第49話・セエレの新ギフト

 リリカとセエレは、女神フリアエが祈りを捧げている『女神の間』にやってきた。

 

「ちょっと緊張するね……」

「リリカ、言葉遣いに気を付けて」

「はいはい」


 二人が扉に近づくと、何もしていないのに扉はゆっくり開かれる。

 お互いに顔を見合わせて頷くと、2人は奥へ進んだ。

 そして、奥の間では、一人の美しい女性が跪き、天に祈りを捧げている姿があった。


「……綺麗」


 リリカがポツリと呟く。

 同性だが見惚れてしまう。セエレもゴクリと唾をのみ、女神フリアエにゆっくりと近づいた。

 そして、祈りを解いたフリアエは、ゆっくりと振り返る。


「おや、愛しき子。何か御用ですか?」


 ほんの少し微笑を浮かべただけでも吸い込まれそうになる。

 セエレは首を振り、息を整え、気を引き締めて女神に跪いた。


「フリアエ様、お祈りの時間を邪魔して申し訳ありません。いくつかお伺いしたいことと、お力添えを願いたく参上しました」


 堅苦しいセエレの言葉に、フリアエはくすくす笑う。


「ふふ、もっと気を抜いて構いませんよ。セエレ」

「あ、いや……はい」

「じゃあ私も!」


 リリカは立ち上がり、身体の力を抜いた。

 やれやれとセエレも息を吐き、立ち上がる。


「それで、何か御用ですか?」

「ライトのことを教えて」

「こ、こらリリカ! 申し訳ありませんフリアエ様!」

「構いませんよ。それで、ライトとは……確か、あなたたちの幼馴染みでしたね」

「はい。私の顔に傷を付けた……っ、あの、クソ野郎……!!」

「リリカ、落ち着け」


 リリカの長い黒髪が揺らめき、目には殺気が籠る。

 だが、フリアエは微笑を浮かべたままだ。


「そう、あの【大罪】の少年ですね」

「大罪……あの、ライトは《祝福ギフト》を授かりませんでした。あの力と何か関係があるのですか?」


 セエレはフリアエに質問する。するとフリアエはセエレたちの元に近づき、ゆっくりと話し始めた。


「大罪とは、私の授けるギフトとは真逆の邪悪なる力。かの『魔刃王』と同じ力のことです」

「魔刃王……あんな強敵の力を、ライトが」

「はい。今はまだ目覚めて間もないですが、時間が経つに連れ、魔刃王と同等かそれ以上の力を得るでしょう……」

「じゃあ、私たちでまた討伐すればいい。そうですよね、フリアエ様」


 リリカはニヤリと笑う。かつて敗北したことなど忘れ、復讐の機会ができたことに歓喜している表情だった。


「そうですね。でも、今のままでは厳しいでしょう。特に、リリカ」

「……っ」


 そう、リリカは敗北している。

 

「で、でも、《神化シンカ》の力はまだ成長します! もっと強くなって、一人でも倒せるくらい」

「無理です」


 フリアエは、きっぱりと言った。 

 さすがのリリカも絶句。セエレは何も言わない。


「確かに、あなたはその若さで《祝福ギフト》を《神化シンカ》させました。ですが、あなたのその慢心が敗北に繋がった。まずは力より心を鍛えるべきです」

「そ、そんな……そんなの知らない!! 私は強いんだからぁっ!!」

「ええ、あなたは強い。でも……【暴食】の少年には勝てない」

「……っ」


 リリカは涙ぐみ、俯いてしまう。

 だが、そんなリリカをフリアエは優しく抱きしめた。


「大丈夫。愛しい子……私の言うとおりにすれば、きっと強くなれる」

「……ほんと?」

「ええ。だから泣かないで、涙を拭いて、前を向いて」

「ん……」


 リリカの涙をぬぐうと、リリカは静かに寝息を立て始めた。

そんなリリカを優しく抱き留め、フリアエはセエレに言う。


「セエレ」

「は、はい」

「あなたに、お願いがあります」

「……はい」


 フリアエは、最初に会った微笑で言った。


「あなたに力を与えましょう。この世界の敵となる【大罪】を、どうかその手で滅ぼしてください」

「……お任せを」


 リリカを抱いたまま、フリアエの背中から翼が広がる。

 そのままゆっくりと浮遊すると、フリアエの身体が淡く光りはじめた。


「おぉ……」

「セエレ、あなたに新たな『祝福』を。そして……悪しき神を滅ぼす力を与えましょう」


 セエレの身体が緑色に輝き、フリアエから落ちた一枚の羽根がゆらゆらと舞う。

 その羽を掴むと、セエレの眼から涙がこぼれた。


「あ、ああ……これが、新しい祝福……」


 新たなギフト。『雷切』の神化。

 セエレは、自分が強くなったことを実感した。


「リリカは私にお任せを。セエレ……行きなさい」

「はい……っ!!」


 行先は、もうわかっている。

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