第9話・鍛錬の先にある物は
「………強くなったな、ライト」
「はぁ、はぁ……ありがとう……ございます」
俺は今、跪き俺を見上げる騎士副団長の首元に剣を添えている。
ギフトは一切使用しない、非公式の模擬戦により、俺は副団長を降した。
もちろん俺は全力。副団長はどうか知らないが、この人の性格からして手加減などしないだろう。
副団長はゆっくりと立ち上がり、俺に向かって優しく微笑む。
「だからこそ惜しい。お前のギフトは本当にわからないのか? どんなギフトであれ、お前の剣技と合わせれば間違いなく更に強くなれる。現時点で剣技のみなら騎士候補生最強と言って間違いない」
とてもありがたいお言葉だ。それだけに悔しい。
意味不明な、正体不明の俺のギフト。過去にもこんなことはなかったと大司祭は言っていた。
「間違いないギフトは授かってるそうですが……」
「そうか。なら、いつかは発現する日が来る」
「はい……」
副団長は慰めてくれるが、俺はそんな気がしなかった。
リリカやセエレはどのくらい強くなっただろうか。そればかり考え、何の力もない剣技だけの俺が騎士になれるだろうかという不安ばかりが募る。
「さて、私も鍛え直さないとな。副団長として騎士候補生に剣で負けたなど言えんからな」
「そ、それは」
「ははは、冗談だ。そうだ、よかったらメシに付き合え」
「は、はいっ!!」
騎士の選抜試験までもう少しだ。もっと強くならないと。
**********************
「でさ、ライト………副団長に勝っちゃったのよ!!」
「マジかよ!? ギフトなしとはいえ、副団長だぜ?」
「おい待て、なんでウィネが知ってんだよ」
時間は深夜。場所は俺とレグルスの部屋。俺のルームメイトはレグルスじゃなかったが、レグルスの強引な説得で前のルームメイトと交換した。最初は交換したのが嬉しかったが、こっそりとウィネを呼んでベッドを軋ませていたことを俺は忘れてない。しかもウィネが来るたびに俺に賄賂を渡して部屋から追い出したのもな。この野郎。
明日は久し振りの休日なので、今日は遅くまでお喋りタイム。
この2人は町でデートを楽しむ予定らしい。爆ぜろ。
おっと、質問の答えがまだだった。
「そんなの簡単よ。こうして……」
「おぉ、《液状化》か」
ウィネは手を突き出すと、指先がトローッと液体に変化する。
どうやらこのギフトを使い、俺と副団長の戦いを見ていたようだ。
「便利だよなー、オレなんて硬くなるだけだし」
「そっちのが便利じゃん。硬ければ剣も通じないんでしょ?」
「だけどよ、関節も硬くなるから動けないんだよ。とっさの防御にゃ便利……あ」
「ご、ゴメン、ライト……」
「いいって、気にすんな」
この2人は優しい。
俺に気を遣ってるのがよくわかる。それに、《能なし》ってからかわれたこともある俺を庇ってくれたこともあったし、この騎士候補生の学び舎で出会えたのは何よりも嬉しかった。
「お前ら、明日はどうする? また部屋から出ようか?」
「あ、ああ。悪いな」
「えへへ、久し振りだし……」
「お盛んなことで……」
「んだよ、お前だって2人の嫁さんがいるんだろ? 毎日ヤリまくれるじゃん」
「まぁな……って、何を言わせんだ!!」
「まぁまぁ、それでライトの明日の予定は?」
「明日も同じ。自主練するよ」
「お前な……少しは気を抜けよ。ぶっ倒れるぞ?」
「いいんだよ。選抜試験までもう少しだし、リリカたちもいつ帰って来るかわかんないしな」
「勇者パーティーか……噂じゃ魔刃王の側近を全員倒したって聞いたけどよ」
「あたしもそれ聞いた。祝福剣の使い手は歴代最強だってさ」
「へぇ……」
リリカとセエレ……どのくらい強くなっただろうか。
はっきり言って、今の俺より遙かに強いのは間違いないだろうな。
「リリカ……セエレ……」
会いたいな。騎士になったら喜んでくれるよな。
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それから俺は選抜試験まで鍛錬漬けだった。
筋肉はびっちりと付き、腹筋もスゴく割れてる細マッチョ。剣技だけなら副団長より強いと言われ、俺もけっこう自身が付いてきた。
ギフトは不明だが、それでも俺は鍛えまくり、何人かのギフト持ち騎士候補生を倒せるくらいまで成長した。
そして、選抜試験の日が近付き、300名の騎士候補生たちもざわめく。
選抜試験はトーナメント式で、30人ずつの組み合わせで10個のトーナメントが行われる。もちろん、そこで10人に選ばれるだけでは騎士になれない。筆記試験と礼儀作法の試験もあり、総合的な判断で騎士が発表される。
だが強さは最も重要だ。礼儀作法や座学はみんな習ってるからハンデはないし、例年の結果から見ても殆どがトーナメントで勝ち上がった10人が騎士に選ばれてる。
1日の訓練が終わり、300人の騎士候補生たち全員が集合した。
この日、トーナメントの組み合わせが発表され、2日後にトーナメントが開催される。
1日の猶予を置き、明後日が座学と礼儀作法、2日後がトーナメントだ。
「き、来たな……ふぅぅ、おいライト、緊張すんなよ」
「お前がするなよ……」
レグルスを落ち着かせ、トーナメント表のボードが運ばれる。
レグルスにはああ言ったが、俺の緊張も高まっていた。そして、ボードに掛けられた布が取り払われ、組み合わせが発表される。
レグルスやウィネは別グループで当たることはない。そして俺は……嘘だろ?
「……お、おいライト」
「あ、ああ……は、はは……」
俺は自分の名前の場所を見て驚いた。
俺のグループは1グループ。そして……シード枠。
つまり、1回勝てばグループ優勝だった。
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嬉しさより、困惑が強かった。
何人かの騎士候補生たちが、俺を見てヒソヒソ話してる。中には明確な悪意を持つ者もいた。
俺は思わず副団長を見たが、その表情は変わらない。
「おい!! なんで能なしのお前が!!」
そして遂に、耐えきれなかった1人が叫んだ。
俺はその騎士候補生と向き合うが、俺にだってわからない。
「し、知らねーよ。俺じゃなくて副団長に」
「ふざけんな、この能なしがっ!!」
「そうよ、ギフトも使えないあんたが!!」
「そうだそうだ!!」
騒ぎは広まり、俺じゃどうしようもない。
レグルスやウィネは俺を擁護したが、それでも騒ぎは収まらなかった。
「静まれっ!!」
副団長の一喝で、周囲はシンとなる。
そして副団長は静かに語り出した。
「ライトは騎士候補生たち……いや、この私をも越える剣技を持つ。その実力は部隊長レベルと騎士団は判断した。ギフトも持たない彼の力はそれだけの評価を持ち、騎士団で磨けばさらなる強さを手に入れるだろう。これは贔屓などではなく、彼の実力を評価した上での処置だ」
つまり「騎士団に来い。お前を鍛えてやる。だからシード枠をやるから試験を乗り越えろ」ってことか?
それだけの評価や期待が俺にある……ってことか。
「だが、ここで負けるようなら……そこまでだ」
確かに、これはチャンスだ。
もしかしたら、最初で最後のチャンスかも知れない。副団長が俺を認めた上での配慮かもしれない。
だったら、その期待を裏切るワケにいかない。
こうして、騎士選抜試験が始まった。
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