第13話・暗雲


 リリカとセエレが帰還し、三日が経過した。

 俺は相変わらず二人には会えない。家に帰ってもいないみたいだし、城の権力者達とのパーティーが連日行われてるせいだろうと俺は思った。

 二人がいつ帰ってきてもいいように、家に帰った俺は裏庭でトレーニングを繰り返す。もしかしたら二人がひょっこり現れるんじゃ無いかと、そんな期待をしていた。


 「シッ!!」


 【木剣863号】と彫られた木剣を振りながら、俺は日課のトレーニングをする。

 剣術なら騎士団の隊員でもトップレベルとまで言われるようになった。身長も筋肉も成長したし、自分で言うのも何だが、面構えも良くなった気がする。

 とはいえ、下っ端の俺が、英雄である二人に会いに行くのは悪い気がする。だけどアクションを起こさないといつまでも会えない気もするしなぁ。

 

 「んー………どうしたもんか」


 夜空を見上げながら考える。 

 俺としては二人にプロポーズしたい。成長した今なら、きっと二人とやっていける。

 

 「よし、思い切って……行ってみるか」



 そう思い、俺は再び木剣を振り始めた。



 **********************



 翌日。いつものように城に向かうと、城門で勇者パーティーと遭遇した。

 突然の事で俺は心臓が飛び出しそうになった。


 「ねぇレイジ、今日はどこへ行く?」

 「そうだなぁ……」

 「あれ……」


 勇者に寄り添う女が二人と、その後ろに一人いる。

 寄り添う二人の内一人は………リリカだった。


 「あれ、ライト? わぁぁ、久し振り!! 元気だった?」

 「り、リリカ、久し振り……」

 「元気だった?」 

 「セエレも、久し振り」


 緊張してそんなセリフしか出てこなかった。それより、勇者とリリカの距離が近い。もう一人の女は知らないが、勇者パーティーの一人であるのは間違いない。


 「おいリリカ、セエレ。こいつは誰だ?」

 「あ、うん。この人はライト。私たちの幼馴染みなの」

 「ふーん。騎士か……」

 「レイジ、行こう」

 「お、そうだな」

 「じゃあねライト」

 「お、おい、ちょっと待てよ」

 「悪い、これからレイジと出かけるんだ」


 そう言って勇者達は去って行った。

 あまりにもあっさりとした再会。まるで俺との再会より、レイジとかいう勇者との予定が大事に見えた。



 俺は暫く、勇者達が去って行った方向を見て動けなかった。



 **********************



 それから数日。リリカ達とすれ違う日々が続いた。

 リリカ達は勇者と一緒にいる事が多く……いや、殆ど一緒だ。俺を見ても手を振るだけだったりチラ見するだけで、禄に会話をしなかった。

 俺から話しかけても無視か「またあとで」の繰り返しで、自宅にも全く寄りつかないそうだ。


 そんな日々が続き、ついにその日は来てしまった。

 俺は部隊長補佐という立場に昇格し、何人かの部下を任せて貰えるような立場になった。そして訓練が終わり、部隊長に報告を済ませた帰り、リリカ達に遭遇した。

 向こうは俺に気が付いていない。なので、その会話の内容に耳を疑った。


 「ねぇレイジ、結婚式が楽しみだね」

 「ああ。1ヶ月後の建国際で式を挙げる。楽しみにしとけ」

 「うん……」

 「リリカ、セエレ、アルシェ……そしてアンジェラ。へへへ、今夜も可愛がってやるよ」

 「もう、レイジのスケベ……」


 心臓が一瞬止まった。

 俺は思わず報告書を落としてしまい、リリカ達に注目された。


 「あれ、ライト?」

 「どうしたの、こんな所で」

 「け……結婚、って………」

 「あ、やば」

 「リリカ、迂闊だよ」

 「ごめんごめん。バレちゃった……」

 「リリカ、セエレ……どういうことだよ」


 リリカは可愛らしくおどけ、セエレは仕方ないと言わんばかりに苦笑する。まるで俺をあざ笑うかのような、そんな態度だった。


 「あ、もしかして……お前がリリカとセエレの婚約者って野郎か? あぁ……悪いコトしたなぁ、実は、この二人はオレの婚約者になったんだ。ホントに悪いけど諦めてくれよ、な?」

 

 勇者が申し訳なさそうに頭を下げる。

 俺は何を言ってるのか理解出来ず、リリカとセエレに詰め寄った。


 「どういう……どういうことだよ!!」

 「ごめんライト。私、レイジが好きになっちゃったの。ライトの事は好きだったけど……やっぱり、真の勇者のレイジが、私の運命の人だったみたい」

 「リリカ……」

 「私もだ、ライト」

 「セエレ……」

 「レイジはお前より強く逞しい。やはり勇者は最強だとわかった。私の身も心も捧げるのに相応しい相手だとな」

 

 二人はレイジに寄り添いながら言う。

 俺は力が抜けていくのを感じ、思わずレイジを睨み付けた。


 「怒るのは分かるけど止めとけ。お前じゃオレは疎かリリカとセエレにも勝てねーよ」

 「なんだと……!!」

 「所詮、聖剣に選ばれた勇者と人間じゃ器が違う。むしろラッキーじゃねぇか? 惨めな思いはしなくて済む」

 「何だとテメェッ!!」

 「ふん」


 勇者は鼻で笑った。

 俺は逆上し、腰に下げていた剣を抜く……が。


 「っ!?」

 「遅いね」

 「ふん、弱いな」


 リリカが俺の首筋に剣を突きつけ、セエレが俺の右手に剣を突きつけていた。

 二人の剣圧に圧倒され、俺は動くことすら出来なかった。


 「うーん……こういう輩は後々が面倒になりそうだし、悪いけど消えて貰うか。おーい誰か来てくれーっ!!」

 

 レイジが声を上げると、何人かの騎士が部屋から出てきた。

 リリカとセエレが剣を突きつける俺を見て、驚きの表情をしてる。


 「こいつ、オレに剣を向けたんだ。どうやら騎士みたいだから、資格を剥奪して牢屋にぶち込んでおけ」

 「し、しかし……」

 「おいおい、オレは次期国王だぜ? オレに逆らうと……」

 「か、畏まりましたっ!!」


 騎士は俺の身体を拘束し、手に鎖を掛ける。

 

 「やめろこの!! 離せっ!!」

 「ははは、悪いな。じゃあ行こうぜリリカ、セエレ」

 「うん。じゃあねライト」

 「さよなら」


 三人は、振り返ること無く去って行った。

 俺は暴れたが、数人がかりの騎士に押さえつけられ、牢獄へと移された。

 こうして俺は、勇者レイジに楯突いた罰として、騎士の資格を失った。

 大事な幼馴染みの婚約者、騎士の資格。ようやく手に入れた物を、あっさりと失った。


 

 これはまだ、始まりに過ぎなかった。

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