第94話・合流
ライトは、居合の男を無視して隣の部屋へ向かおうとした、が……襖を開ける前にマリアが先に襖を開き、二人は鉢合わせする。
「終わったのか?」
「ええ。大したことなかったですわ」
「そうか。で、ギフトは?」
「……つまらない力でした」
「?」
部屋を覗こうとするが、マリアに止められる。
怪訝な顔をするライトだが、マリアは首を振るだけだ。
「殺してないのか?」
「ええ。せめてもの慈悲ですわ。それに、あの方のギフトはあなたに使えませんもの」
「……まぁいいや。とにかく、先に進むぞ」
「はい」
マリアは、襟元を直しながら呟いた。
「自身の体液を接種した者を意のままに操る『
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、なにも」
二人は、上階層へ続く階段を上る。
城の最上階まであと少し。
◇◇◇◇◇◇
「えっ」「あっ」「おっ……」
上階層。
最上階手前の階段を上ったマリアとライトは、白い装束を着た一人の少女……リンとばったり再会した。
さすがに予想外だったのか、ライトとマリアもポカンとして……一気に喜びが弾けた。
「リンッ!!」
「わわっ、マリア!? ライトも……来てくれたんだ」
「仲間だからな。それに、お前にはまだ借りを返していない」
抱き着くマリアを優しく抱き返し、微笑みを浮かべるライトに顔を向ける。ライトは穏やかな笑みを浮かべ、マリアはリンから離れようとしない。
というか、マリアは……。
「わふゃっ!? ちょ、マリア!! 胸触んないでよ!!」
「うふふ、慎ましく掌にすっぽり収まるリンの胸……」
「……おい、発情すんなら帰ってからにしろ。その時は邪魔しないでやるからよ」
「え!? ちょ、ライト、なんかマリアに優しくない!?」
「うふふ、ありがとうございます。では帰ったら続きをしましょうか」
「しないっ、しないって! ああもう!」
ようやく、三人そろった。
ライト、リン、マリア。旅の仲間が揃うと、こうも明るい。
再会はここまで。ライトは気を引き締める。
「よし、ここから帰るぞ。『浮遊』で一気に貸別荘まで戻って、ヤシャ王国から出る。どうやら勇者レイジの差し金で、俺はお尋ね者みたいだからな」
「あ、待って。まだやることがある」
「……なんだよ?」
「リン?」
怪訝な顔をするライトとマリアに向かって、リンははっきり言った。
「この国は腐ってる。ヒデヨシとイエヤスをぶん殴る!」
「おいおい、マジか?」
「あぁ……リン、素敵」
「マリア、怒らないで聞いてね? ライトも聞いて」
リンは、ヒデヨシから聞いた話を二人に伝える。
するとマリアが切れた。
「お、お、女の子を、ゆゆ、遊郭に送る? 記憶を改ざんして、う、売る?」
「ま、マリア! 落ち着いて!」
「はぁぅ……はぁ、お、女の子を、わたしの大好きな女の子を泣かせて、記憶を変えて遊郭に売りつけるなんて……はぁぁぁっ!!」
女の子大好きのマリアは、ブチ切れた。
ライトも胸糞悪いと呟きつつも、ヒデヨシの『洞察眼』に興味深々だ。鑑定の上位種なら、もっといろいろ見れるかもしれない。でも、さすがにこの国の王族を殺すわけにはいかない……そんな風に悩んでいる顔だった。
「たぶん、ヒデヨシとイエヤスは最上層にいる。行こう」
「……行ってどうする? 殺すのか?」
「うぅん、ぶん殴ってでも止める。それでも無理なら、手足の二、三本を切り落としてでも止める」
ライトは、ヒュゥと口笛を吹く。
リンは本気だった。少しずつ、ライトに毒されてきたのかもしれない。
「ヌルいですわ。殺して城下町に晒してやりましょう。それか……」
「待って。マリアにお願いしたいことがあるの」
「はい?」
リンは、マリアにボソボソと何かを告げると、マリアはにっこり笑った。
「面白そうですわね……」
「じゃ、それでいくよ」
「……? なにを話したんだ?」
「ふふ、秘密ですわ」
三人は、最上階へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
最上階にあるヒデヨシの部屋には、弟のイエヤスがいた。
「はぁ~……リン、帰っちゃったのかぁ」
「そうだ。残念だが諦めろ、代わりの女はいくらでもいるだろう?」
「んー……そうだね! それとさ、新しい子をまた何人か見つけたんだ。近く、挨拶に行くから、部屋を開けておいてよ!」
「……わかった。全く、お前は飽きっぽいな」
「えへへ。リンは残念だったけど、可愛い女の子はいっぱいいるからね!」
イエヤスは、リンへの興味を完全に失っていた。
女は消耗品。老いれば取り換える。それだけのこと。
ヒデヨシも同じ。売れば金になる。それだけのこと。
「兄さん、またお金が欲しいんだけど……」
「いいぞ。それと、明日にでも町に出て新しい妻を探してこい」
「うん! ありがとー!」
人懐っこい笑顔で、イエヤスは礼を言う。
イエヤスが外に出れば、『甘い愛』の力で女はいくらでも寄ってくる。イエヤスが見繕った女は美女揃いだ。
妻の数は二十人と決めている。飽きた女はまたイエヤスが捨てるだろう。それを拾い、記憶を弄って売れば金になる。
遊郭の客はヤシャ王国だけではない。ファーレン王国の貴族や、他国のお客も山ほど来る。金持ち相手の商売なので、お金はいくらでも入ってくる。
「イエヤス、楽しいか?」
「ん? どうしたのさ、いきなり」
「いや、なんとなくな」
「えへへ、もちろん、毎日とっても楽しいよ! 可愛い女の子たちに囲まれて、いっぱい遊んで……これからもずっと、こんな幸せが続くといいな!」
「続くさ。お前がお前である限りな」
「うん! ありがとう、兄さん!」
次の瞬間、襖が蹴り破られた。
「続かないよ、そんなの」
一人の、少女の声だった。
襖の奥から現れたのは、三人の男女だ。
「なっ……なぜここに!? 下に護衛が」
「ああ、あの刀野郎は殺した」
「女は……生きてますわ。でも、もう遊女としては生きていけませんわね。うっふふ」
「あ、リン! リンじゃないか! なんだ、帰ってなかったのかー」
「…………イエヤス」
純粋と言えばそれまでなのか、イエヤスに悪意はない。
それだけに、許せなかった。
「悪いけど、私……怒ってるからね」
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