第62話・時間は止まらない、でも
ドラゴンノベルス新世代ファンタジー投稿作品です!
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『相棒、寝るにゃーま~だ早いぜぇ?』
カドゥケウスの声が、ライトの内側に響く。
不思議と、ライトはその声に安堵していた。
『今回の相棒はなかなかよかった。かつての婚約者を遠慮なく喰い殺そうとして、しかも黒い炎で焼き殺そうとまで……っくぅぅ~、痺れたぜぇ?』
ライトは、楽しんでなんかない。
セエレが婚約者だったのは過去の話。今じゃ怖気のするような思い出だ。
今、セエレにあるのは復讐心。家族や親友を殺した聖剣勇者にして、憎むべき勇者レイジの妻だ。
殺さない理由は無い。
『だからよ、相棒と旅を続けりゃあ……もっともっと面白い光景が見れるんだ』
「……?」
『ケケケッ、相棒、死ぬな……認めてやる』
ライトの中に、温かな何かが満ちていく。
大罪神器という呪われた力なのに、この温かさは気持ち良く、そして心地よかった。
『ぶっ壊れろよ相棒。でも、お前はお前のまま壊れるんだ。もっとゲスみたいに嗤いつつ、心は相棒のまま、お前の親友や家族が愛した相棒のまま、聖剣勇者と女神をぶっ殺すために壊れるんだ』
カドゥケウスの声が、温かい。
死体に集るハエのくせに、ライトはそう思い……笑った。
この相棒はきっと、自分にとって最も近くて遠い存在。
『ケケケッ……イこうぜ相棒』
「ああ……」
朦朧とする意識の中、ライトは立ち上がる。
血を流し、傷付き、意識も失いかけている。でも立ち上がる。
復讐のために、聖剣勇者と女神を殺すために、立ち上がる。
『第三階梯だ』
ライトは、新しい力を理解して……嗤った。
◇◇◇◇◇◇
「くっは、くははははっ! くっははははははははっ!」
「あぁ?」
ライトは嗤って立ち上がる。
血にまみれた身体は痛々しく、ダメージが深いのは誰が見ても明らかだ。
それでも、ライトは立った。
「なんだお前?」
「いや、勝利を確信したよ……お前たちは、俺に負ける」
「はぁ?」
「レイジ、油断しないで!」
ライトは、ニヤニヤしながら言った。
「俺は予言する。お前たちは地面に這いつくばる」
「ふーん? まぁいいや。おいセエレ、終わらせるぞ」
「油断しないで、ライトは何かを隠している!」
「わーってるよ。高速で終わらせる」
「うん……!!」
レイジは『聖剣グラディウス』を構え、セエレは『雷切』と『凍炎』を逆手で構える。
「じゃあな。これが終わったら海に行くんだからよ、さっさと死ね」
「レイジ、行くよ!」
レイジとセエレが同時に襲い掛かり……。
「……っはは」
ライトは、暗い笑みを浮かべた。
◇◇◇◇◇◇
「ふぁ?」
ぐにゃぐにゃ、ぐにゃぐにゃ、ぐにゃぐにゃ。
レイジの視界が歪み、上下左右がおかしくなった。
レイジは転び、いや立っているのか? それもわからない。どうなっているのか?
「ふぁれ? ふぁ?……?」
「ょう、気分はどぅだ?」
「??????????」
レイジは、どこからか声を聞いた。エコーがかかったような、風呂場で聞くような、霞みがかった声だ。
頭を上げようとして、グイッと引っ張られる、ような気がする。
「わかるか? お前、顎が砕けてるぞ? くっは、くははははっ!」
「!?!?!? ふぁぁ!?」
レイジの顎は、粉々に砕けていた。
それだけじゃない、歯という歯も砕け、喋ることもできない。それに口の中がドロドロぐちゃぐちゃ、血のような味もした。
「はははっ……、なぁ、見ろよ」
「??? ふぁぁ!? ふぇええ!?」
「そう、セエレ……はははっ、血ぃ吐いてるぜ? そりゃそうだろうな、内臓が破裂間違いなしの蹴りを食らって吹っ飛んだからなぁ」
「ふぁ、ふぁにふぉ……ふぁにを、ふぃた?」
「んん~?」
ライトは、蹴り飛ばされ岩に激突したセエレを嘲笑いながら、レイジの髪を引っ張った。
ブチブチと、頭頂部の毛が抜けて河童のようになる。ライトは舌打ちをして首を掴んだ。
「くぇぇぇぇ……」
「くははははっ! ざまぁねぇなぁおい! なぁ、なぁぁぁっ!!」
ライトはレイジを殴って地面に這いつくばらせた。そして、背中を踏む。
あの勇者レイジが、ライトに踏みつけられている。
「くっはは……俺を舐めるからだ。バカが」
『相棒、どうすんだ?』
「くふふ、なぁカドゥケウス、いいものを見せてやるよ」
『あぁ?』
ライトはレイジの顔を持ち上げ、セエレの方を向かせる。
セエレは、内臓破裂で真っ青になり、血反吐を撒き散らしていた。
「教えてやる。俺の新しい力……第三階梯『
レイジの頭を押さえ、囁くように言った。
「俺の新しい力はな……
◇◇◇◇◇◇
第三階梯『
その力は、1日3回、1秒を10秒にすることができる。つまり、ライトの体感時間を延ばすことの出来る能力だ。
どんなに早くても、十分の一の動きならライトにも見切れる。
セエレとレイジの動きは早いが、十分の一の動きなら並の速さと変わらない。カウンターを合わせるのは容易だった。
もちろん、肉体に多大な負荷が掛かるが、今のライトは痛みを忘れるくらい高揚していた。
「さぁ……リベンジといこうかぁ?」
「ふぁぁ!? ふぇええ!?」
「くはは……っくっははははははははははっ! 勇者レイジ、お前も苦しめ! 俺の受けた苦しみをお前にも味わわせてやるよぉぉぉぉっ!!」
ライトはレイジの頭を踏みつけ、セエレの方を向かせた。
目を逸らせないように、血反吐を吐いて苦しむセエレを見せつけ……祝福弾を装填する。
「あばよ、セエレ」
「ふぁめおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ライトは歪んだ笑みを浮かべながら、祝福弾を発射した。
「フェエレェェェェッ!!」
「れ、いじ……」
セエレに祝福弾が触れると同時に、大爆発を起こした。
内臓が飛び散り、バラバラになった肉が飛び散り、骨が砕け、何かが転がってきた……。
「まずは一人目」
「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!!」
コロコロ、コロコロと……レイジの眼前に、砕けた生首が転がってきた。
爆破の衝撃で中身は飛び散り、眼球も吹っ飛んだセエレの……。
ライトは言った。
「『ったく、いい加減にしろっての』……だったか?」
「ふぁ」
ライトは、セエレの生首を蹴り飛ばした。
「これが、俺の受けた痛みだ。ざまぁみろ」
レイジの眼が暗闇に染まり、ライトは満足げな笑みを浮かべた。
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