第50話・セエレとレイジ

 セエレは、レイジの部屋にいた。


「私、ワイファ王国に行ってくる。新しいギフトをもらったから、これでライトを始末するね」

「ま、マジ? おいおい、別に放っておいていいだろ? 逃げ出した腰抜けが戻って来ようと、オレの敵じゃねぇよ。それより、今はオーサマの仕事が忙しいんだよ。オーサマのな!!」


 レイジは、国王という立場に酔っていた。

 できもしない国政に口を出しては混乱させ、勇者で国王という立場のせいで誰も口出しできない。

 何より、国民から人気がありすぎた。何の前触れもなく町に現れては国民を労ったりするものだからさぁ大変、レイジの周りはあっという間にパレード状態だ。


「それと、お前にもやってもらいたいことがあるんだ。リリカと一緒に女性だけの騎士部隊を作ろうと思ってよ! なぁなぁ、姫騎士部隊ってどうよ!」

「……………」


 セエレは苦笑し、レイジに寄りかかる。

 バカで底抜けに明るくて、どんなときも元気づけてくれるレイジ。

 それに、レイジが国王になって悪い事ばかりではない。


「あとさ、消費税を導入しようとおもうんだ!」

「……しょうひぜい?」

「ああ。今の国の税は年に何回かだろ? それを30日に一度の徴収にするんだ。商品とか、仕事の給料とかから何パーセントかいただくって寸法だ。たとえば、銀貨一枚の商品だったら、銀貨一枚に銅貨三枚の値段にするとか」

「…………」


 セエレでも穴だらけの政策だと思ったが、この政策は国の宰相たちによって詰められ、新たな税金制度として取り入れられることになる。

 そんなことより、今の状況だ。


「聞いてレイジ。女神様にも聞いたけど、大罪神器は恐ろしいギフトらしいの。放っておけばライトは『魔刃王』に匹敵する脅威になるって……」

「魔刃王……」


 レイジは「うーん」と唸り、大きく頷いた。


「わかった。じゃあオレと一緒に行くぞ」

「え」

「国はアンジェラとアルシェに任せて、ライトをぶっ殺しに行こう。ついでにリンも連れ帰るか」

「え……」

「よし、準備すっか。ワイファ王国って常夏の国だよなー……なぁなぁセエレ、せっかくだし海で泳がないか? 水着買ってやるからさ」

「…………」


 ライトを軽視しているとしか思えなかった。

 だが、レイジは強い。

 新たなギフトを授かったセエレでも勝てるかわからないし、この余裕は『勇者』であるレイジの絶対的な自信の表れだ。

 ライトを始末するついで、いや、海でセエレと遊ぶついでにライトを殺すと言っているのだ。


「今回は、お前と一緒に旅行だ。安心しろよ、他の三人も機会を設けるからさ」

「う、うん……」


 セエレは、レイジと二人きりという言葉に酔ってしまい、これを承諾した。


 ◇◇◇◇◇◇


「つーわけで、ちょっとセエレと出かけてくる」


 レイジは、自室に呼び出したアルシェとアンジェラにそう伝えた。

 さすがに二人とも仰天し、レイジに詰め寄る。


「わわ、わたくしも一緒に参りますわ! レイジ様とセエレだけなんて……」

「……私もご一緒したいです。レイジ様」

「ダメだ。二人には王国を任せる。あと、女神様のところで修行してるリリカにも伝えてもらわねーとな。頼むぜ」

「で、ですが……」

「アンジェラ、頼む。その代わり、今度出かけるときは連れて行くからさ」

「うぅ……」


 アンジェラは俯くが、レイジが頭を撫でて抱き寄せると、恍惚の表情を浮かべる。

 そして、レイジは耳元で囁いた。


「出発は明日。今夜は可愛がってやるからさ」

「あ……」


 アンジェラは耳まで赤くして頷いた。

 アンジェラを解放し、レイジはアルシェに言う。


「アルシェ、アンジェラの補佐として王国を頼むぜ」

「……はい」

「ほら、お前も」

「……ん」


 アルシェを抱きしめたレイジは、同じように囁く。


「アンジェラと一緒に可愛がってやる」

「ん……はぃ」


 レイジの夜は、長くなりそうだった。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 翌日。

 旅の荷物を積んだ馬車にレイジとセエレは乗り込み、ファーレン王国を出発した。

 手綱を握るのはセエレで、レイジはその隣でリンゴを齧っている。


「しっかし、こうやって旅に出るのは懐かしいぜ」

「そうだね。魔刃王を討伐して一年も経ってないから……」

「ま、今回は楽勝だ。ライトとか言うガキを始末すりゃいいんだろ? 魔刃王になる前なら、オレの敵じゃねぇ」

「……うん」

「安心しろセエレ、お前の勇者は最強だ!」

「……うん!」


 レイジはニカッと笑い、隣に座るセエレの肩に手を置いた。

 これなら、新しいギフトの出番はないかも。そう思ったセエレ。


「げ、やっべ……」


 レイジは御者席に座っていたので、注目を浴びていた。

 

「勇者レイジだ!」「国王バンザーイ!」

「きゃあっ! レイジ様ぁぁっ!!」「おお、勇者バンザーイ!」


 レイジは手を上げて答えると、城下町のメインストリートはパレード状態だ。

 

「やっべぇな、隠れりゃよかったぜ……」


 そう言いつつ、しっかり民衆に応えるレイジは、王の器があると言っても過言ではない。

 民衆に愛され、国に愛され、女神に愛された勇者レイジ。

 この人なら、きっとファーレン王国を幸せにできる……。





 そんな幻想を、セエレは見た。

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