第7話・勇者サイド②


 レイジとリンが召喚されて4ヶ月。

 リンはいい方向に、レイジは悪い方向に成長した。

 

 最初に学んだのは、ファーレン王国の歴史や文化、そして『ギフト』の仕組み。

 『ギフト』とは、神々が人間に送る、特殊能力という『|ギフト(プレゼント)』

 一般的な物は、《農耕》や《料理人》などという生活に役立つ物や、《腕力上昇》や《俊敏上昇》といった戦闘系の物、さらには《瞬迅足》や《超人》などというレアギフトなど様々だ。


 その中でも最強と呼ばれる物が、《聖剣勇者》と《四大祝福剣》と称される4つの『ギフト』だ。

 《聖剣勇者》はレイジが、《斬滅》はリンが、《壊刃》はアルシェが継承した。

 まだ見ぬ2つである、《鬼太刀》と《雷切》は、5ヶ月後の『ギフトの降誕』で現れると予想されている。


 レイジたちが『ギフト』を覚醒させたのは、訓練を初めて15分も経たない内だった。

 

 「お、おぉぉ……コイツが、《聖剣勇者》の剣……『神剣グラディウス』か」

 「ま、まさか……こんな、一瞬で……」


 アルシェも驚いていた。

 レイジは剣をイメージし、心で念じただけ。

 それだけでレイジの手には、白銀に輝く両刃剣が現れた。


 「あの、私も出来たけど……」

 「……」


 リンの手には黒い刀身のショートソードが握られていた。

 リンは軽く剣を振ると、手に馴染むのがよくわかった。

 あまりのことにアルシェは絶句してる。


 「へへへ、どうよアルシェ、スゲーだろ!!」

 「は、はい……本当に、スゴいです」


 それからは、剣の使い方や体力作りなどを中心にこなし、木剣を使い剣の振り方や模擬戦などを繰り返した。

 《聖剣勇者》のおかげだろうか、レイジはメキメキと力を付けていく。


 「おぉぉらっ!!」

 「くっ!!」


 アルシェとの模擬戦。僅か1ヶ月でレイジはすでにアルシェより強くなっていた。

 才能なのか、『ギフト』のおかげなのか、または両方か。

 座学は全くダメだが、模擬戦でレイジに勝てる者は、リンも含めて王国にはいなくなっていた。


 だが、この辺りからレイジは調子に乗る。


 「レイジさま~~~~~っ」

 「お、アンジェラか」

 「お疲れ様ですレイジ様。今日もステキでした……」

 「へへ、そうだろ?」


 レイジはアンジェラ姫と親密になっていった。

 元々レイジの顔立ちはよく、勇者として強さと自信が付いてきたのだろう。徐々に傲慢になっていった。

 豪華な食事を要求したり、城下町で豪遊するための資金をせびったり、さらには城のメイドを部屋に誘ったりとやりたい放題だった。

 さすがにリンも注意したが。


 「へ、オレは勇者なんだぜ? この世界を救うんだ。少しくらい遊んでもいいじゃねーか」

 

 そんな答えばかりで生活の改善は見られない。

 それどころか、座学の授業をサボり、城下町の娼館や酒場によく通った。



 そして1ヶ月後、レイジはついにアルシェにも手を出した。



 **********************

 


 リンは、真面目に座学に取り組み、戦闘技術も磨いていった。

 レイジとは対照的な姿に、城の人間は誰もがリンに好感を覚えたが、そのことに対しリンは調子に乗らず、この世界で生きるためにひたすら学んだ。

 

 リンにはレイジにあれこれ言う筋合いはない。

 魔刃王とやらを倒せば、あとは知ったことではない。

 それに、リンはすでにこの世界で生きるしかないと悟っていた。


 「陛下………私たちが、元の世界に帰ることは……」

 「………申し訳ない。それは不可能だ」


 その事実を聞いたとき、流石にへこんだ。

 アホのレイジは気にしてはいなかったし、魔刃王を討伐すれば、生涯の生活を保障すると言った。

 だが、そのことを信用していないワケではないが、リンは1人でも生きていける力を求めた。


 最悪、冒険者でも始めてお金を稼ぎ、お店でも出したいと考えた。

 城では確かに不自由はしないが、レイジのようなダメ人間になることが怖かった。


 幸いなことに、リンの特技は料理……中でもお菓子作りは得意だ。

 ケーキやクッキー、菓子パンなど、この世界でも材料さえあれば作れるかも知れないと考え、この世界の食材や調味料の名前なども勉強した。


 

 それから更に1ヶ月。召喚されて半年が経過した。



 **********************

 


 レイジとリンとアルシェは、ガッシュド国王に呼び出されていた。

 レイジはニコニコし、国王の隣に座るアンジェラ姫も嬉しそうに笑ってる。

 リンはイヤな予感がした。


 「日々の鍛錬、ご苦労である」

 

 国王の言葉は、レイジたちのねぎらいから始まった。

 そして、いくつかの言葉を交わすと、本題に来た。


 「勇者レイジよ、我が娘アンジェラを娶る気はないか?」

 「お、オレがアンジェラ姫を……」

 「うむ。勇者レイジとアンジェラが親しく付き合っているのは知っている。それに、アンジェラも満更ではなさそうだしな」

 「お。お父様……もう」

 

 リンは知っている。

 レイジは、アンジェラの寝室に出入りしてることを。

 アルシェの寝室にも出入りしてることを。


 「お、オレは……いや、私がアンジェラ様の夫になると言うことですか」

 「そうだ。いずれはこの国の王として、アンジェラと共に国を支えて貰いたい」

 「~~っ!! はい、勇者レイジ・クジョウ。この身をファーレン王国に捧げ、アンジェラ様と共に尽くして行きたいと思います!!」

 「おお、受けてもらえるか」

 「レイジ様……」

 

 アンジェラ姫は目を潤ませてる。

 この瞬間、リンはこの国の未来はないと悟った。

 そして、アルシェをチラリと見た。


 「………」


 特に顔色に変化はない。

 どうやら、レイジがアンジェラ姫と付き合ってることは知ってるようだ。

 恐らく、こういう状況になると理解はしてたのかもしれない。


 「勇者リン、そなたは……」

 「お言葉ですが陛下、私は魔刃王退治後のことはまだ決めておりません。暫し考えるお時間をいただけませんか?」

 「う、うむ……」


 リンは先手を打ち、なんとかこの場は逃れられた。

 アンジェラ姫が勝ち誇ったような表情をしてるので、何か勘違いをしてるようだが、リンはレイジ相手に全く恋などしていない。

 

 

 ひとまずの話は終わり、レイジたちは謁見の間を後にした。



 **********************



 「アルシェ、お前は第二婦人でもいいか?」


 謁見の間を出た直後のセリフに、リンは耳を疑った。

 そのまま廊下を歩きながら、話は続く。


 「はい、レイジ様。傍に居られるだけで私は幸せですから」

 「サンキューな。幸せにするぜ」

 「はい……」


 アルシェは、完全にレイジに惚れていた。

 異世界と言うだけで重婚が許される。だが、レイジはこの世界に来て半年……余りにも手が早かった。


 「へへへ、王様かぁ……なぁリン、お前はどうする?」

 「……」


 名前を呼び捨てされたことも、その粘つくような笑顔も気味が悪かった。

 勇者という立場に酔い、約束された将来に酔い、現代日本ではありえない環境に酔い、レイジの精神はどんどんおかしくなっていく。

 

 「私はいいわ。それより、あと少しで《ギフトの降誕》よ。鍛錬は……」

 「おいおい、お前はオレより弱いだろ? 誰に口聞いてんだよ」

 「……ごめんなさい」


 事実。休まず鍛錬や勉強を続けてるリンより、才能やギフトに物を言わせたレイジの方が強い。

 余裕に満ちた笑みは不快に感じ、それ以上リンは何も言わなかった。


 「さぁ~て、今日はアンジェラの部屋に行く……アルシェ、お前も来いよ」

 「で、ですが、私のような庶民が、アンジェラ姫の私室に行くなど……」

 「いいんだよ、オレが連れて行けば、アンジェラも何も言わねぇさ」

 

 アルシェの肩を抱き、レイジは笑う。

 リンは見逃さなかった。

 レイジの手が、アルシェの乳房を包み込んだ瞬間を。


 「れ、レイジ様……」

 「まずは……オレの部屋に来いよ」

 「はい……」


 リンを無視し、レイジとアルシェは去って行った。

 

 「異世界を夢見たバカのままね……あれじゃそのうち「ざまぁ」されるわ」



 冷たい眼差しで、リンは2人を見送った。

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