第14話・牢獄の交渉

 俺は、一日で全てを失った。

 騎士の資格を剥奪され、地下牢獄へ投獄された。

 臭く不潔な地下牢で、俺は頭を抱えて考えていた。


「なんで、なんで……リリカ、セエレ……勇者、聖剣の勇者……」


 ボロの囚人服を着て、苔やカビが生えてる藁敷きに座り、爪を噛む。

 俺は、約束通り騎士になった。騎士になって、部隊長補佐になって、給金もそこそこもらえるようになって、父さんも母さんも喜んでくれて……。


「…………」


 リリカ、綺麗だった……セエレも、女の子の顔だった……。

 俺と結婚の約束をした二人は、勇者レイジの女になっていた。

 

『ホントに悪いけど諦めてくれよ、な?』


 軽いノリで謝る聖剣勇者。

 魔刃王の討伐が過酷だったのは間違いない。魔刃王を倒したのも間違いない。でも……リリカとセエレは奪われた。


「……強かった」


 しかも、リリカは桁違いに強くなっていた。

 動きが見えなかった。何もできなかった。あざ笑うような笑みを浮かべ、ゴミを見るように俺を見た。

 あの笑みは、俺のことなんてどうでもいいと思ってる笑みだ。


「ちくしょう……」


 全て、失った。

 何も残っていない。婚約者も、騎士の資格も、なにもかも。

 そんな時だった。


「あの、少しいいですか……?」

「…………」


 俺の牢の前に、1人の少女が立っていた。


◇◇◇◇◇◇


「初めまして。私は進藤鈴……リンとお呼びください。ライトさん」

「…………」

「私は、その……レイジの仲間、いえ、この世界に召喚された一人です」

「レイジ……レイジだと」

「……あなたの怒りはもっともです。あのバカ、もう私でも手が付けられないくらい増長してます。あなたの婚約者のことだって……」


 俺は立ち上がり、牢屋の壁を思いきり殴った。

 手の皮が捲れ血が出る。リンと名乗った少女がビクッと震え、俺を見た。


「リ、リリカとセエレの件は……」

「……もういい。帰ってくれ、あんたの謝罪はいらない。俺にはもう、何も残ってない」

「……ごめんなさい。私は何もできなかった。この国は勇者レイジの色に染まってる。リリカ、セエレ、アルシェは、レイジの婚約者として国中に周知され始め、私だけが勇者の寵愛を受け入れない異端とまで言われ始めています。レイジにあなたの件を取り消すように言いましたが……ダメでした」

「……俺はどうなるんだ」

「おそらく……国外追放」

「…………」


 そうか……国外追放ね。

 怒りもあるが、心に穴が空いたような空虚感があった。

 

「魔刃王は討伐され、勇者レイジがこの国の王となります。そして、これは極秘情報ですが……レイジは戴冠式の時に、魔刃王の死体を使って《祝福の神》を召喚します」

「……祝福の神。まさか、《ギフト》をくれた神か?」

「はい。魔刃王を討伐できたのも、この力のおかげですから。神に感謝をして祝福をしてもらい、レイジは国王になります。魔刃王の死体を持ち帰ると言った時は正気を疑いましたけどね」

「……そんなこと、可能なのか?」

「可能です。レイジの中にある《聖剣勇者》の知識の中に、召喚方法があると言ってました。リリカもセエレもアルシェも乗り気で……自分たちの未来を神に祝福してもらうとか」

「はっ……」


 思わず、乾いた笑いが出た。

 あんな自分勝手な勇者が、神に祝福されるとか……ふざけやがって。


「……私は、神なんて信じていません」

「……え」

「魔刃王のこともですけど、旅をしてる時からずっと違和感を感じてます。言葉にしにくいんですけど……その、違和感を」

「?」

「ええと、すみません。それと本題ですけど、私と一緒に旅に出ませんか?」

「……は?」

「魔刃王は討伐されましたけど、この世界の魔獣被害はまだまだ収まっていません。私は世界各地を回り、魔獣討伐をします。ライトさん、あなたの騎士としての実力を見込んでお願いします。どうか手を貸してください」

「…………」


 この女、何を言ってるんだ?

 そもそも、勇者の仲間なら俺なんかよりずっと強いだろう。一人で……。


「一人でできることなんて、たかが知れてます」

「っ」

「きっと、勇者の仲間なら自分より強いだろ? って思ってるような気がして」

「……」

「それと、魔刃王は討伐しましたが、多くの謎は残っています。レイジのバカは気づいてないし、リリカたちはレイジに酔ってるで話にならない。それに……」

「わかった」

「え?」

「魔獣退治、やるよ。婚約者も騎士の資格も失った。残ってるのは剣の腕くらいだ……俺にはもう、戦うくらいしかできない。だからやる」


 すると、リンは頷いた。

 なぜか薄く微笑んでる……。


「ありがとうございます。出発は戴冠式の後になります。申し訳ないですが、戴冠式まで4日、ここで過ごしてください……」

「いいよ。もう慣れたから」

「それと、手を」


 リンは、格子の隙間から手を伸ばし、俺の手に触れた。


「『治癒リ・キュア』……私、回復魔術は得意なんです」


 淡い光が俺の手を包み、捲れた皮膚が回復した。

 すごい、これが魔術……。


「では、戴冠式後に迎えに来ます」

「……ああ」


 リンは、頭を下げて去っていった。

 4日後の戴冠式……かつて、結婚を誓った幼馴染たちが、勇者レイジと結婚する日でもある。

 だが……俺はまだ、知る由もなかった。




 この国の、真の危機に。

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