第23話・くそったれな呼び声
「アク・エッジ!!」
リンは、魔術で水の刃をいくつも生み出し、ガルムに向けて射出する。そして水の刃を躱したガルムに接近し、借りたロングソードで切り裂いた。
線の細い少女だが、勇者パーティーとして数多の戦いをしてきたリンは、戦闘経験ならそこらの兵士や傭兵よりも高い。当然だが実力も。
だが、ギフトを失った影響はやはり出ていた。
「っく……規模も威力も半分以下、並みの魔術師と変わらない」
魔術の威力や規模が大幅にダウンしていた。
ギフトによる恩恵で魔力も身体能力も上がっていたが、その全てが失われていた。
リンは歯噛みしながら……ライトの絶叫を聞いた。
「ライトさん!?」
ライトは、ガルムの目の前でうずくまっていた。
脂汗を流しながら剣を落とし……足元には、見覚えのある大型自動拳銃が落ちていた。
ライトの目の前のガルムは、口を開けてライトにとびかかる……。
「くっ……アク・エッジ!!」
リンの水の刃が、ライトを襲おうとしてるガルムに向けて飛び、その体を両断した。
「ライトさん!! ライトさん!!」
「……っ」
「何があったんですか!? ライトさん!!」
「っく……っくそ!!」
リンは、ライトの身体に何か起きたと判断した。
ガルムはまだ残っている。
「こうなったら、私が……っ!!」
リンは、一人でガルムを狩りつくした。
◇◇◇◇◇◇
なんとかガルムを退治したリンは、怪我人の手当てを行った。
水属性の治癒魔術は習得が難しく、どこに行っても重宝される。聖剣の恩恵で魔術習得が容易だったのは感謝していた。
馬車の護衛兵士たちを治療すると、彼らは馬車のチェックとガルムの死骸処理を初めた。
それらを任せ、リンはライトの元へ。
「ライトさん、大丈夫ですか?」
「…………」
「あの、何が? それとその大型拳銃……なんでここに」
蹲り、肩で息をしていたライトはようやく落ち着きを取り戻した。
そして、落ちていた銃を掴む。
『おっ、ようやくオレを使う気になったか? じゃあいろいろ説明しt』
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ライトは、大型拳銃を近くに岩に思いきり叩き付けた。
ギョッとするリンを他所に、岩に叩き付けられた拳銃を思いきり蹴飛ばし、再び岩に叩き付ける。
「ら、ライトさん!? なにを!!」
「こいつが、こいつがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 返せ、返せ返せ返せ返せ返せ返せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
『…………』
拳銃を踏みつけまくるが、傷一つ付かない。
リンはライトを羽交い絞めにすると、ようやく落ち着いた。
『気は済んだか? つーか、そんなのでオレが壊れるわけねぇだろ。オレが破壊されるとしたら、兄弟が死んだときだけだ』
「ふざけるんじゃねぇぞ!! 剣を奪っただと、どういうことだコラぁっ!!」
『だーかーら、対価を支払ったのは兄弟自身じゃねぇか。最も大事なものを対価に、力をやるって契約だろ』
「それが、それが剣だっていうのか……!!」
『正確には『刃物』だな。兄弟はこれから死ぬまで、刃物は一切使えない。握ることも触れることもできない。つまり、戦うにはオレを使うしかないのさ』
「お、まえ……っ!!」
『対価を支払ったのはお前だぜ? オレを恨むのは筋違いさ。そんなにオレを使いたくないなら、身体を鍛えて格闘技でも習えば? 一発かます前に聖剣で真っ二つ……なんてな』
「この、野郎……っ!!」
『あと、オレはカドゥケウスだ。名前で呼んでくれよ、兄弟♪』
ライトは、大型拳銃のカドゥケウスに怒りを覚えていた。
理不尽な怒りだということはわかってる。だが、騎士になるために幼いころから習った剣技を全て失ってしまった。
「ライトさん……」
「…………」
『おい嬢ちゃん、オレと兄弟は一心同体、距離なんて関係なく目の前に現れることができる。とりあえずオレを回収して、落ち着ける場所で話をしようや』
「……そうね。あなたのことも気になるし」
リンはカドゥケウスを持ち上げ、胸に抱く。
もしかしたら、この得体の知れない力は、勇者の脅威となるかもしれない。
『おうおう、ガキのくせにいい乳してんじゃねぇか』
「…………」
リンは、カドゥケウスを藪の中に投げ捨てた。
◇◇◇◇◇◇
ライトと一緒に馬車に戻ると、馬車の点検を終えた傭兵が出発の準備をしていた。
ちょうどライトたちを呼びに行こうとしていたようだ。
「ちょうどよかった。手助けの礼をしようと思っていたんだ。オレたちは領土国境の町まで荷物の運搬護衛をしていてな。見たところ徒歩のようだしそこまで乗せてやろう。あと、ガルムの牙を採取しておいた。手助け料金とガルムの牙の料金と合わせて、金貨30枚支払おう」
「い、いいんですか? ありがとうございます!!」
「…………」
リンは頭を下げ、傭兵から金貨の袋を受け取る。
金貨30枚もあれば、二月は暮らせる。思わぬところで資金が手に入り喜ぶリン。
ライトの表情は特に変わらなかった。
「それと、お節介かもしれないが、予備の服と装備も提供しよう。お嬢さんは丸腰、そこの少年はボロの服……何か事情があるようだが、傭兵の我々には関係ない。助けてくれた礼として受け取ってくれ」
「……何から何まで、ありがとうございます」
こうして、リンは装備一式、ライトは服を着替えた。
ライトは剣を受け取ろうとしたが……受け取れなかった。
「では、領土国境の町に出発する。馬車に乗ってくれ」
「はい!」
「…………」
馬車はゆっくりと走り出す。
ライトは、グチャグチャした思考のまま考えていた。
「…………」
このままでは、母さんを助けられない。
剣を使えないのは事実のようで、剣の塚を握ったときの激痛は身体に刻まれてしまった。
本来は、領土国境の町で装備を整え、ファーレン王国に戻るという算段だったが、どうしようもない。
まさか、素手で殴り込みするわけにもいかない。
自分の目的は、勇者の殺害だ。刺し違えるならともかく、殺されれば勇者たちが喜ぶだけだ。
「…………」
「ライトさん……あの」
早急に、この忌まわしい呪いを解く必要がある。
剣がなければ戦えない。ライトはそう考えていた。
カドゥケウスで戦うということは全く考えていない。あんな呪いの武器、触れるのだってもう嫌だとライトは考える。
「ライトさん、町に着いたら宿を取りましょう。少し休んで、これからのことを」
「…………」
リンが何か言ってるが、ライトは全く聞いていなかった。
『おいおい、寂しいねぇ……オレを捨てて行くなんてさ』
カドゥケウスの声が、再び聞こえた。
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