんかできねぇんだよ。キレると頭おかしくなるし』
「くそ……どうする」
『なら、考え方を変えましょう。戦うのではなく、動きを封じると言うのはどうでしょう。力で押さえつけると暴れるでしょうし、動きを封じて頭を冷やすのです』
「……頭を、『冷やす』か」
「ライト?」
ライトは、ポケットから一発の祝福弾を取り出す。
群青色に輝く、氷の山で第二相を倒して手に入れた『
ライトは祝福弾を装填、するとバルバトス神父も岩壁を叩き壊し解放された。
バルバトス神父は雄叫びを上げ、再びライトたちの元へ突進する。
シンクは構え、ライトはカドゥケウスをバルバトス神父に向け、引き金を引いた。
「ブオォォォォアァァァァッ!!」
「
引き金を引いた瞬間、銃口から魔方陣が展開され、吹雪が吹き荒れた。
バルバトス神父の手足が凍り付き、動きが止まる。
そして─────。
『お兄ちゃん、遊んでくれるの?』
「は?」
第二相『氷結の女帝』クレッセンド・ロッテンマイヤーが現れた。そう、見た目が5歳ほどの幼女になっていたが、ライトの足下で指をくわえながら見上げる幼女は、間違いなく第二相の面影がある。
「祝福弾は性能が劣化したギフト、か……」
『ねぇねぇ、遊ぼう! わたし、鬼ごっこしたい!』
「鬼ごっこ……ライト、鬼ならいるよ」
「……そうだな。よしお前、一緒に遊ぶか。鬼はあそこにいる」
『やったぁ! よーし、うんしょ、うんしょ』
「お、おい?」
氷の幼女は、ライトの背中によじ登り、肩から顔を出した。
ニコニコしているがとても冷たい。まるで氷のような幼女にライトは顔をしかめる。
凍り付いた手足を必死に叩き、氷を砕こうとしているバルバトス神父に、ライトはカドゥケウスを向ける。
「いいか、あれが鬼だ。あいつを凍らせて動きを封じる。できるか?」
『うん! 鬼ごっこだね!』
「まぁ……いいか。よし、落ちるなよ!」
『うん!』
「ボクもやる!」
バルバトス神父の氷が砕け、再び襲い掛かってきた。
◇◇◇◇◇◇
「おっ?」
カドゥケウスの引金を引くと、弾丸ではなく氷の礫が発射された。
『
氷の礫はバルバトス神父の両手にヒットすると、ビシッと音を立てて手が凍り付く。
「やぁぁぁぁっ!!」
「ブッゴッ!?」
その隙を逃さず、シンクがバルバトス神父の顔面にドロップキック。ブースターによる噴射を合わせたキックは隕石のような速度でバルバトス神父の顔面に突き刺さり、僅かながら鼻血も出た。
「やれ!」
『はーい! 鬼さんこちら、凍りつけ!』
氷の幼女が手をパンと叩くと、バルバトス神父の首から下が凍り付く。
ダメ押しで、ライトは発砲しまくり氷を補強。バルバトス神父の首から下とその周辺が凍り付き、首をブンブン振って叫ぶがバルバトス神父は全く動けなくなった。
「ゴァァ!! ゴォァアアアアアッ!?」
「悪い、そのまま落ち着くまで休んでてくれ……」
バルバトス神父、捕獲成功─────。
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