第25話・復讐鬼リリカ

 ファーレン王国・王の間。

 新国王となった勇者レイジは、怒りに燃えていた。


「いいか、リリカを傷付けたあのライトとかいう雑魚をさっさと見つけろ!! まだファーレン王国の領土から出てないかもしれねぇ……領土中の町や村を探せ!! 指名手配して各地にビラを配れ!! それとリンの野郎も捕まえろ!!」


 玉座に座りながら宰相や近衛騎士に命令を出すと、騎士や宰相は忙しなく動いた。

 そんなレイジを心配そうに見るのは、4つある王妃の椅子の一つに座るアンジェラだ。


「レイジ、あまり無理をしないでくださいな」

「……悪いアンジェリカ。リリカをやられた怒りではらわたが煮えそうなんだ」

「大丈夫。リリカの顔は綺麗に治ったし、今はぐっすり休んでいるわ」

「……ああ、そうだな。女神様には感謝しかねぇよ」


 レイジは、王の間の後ろにある立派な門を見た。

 そこは、『女神の間』と呼ばれる、レイジとリンが召喚された部屋であり聖域。今は『祝福の女神フリアエ』がいる部屋だ。


「まさか、女神フリアエ様がこの王国にいるなんてな」

「ええ……本当に、素晴らしいことですわ」


 レイジとアンジェラは、女神のことを考えるときだけ安らいだ表情になる。

 天の国から来た女神フリアエ。人類にギフトを授けし祝福の女神。レイジの召喚魔術により呼び出され、今はこのファーレン王城にいる。


「とにかく、あのライトとかいう餓鬼は許さねぇ……捕まえて裁判にかけてやる!!」

「ふふ、レイジが出て捕まえれば一発じゃない?」

「それもそうだけどよ……いいかアンジェラ、覚えとけ」

「?」


 レイジは自信たっぷりに、首を傾げるアンジェラに言った。


「王様ってのは、城から動かねぇモンなんだよ」


 ◇◇◇◇◇◇


 セエレは、リリカの部屋にいた。

 名目は見舞いだがそうじゃない……アルシェの依頼で、リリカを押さえるためだ。

 リリカは現在、ベッドの上で大人しく寝ている。だが、寝ているという表現は正しくない。清楚なネグリジェを着せられ、両手両足を鎖でガッチリ固められているのだ。


「…………」

「起きたか、リリカ」

「ライトは?」

「…………現在、捜索中だ」

「私が行く。これ外して」

「ダメだ。レイジの命令は捕縛だ、それに」

「外せ」

「…………」


 案の定……リリカは、ブチ切れていた。

 憎悪の籠もった目でセエレを睨み付けるが、ずっと一緒にいた幼馴染みにビビるようなセエレではない。

 

「リリカ、これ以上私を困らせないでくれ」

「外せ、セエレ……外せ!!」

「ダメだ」


 リリカは、ガッシャガッシャと鎖を軋ませながら暴れた。


「ライト、ライトライトライトぉぉぉぉぉぉぉっ!! あの野郎、私を殴りやがった!! 私の顔を、私を、私をををををををををーーーっ!! あの野郎は私が殺す、殺す殺す殺す殺す殺すぅぅぅっ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「…………」


 暴れるリリカを、冷めた目でセエレは見る。

 いかに『四大祝福剣』の使い手と言え、剣を持たなければ問題ない。

 ギフトの武器である『鬼太刀』を出そうものなら、一瞬で腕を切り落とすつもりだった。どうせ怪我なんて放っておけば治る……リリカは、特別だから。


「リリカ、ライトの捕縛はレイジの命令だ。お前、レイジに背くつもりなのか?」

「レイジ……ああ、レイジに会いたい。レイジに会いたいよぉぉ……っひく、うぇぇ」

「…………」


 リリカは泣き出した。

 魔刃王やその側近とは、鬼のような強さを見せたのに、レイジのことになると年相応の少女になる。

 すると、部屋にアルシェが入ってきた。


「失礼するわ」

「おかえり。それで……?」

「ええ、手筈通り」


 鎖に繋がれてるリリカを気にせず、アルシェとセエレは話をする。

 リリカは相変わらず泣き、アルシェは言った。


「手筈通り、


 ◇◇◇◇◇◇


 深夜、リリカは泣き疲れて眠っていた。

 リリカの部屋にはアルシェがいる。何をするかわからないリリカを押さえるため、不本意ながらリリカの部屋で寝泊まりをしているのだ。


「…………」


 リリカは、眼を覚ました。

 温かい光に包まれたような感触が、ぬくもりがリリカを包む。


「あ……れいじ?」

『いいえ、私ですよ、リリカ』

「女神さま……?」

『はい』


 リリカが首を傾けると、まるで看病するかのように女神フリアエが座っていた。

 翼がなくなり、どう見ても人間にしか見えなかったが、間違いなく女神だ。


「女神さま……私、許せない」

『ええ、知っています』

「私、ライトを殺したい……」

『ええ……』

「わたし、わたし……」

『大丈夫……』


 女神フリアエは、リリカの頭に手を乗せる。

 温かく、柔らかな手だった。

 

『私のリリカ、あなたは優しくてとても強い子……自分の意志で、正しいことをしなさい』

「ただしい、こと?」

『ええ。あなたがしたいことを、自分の意志で。それはレイジのためであり、あなたのためでもある』

「…………わた、し」

『さぁ、私のリリカ……』


 リリカを縛っていた鎖が、粒子となって消えた。

 ゆっくりとリリカは立ち上がり、女神フリアエに向き直る。


「わたし、やってみます」

『ええ、あなたならできるわ』

「はい……」

『お行きなさい、私の子リリカ』

「はいっ!!」


 リリカは、女神フリアエに抱きついた。

 フリアエは、リリカを優しく抱き返す。


「私…………ライトを殺してきます」


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日、城は大騒ぎだった。


「アルシェ!! お前は何をしていたんだ!!」

「う……わ、わからないの、結界を敷いてたし、寝ていても神経は尖らせていたから」

「その結界とやらは跡形も無く消えて、神経を尖らせていたお前は爆睡だぞ!? どうしてこんなことに……」

「…………」


 リリカが、失踪した。

 魔刃王討伐にも使用した戦装束に着替え、城から消えた。

 アルシェとセエレはすぐにわかった。リリカは間違いなく、ライトを探しに行ったのだ。


「レイジには?」

「報告したわ。でも……リリカに任せておけって」

「そんなバカな……ライトのギフトを見ただろう? あんな得体の知れない力」

「わかってる! じゃあどうするの!!」

「……探すしかないだろう」

「ど、どうやって!?」

「……恐らく、リリカならライトを見つける。間違いなく大規模な戦闘になるだろう……風の声を聞けば見つけられるはずだ」

「セエレ、あなた……ファーレン王国領土中の声を聞く気なの!?」

「それしかない。私がリリカを連れ戻す」


 セエレは、アルシェが何か言う前に城から飛び出した。

 

「くそ、リリカのやつ……」


 セエレは焦っていた。

 なぜなら……リリカは、ライトの母を連れ出していたから。

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