第8話・騎士団での生活


 俺は毎日、騎士団でしごかれていた。

 騎士候補生という立場の人間はけっこういる。

 専門の建物が城に併設されているので、そこの寮に寝泊まりし、騎士として強く逞しくなるために日夜鍛錬を行っていた。

 

 騎士候補のスケジュールはかなり過酷だ。

 朝。朝食前に鍛錬、基本的に体力作りの基礎鍛錬だ。

 昼。座学や講習。王国の歴史や騎士としての礼儀やマナーを学ぶ。

 夜。模擬戦やギフトを使った鍛錬。ここが1番キツい。


 そんな生活を繰り返し、気が付くとリリカたちが出発して3ヶ月が経過していた。

 噂では、魔刃王の配下を何人か倒したという情報が入ってる。つまり、リリカたちの旅は順調に進んでいると言うことだ。

 それを聞いた俺は、ますます訓練にのめり込む。

 それこそ、リリカたちが帰ってきて、肩を並べるくらい強くていい男になるために。



 今日も俺は、死ぬ気で鍛錬をする。



 **********************



 俺のギフトは、相変わらず意味不明だった。

 念じても発動しない。だから俺は騎士候補生の中ではけっこう浮いていた。

 でも、剣技だけは候補生の中でもトップレベル。それこそ正規の騎士相手でも負けることはほとんどない。騎士団の副団長も、俺の剣技には一目置いていた。

 だが、どうしても剣技だけでは渡り合えない。ギフトという決め手がない俺は、候補生の中でも弱い部類だった。


 ギフトなしの戦いでは負けないが、そんなのは現実ではありえない。

 騎士たちの余興で行った模擬戦では騎士に勝ったが、ギフトを使われるとあっという間に形勢逆転……つまり、負けだ。

 大司祭の元へ赴いて何度も確認したが、俺の中には間違いなくギフトが眠っている。そのギフトが何故使えないのかは、大司祭でもわからないと言われたのだ。


 くそ、こんなんじゃ騎士にはなれない。

 騎士候補生から選ばれる騎士は、毎年10人と数が決められている。それに比べて騎士候補生は300人以上はいるんだ。この中のトップ10が騎士になれる。

 騎士に選ばれる基準は、座学の試験、礼儀作法、そして強さ。この3つを総合的に判断して選ばれる。俺は礼儀作法は父さんから習ったし、座学はリリカとセエレの事を考えながら勉強するとすんなりと頭に入った。

 問題は、強さだけ。



 最も必要なモノが、俺には欠けていた。



 **********************

 


 模擬戦が終わり、今日の訓練は終了した。

 最後に俺と戦った候補生は、剣に炎を纏わせて戦うスタイルで、最後の一撃に炎を飛ばしてきて怯んだ瞬間に、首に剣を添えられて俺は負けた。

 どうしてもギフトを持つ相手に勝てない。

 俺はいそいそと帰り支度をして、夕食を食べようと食堂へ向かう途中だった。


 「はぁ……」

 「ようライト、まーた落ち込んでんのかよ」

 「まったく、そんな顔じゃ幸せも逃げちゃうわよ?」

 「……レグルス、ウィネ」

 「おう、メシに行くんだろ? 付き合うぜ」

 「いいよね?」

 「いいけど、俺は邪魔にならないのか?」

 「バーカ、オレらから誘ってんのに邪魔もあるかよ」


 この2人はレグルスとウィネ。この騎士候補生たちの中で知り合った友達だ。ちなみに、この2人は付き合っている。

 

 「お前らは……調子良さそうだな」

 「まーな。へへへ」

 「まーね。えへへ」

 

 この2人は騎士候補生の中でも上位レベルの強さを持ってる。レグルスは《硬化》のギフトで攻撃を無力化するし、ウィネは《液状化》で身体や衣服をドロドロの液体にする。はっきり言って無敵だ。そんな2人は、何故か俺と仲良くなった。

 とりあえず、腹が減ったから食堂へ。ちょうど夕飯時なので、他の候補生たちもたくさんいた。


 「ったく、模擬戦は模擬戦なんだから落ち込むなよ」

 「そうそう、騎士選抜試験までまだ半年以上あるしね」

 「けどさ……俺にはどんなギフトがあるか未だにわかんないし、このままじゃ騎士になんてなれっこないよ」

 

 俺たちは本日のオススメ定食を食べながら話をする。

 肉と魚と野菜がバランス良く盛り付けられた、栄養タップリの騎士定食だ。


 「はぁ~……こんなんじゃ、騎士になれない」

 「あのよ、そんなに焦るなよ。騎士候補生1年目で騎士になれるヤツなんて殆どいないぞ? それこそ10年経っても候補生のままのヤツもいるしな」

 「そうそう、聞いたことなかったけどさ、なんでライトは騎士になりたいの?」


 そういえば、この2人とはそんな話をしたことがなかったな。

 

 「ああ、結婚したい子が2人いるんだけど、平民じゃ重婚は出来ないだろ? 騎士になれば重婚出来るし、2人とも結婚出来るからな」

 「…………」

 「…………」


 あれ、2人はポカンとしてる。

 なんだろう、俺もしかしてヘンなコト言ったか?


 「い、いや、思った以上にスゴい理由だった」

 「う、うん。重婚のために騎士を目指すって……初めて聞いたよ」

 「そうか? まぁ昔からそう言ってたし、別にフツーだろ?」


 でも、これは子供の頃からの目標だ。

 魔刃王を退治した2人と結婚するために、俺は約束した。

 俺は強くなる。そう、ギフトなんかいらないくらいにな。



 俺は夕食をかき込み、自主練のため食堂を後にした。

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