第26話、喰銃カドゥケウス

 宿の一階で食事をすることにした。

 長旅の疲れがあったので、出発をせずに泊まることに。それに、徒歩でファーレン王国に戻るにしても準備は必要だ。

 一階は酒場にもなってるらしく、町の酒飲みたちが酒盛りを始めている。

 適当な席に座り、適当な注文をした。


「私は本日のオススメで」

「……それでいい」

「はいよ、オススメ定食2つね!」


 宿のおばちゃんがオーダーを取り、厨房に消えていく。

 カドゥケウスは部屋に置いてきたので、ライトとリンだけの食事になる。


「ライトさん、お母さんを助けたらどうするんです?」

「……ファーレン領土には居れないだろう、どこかファーレン王国に介入されないような国家はないか?」

「でしたら……ワイファ王国ですね。旅の途中で寄ったんですけど、どうも非協力的でした」

「ワイファ王国……かなり遠いな」

「はい。お金はあるし、馬車を買うなんてどうです?」

「…………それはお前の金だろ」


 ガルムの群れを討伐したのはリンだ。報奨金は全てリンが使うべきだろう。

 するとリンは、大きく頷いた。


「そうですね。でも、仲間ですから」

「仲間ねぇ……」

「はい」


 そして、料理が運ばれてきた。

 ステーキにライス、スープの豪快なメニューだ。

 

「わぁ、おいしそう……いただきまーす!」

「…………」


 ニコニコしながらナイフとフォークを掴むリン。ライトも腹は減っていたので、同じくナイフとフォークに手を伸ばし────────。


「ッッッ!?」

「ライトさんっ!?」


 激痛が頭に流れ、ナイフを取りこぼした。

 刃物を、剣を握る事が出来ない。こんな小さなナイフを掴むことも出来ない。

 フォークは大丈夫のようだが、肉を切ることはできなかった。


「ライトさん、私が……」

「いい」


 上等だ。ライトはフォークを掴みステーキに刺す。

 そして、肉を持ち上げ豪快にかぶり付いた。


「……美味い」

「……はい」


 騎士団では、こんな食べ方をしなかった。

 腹も減っていたので、肉をあっさり完食する。ナイフが使えないなら、使わないで食べればいい。


 刃物が使えないなんてハンデ、問題ない。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 部屋に戻り、明日の予定を確認した。


「とりあえず、馬を手に入れましょう。小さな荷車とセットで金貨20枚しないと思います」

「ああ」

「それと、食料や水も買い込んでから」

「ああ」

「着替えも必要ですし、地図も必要です」

「ああ」

「あと、お母さんを助け出す作戦も」

「ああ」

「…………ライトさん、真面目に聞いてます」

「ああ」

「…………」

「…………」


 リンは、ため息を吐いた。

 落ち着いたとは言え、ライトは父親と親友を目の前で殺されたのだ。その激情は内にナリを潜め、少しずつだが心が受け入れ始めている。

 だが、受け入れたところで、復讐という炎が消えることはない。その炎が消えるのは、勇者レイジと4人の聖剣使いが死んだときだ。


『よぉ、盛り上がってるとこ悪いけどよ。兄弟、オレを使う気になったのか?』

「……さぁな」

『カカカッ、素直じゃないねぇ……だったら、取扱説明書マニュアルを聞いといた方がいいぜぇ?』

「…………」


 ベッドサイドに置いてあるカドゥケウス。

 漆黒の大型回転式拳銃は、楽しそうにケラケラ笑う。

 ライトは、ポケットから3発の弾丸を取り出した。


「これ、文字なのか?……『硬化』? 意味は理解出来るが……」


 弾丸の薬莢部分に文字が刻まれていたが、この世界の文字ではない。

 リンが弾丸を一つ摘まんで見て、驚いた。


「うそ、これ……か、漢字ですよ!? なんでこの世界に漢字が」

「カン、ジ?……古代の言語か?」

「わ、私の世界で使われてる言葉です……というか、拳銃も私の世界の武器です。こんなリボルバータイプ、この世界にあるわけがない。銃や火薬だってないのに……」

「?」


 ライトは首を傾げ、カドゥケウスは言う。


『お嬢ちゃんがなに言ってるかわかんねーけど、それは魔界の文字だ。オレから言わせれば兄弟はともかく、お嬢ちゃんが読めるのが不思議だぜ』

「私の世界では子供でも読めますよ」


 カドゥケウスとリンは、仲良くなっている……気がした。


『さて、兄弟。左腕を見せな』

「…………」


 ライトは、袖をまくる。

 そこには、指先から腕の関節まで真っ黒になった腕があった。

 爪も皮膚も黒く、抓っても濡らしても感覚がない。試していないが、火で炙っても火傷することはないだろう。

 リンが顔をしかめたのを尻目に、カドゥケウスは言う。


『オレの能力は単純明快。『喰って』、『吐き出す』……それだけだ』

「喰う……」

『ああ。兄弟はもう3人喰ったよなぁ? 喰ってギフトを手に入れたわけだ』

「黙れ……!!」

『カカカッ、まぁそういうことだ。オレは喰った人間のギフトを弾丸にして放つことができる。もちろん、いくつか誓約がある』

「誓約、ですか?」

『ああ、まず一つ……オレは


 これには、ライトもリンもギョッとした。


『カカカッ!! なんせオレは【暴食】、死体に集る蠅だからなぁ!! 生きた人間は喰えねぇのさ!!』

「……クソ野郎が」

『それともう一つ。単発のギフトは大したことねぇ。オリジナルの劣化版ってとこだ。それと、オレに『祝福弾』は6発しか装填できない。しかも1発撃ったらその弾丸は1時間は使えない。よーく考えて撃てよ?』

 

 カドゥケウスの使用法を説明するが、ライトはよくわからなかった。

 そもそも、銃なんて武器はこの世界にないのだ。撃つだのなんだの、よくわからない。


『その左手で死体を喰え。そうすりゃ《祝福喰填ギフトリロード》で弾丸を精製出来る。通常の弾を撃ちたきゃ……そのへんの瓦礫でも喰えばいい』

「……チッ、使えねぇな」

『おいおい、そりゃないぜ兄弟。まぁ使ってりゃそのうちわかるだろうよ』

「……」


 ライトのカドゥケウスに対する印象は、気持ちの悪い武器、だった。

 こんな得体の知れない力をこれから使わないといけない。小さい頃から鍛錬してきた剣が、騎士副団長すら倒した剣技が、何一つ使えない。


『ま、仲良くやろうぜ、兄弟』

「…………」


 ライトは、カドゥケウスを無視してベッドに転がった。

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