無毛な願い 〜31の魂28まで〜

小笠原 雪兎(ゆきと)

無毛な願い 〜31の魂28まで〜



 私は菊池花。31歳独身OL。仕事はある大手企業のマーケティング部長。

 大学は東京大学経済学部現役卒業。その後今の会社に勤めること15年。

 聡明で美人でスタイルも良く、自分で言うのもなんだが、性格も良い。


「おはようございます」

「あっ、部長おはようございます」


 会社のマーケティング部の区画に入る。一番奥の部長席にカバンを置いて、手を叩く。


「は〜いみんなおはよ〜。今日も1日よろしくお願いしま〜す」

「おねがいします!」

「じゃ、始業!」


 一斉にそれぞれの席に座り、仕事を開始する。


「部長、今日は14:00に××会社へ挨拶しにいきますので13:00に会社を出ましょう」

「了解、ありがとね竹森くん」


 会社訪問がある日は毎回朝にスケジュールを言いに来る真面目な竹森くんに満面の笑みを向ける。


「い、いえ。ではまた10分前に声をかけますので」

「ええ。よろしく」


 目の前の雑務を片付けなきゃっと。


「菊池くん。ちょっと来てくれ」

「はい」


 本部長に社内電話で呼ばれ、席を立つ。


「ここの集計結果が間違っているよ。もう一回出し直しなさい」

「はい。すいませんでした」

(何が間違ってるよだ。テメェがエクセル使えねぇからこっちが仕方なくやってんのに何様のつもりだ?このハゲ頭!)


 内心毒を吐きながら頭を下げて、ファイルを受け取る。


「部長、また本部長ですか?」

「ええ。またなのよ。ほんとあの部長はどうかしてるわ」

「まぁまぁ。僕も手伝いますからやりましょう!」

「ありがとう。でも自分の業務を先にやるのよ?」

「はい。大丈夫です」


 竹森くんは本当に優しいわね。あれで28歳独身なのはちょっと訳が分からないわ。


「おい!花井!あんたはテトリスやってないで仕事しなさい!」


 後ろを通った時に相変わらずテトリスやる花井をファイルで叩く。


「わー!パワハラだパワハラだ!」

「パワハラで結構!あんたは仕事をやってないんだからやめさせてもいいのよ」

「ひどい!」

「うるさいよ。花井くん」

「竹森裕也!お前もか!」

「うるさい!太樹!」


 日月さんが花井を怒る。名が美香で、彼女はまさしくクール系美女。彼女が怒ると花井も黙る。何故か下の名前呼び。


 自席に戻り、エクセルを立ち上げ、集計をもう一度する。


「じゃ、先お昼失礼しま〜す」

「はいは〜い」

「お先に失礼します」

「ほいほ〜い」


 生返事を返しつつ、集計ミスで遅れた仕事を取り戻すべく、タイピングを続ける。


「部長、そろそろお昼にしては?これ以上やると会社訪問に遅れますよ?」

「ああ。竹森くん、ありがとう。でもいいわ」


 気づけば周りには私と竹森くんしかいなかった。キリがいいところで丁度話しかけてきたので多分タイミングを待っていたのだろう。


「そう言うだろうと思いましたよ。だからこれ食べてください」


 毎度おなじみカップラーメンをお湯が入った状態で渡される。


「ありがとう。でも竹森くんの分は?」

「ジャジャーン」


 王道の効果音付きで後ろから出てきたのは私と同じカップ麺。


「一緒に食べましょうよ」


 竹森くんは近くの椅子を引き寄せて向かい合って座る。


「そう、じゃあいただくわ」


 竹森くんと一緒にラーメンをすする。


「部長の趣味って何ですか?」


 ラーメンをすする合間にそう聞かれる。


「ん〜っと。将棋と読書ぐらいかしら。週末は将棋のオンラインサイトで指してるわ」

「へぇそうですか。実は僕も最近将棋を始めたんですよ。いつか御指南願えますか?」

「いいわよ。今週末にでもやりましょ。ふぅ……。ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした。カップ貸してください。洗っときますんで」

「あらありがとう。じゃあお言葉に甘えて」


 竹森くんにカップを渡し、常備してあるガムを噛んで仕事の続きに入る。

 またみんなが昼食を終え、パラパラと返ってくる。


「部長、そろそろ行きましょう」


 書類の書き方に悩んでいると竹森くんが声をかけてきた。


「あら。もうそんな時間なのね、でも今ここで悩んでて……」

「気分転換も兼ねての訪問ですよ」

「そんな風に言わないの。御社に失礼でしょ?」


 たしなめるとテヘッと舌を出す。


「悩んでいても仕方ありませんよ。そういう時の部下ですしね」


 そう言ってトンと胸を張って叩く。


「いい部下を持ったものだわ。「上司の上司は恵まれないけど」」


 後の言葉を先に言われる。


「ふふふ。行きましょうか」


 カバンを持って立ち上がった、


 ====


「ん……?ここは……?」


 目が醒めると当たり一面真っ白なところにいた。目の前には典型的な神っぽい老人がいる。

 あれ?自分の体がない?もしかして夢?こんなこと本当にあるんだ。明日みんなに言おっと。


「そなたは良き人であった。悪事を働くこともあったが、それを反省し二度と同じ過ちを犯さなかった」

「………何のことですか?」


 止めて欲しい。私は夢の中で会いたいのは老人じゃないのだ。老人フェチの方にこの夢を見せてあげたいわ。その代わりショタが出てくる夢を……。


「聞こえておる。そなたは死んだのじゃ」

「死んだ?何バカなこと言ってるんですか?てかこれが私の夢って……。

 もしかして私の寝る前のショタ鑑賞が足りなかったから天罰でこんな老人が出てくるのかしら!?」

「もしかして覚えとらんのか?そなたが死んだ理由」

「え………?あっ……………」


 私は徐々に思い出して行った。


 ====


「なんでこんなに早く出たの?××会社なら30分で着くわよ」


 会社から出て、竹森くんに訳を聞く。


「部長は自身の行動をよく思い返してください。いつもショタを眺めながら歩いているじゃないですか。あと逐一危険な場面に出会うと助けようとする」

「何?助けることがダメっていうの?」

「そんなことないですよ。ってほら!それですよ。目の前のショタによだれを垂らさない!」


 竹森くんに体を揺さぶられ、現実に戻る。


「えっええ。そうね」

「いや、何の返答にもなってませんからね。えっと………。そうそう。

 僕としても助ける貴女を尊重したいからこそこうやって早めに出てるんです」

「貴女?」

「あっ、すいません。部長」

「別に言い直さなくてもいいわよ。それよりそう……。ありがとうね」


 竹森くんが私の意思を尊重してくれたことが嬉しくて、ニマニマしてしまう。


「何ニマニマしてるんですか……。山手線で上野まで1本でつきますからね」


 私は竹森くんに誘導され、ホームに出る。


「まもなく、4番線に〜上野〜、池袋方面行きが、参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください」


 ちょうどアナウンスが流れ、電車が向かってくる。なんとなく後ろを振り返ると、3番線のホームに電車が入ってくる音が聞こえる。

 そこに…ショタがテトテトと歩いていたのだ。保護者はどこだと辺りを見回すと母親らしき人がキョロキョロと何かを呼んで探している感じだった。


 ファ〜〜ン!


「悠!」

「危ない!」


 ホームの端に座りこもうとしていたショタを咄嗟にひろいあげる。

 刹那目の前を電車が通り、減速していく。


「危ないわよ。ママから離れちゃダメよ」


 ショタを拾い上げ、母親の元に歩く途中でしゃべりかける


「ありがとうございます。本当にありがとうございます」


 母親はペコペコと頭を下げてきた。


「いえいえ、大丈夫です。さっ、電車行っちゃいますよ」


 母親を電車に押し込む。ドアが閉まっても、母親は頭を下げていた。


「ふぅ。助けて正解!」

「正解ですが、正義のヒーローは忙しいものですよ。後ろを見てください」


 ちょうど、山手線のドアが閉まっていくところだった。慌てて駆け込もうとするが、竹森くんに手を掴まれる。


「ダメですよ。正義のヒーローはルールを守ります」


 爽やかな笑顔でそう言われた。何よ、思わずキュンとしちゃうじゃないの。


「まもなく、4番線に〜上野〜、池袋方面行きが、参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください」

「そして山手線はダイヤが早いんですよ。正義のヒーローの味方ですね」


 しかし、やってきた電車は混んでいた。

 竹森くんがドアの前の椅子の壁のところを確保して、私を引き込む。


「きゃ」

「正義の味方は、時に守られなければいけません」


 押し競饅頭おしくらまんじゅうが起きる中、私の周りには人1人分の空間があった。


 ーーーー


「はい!定時になったわよ。もう帰ってもいいけど花井だけは残って仕事をすませなさい」

「ひどっ!」


 こっそり帰ろうとしていた花井の首根っこをひっ捕まえ、つれもどす。


「なんで!?パワハラ!差別!」


 不平を子供のように撒き散らす花井


「あんたの上司である私の身にでもなってみなさい。

 みんな優秀な部下である中、一人だけ仕事をしない、途中でサボる、何か言ったらすぐ労働者の権利を撒き散らす。どう?仕事変わる?」

「いえ、いいです……。すいませんでした」


 花井はとぼとぼと席に帰り、すごい速度でタイピングを始めた。

 ちゃんとやれば昇級できるしいい人材なのに……。

 もったい無いわ……。


「お先に失礼しま〜す」

「どうぞ〜」

「ごめんなさい……。明日の分もやりました……」

「うむよろしい」


 社員たちが帰っていく中、書類の間違い探しをしていく。


「どうぞ」


 竹森くんが横にコーヒーを置いてくれた。それを口に含み、眠気を飛ばす。


「部長は砂糖なしのミルク入りコーヒーですよね?」

「え?あっありがとう。よく覚えているわね」

「そんなもんですよ。どうです?夕食でも一緒に行きませんか?」

「ごめんなさい、もうちょっと時間かかりそうだから先帰ってていいわよ」

「そうですか……。じゃあもうちょっとやって帰りますね」


 竹森くんがコーヒーを両手にもう一人残っていた日月さんにコーヒーを渡し、業務を再開した。


「お先に失礼しま〜す」

「日月さん明日もよろしくね〜」

「部長、今日もありがとうございました」

「ええ。こちらもありがとう」


 数十分後に日月さんが帰り、一時間後に竹森くんが帰って行った。


 ーーーー


 そう、その後だ。その後に事件は起こった。


 ーーーー


「ふぅ〜。今日も疲れた」


 会社を出た頃にはもう7時で、電車の混み具合も最高潮へと向かっている。

 電車から吐き出された私は階段を登り、自宅へと向かった。

 いつもこの時間帯にこの道を通るショタ。多分塾なのであろう。

 数分間待ち構えていると半袖半ズボンで駆けていくいつものショタがいた。


「う〜。眼福眼福………あっ!」


 そんなにまじまじと見なければよかった。そのショタの足を街灯が照らし、その足からは………スネ毛が生えていた。嘘だ!嘘だ!そんな!


 私はショックでその場で座り込んだ。大通りに面した歩道で。そうしていること数分、パトロールのお巡りさんに助けられ、立ち上がってとぼとぼと家に向かって歩いた。

 ノロノロ歩く私を追い抜く家族。ショタだと思ってふと見るとまだ3歳なのに、スネ毛がボーボーに生えていた。

 驚いて周りを見渡すと、他のショタにもスネ毛がボーボーに生えている。

 自転車の後ろに乗せられたショタにも、おんぶされるショタにも………。


 ギャーーーー!気づいたら電柱に頭を何度もぶつけ、額から血が流れていた。

 ふと顔を上げると母親に抱かれたショタが私を見て、泣き出した。


 泣かないで。泣かないで。怖くないから。

 そう思って近づこうとすると、そのショタにも、スネ毛が生えていた……。

 ショックで私は倒れ、その衝撃で死んだのだった。


 ====


「そっか。すごい死に方ね……。でもショタに本当はスネ毛なんてないのよね」

「お、おう……。スネ毛はショタに生えとらんぞ」

(スネ毛が生えたらショタじゃないからのう…)

「つまりスネ毛はすべて幻覚ってこと?」

「い、そ、そうじゃ。スネ毛は生えとらんかったのじゃ」

(何じゃこの威圧感は……。否定しようとしてもできんじゃないか……)


 よかった……。私のショタ像は崩れかかっていたけれど神様のおかげで今までより一層強靭なものになったわ。

(こやつのショタ愛は計り知れんものがあるのう……)


「で?どうして私がここで話しているの?死に人全員と話しているわけじゃないんでしょ?」

「そ、そうじゃ。普通ならば地獄か天国かを決めているんじゃが其方の様な者にはもう一度人生をやり直させてやるんじゃ」

「へぇ。天国と地獄って本当にあるのね。ってことは宗教は……」

「天国や地獄というのは其方がわかりやすい様に言っただけじゃ」

「そう。で?私が転生するというわけね。いらないわ」

「なっ!なぜじゃ?」

「天国からショタを眺めるほうがいいもの」

「それはできんのじゃ、天国から現世を眺めることはできんからのう」

(そんなことはないがこれほどの善人にはもう一度世を生きてもらわねばならんからのう)

「そんな!?」


 じゃあ転生するしかないわね……。


「ならばどこの世界がいい?色々とあるぞい。そなたの世界の名前ではへびつかい座の方向にある『バーナード星b』や………いや、同じ言語の……」

「それより先に可愛い天使達のお尻を堪能させて!」

「すまんが天使は存在せんのじゃ……」

(人の話を勝手に切るでない)

「そんな………」


 私の前世の妄想は真実じゃなかったの!?なんてひどい!


「それでどの世界ni……」

「ショタだけの世界は?」

「ないのう………」

(もう面倒になってきたのう)

「じゃあ………。髪の毛と産毛だけの世界は?」

「あっ、あるのう……。アンドロメダ星雲の中の星にあるが……」

「そこにするわ!お願い!転生させて!」

「わ、わかったぞ……」

(こやつ……転生させんでも良いかな……)


 さぁ……。スネ毛のないショタの世界へ!


(そんな星があるわけなかろう………。元いた世界に転生させるか……。適当に記憶でも消しておくかのう……)


 ====


「欒ランは本当にショタが好きよね〜」

「もうお母さんったら!」


 私は紅白歌合戦を傍目にお母さんと会話に花を咲かせる。


「いやでもな……。昔フランスにいた時からもうショタコンの才覚は出てたんじゃないか?」

「え?嘘!?俺聞いたことないんだけど」


 こたつでずっと小説を書いていた売れっ子小説家の弟が驚いた声を出す。あんたはパソコンで小説だけ書いてたらいいの!


「あのね。昔フランスにいた………えっと…欒が三歳の時かしら。その時からもう男の子を追いかけててね。しかも可愛らしい男の子を選んでたのよ……。

 まぁ恐ろしいわ」

「うわっ!ねぇちゃんえげつねぇことするなぁ!」


 弟はパソコンから目を離し床に転げ回って笑ってる。


「あとそうそう。あなたが小学校入学式の時にず〜っとショタを追い回してねぇ、すっごく恥ずかしかったわ」

「あっ!それは俺も覚えてる!あれでしょ?そのあとショタの家にこっそり付いて行ったやつ。ストーカーやんけ!」


 弟よ。君は殴られたいのかい?


「もう28歳よね。まだお相手は見つからないの?」

「私はショタコンよ?相手ができるとでも?」

「あっという間に三十路の完成!」

「欒の上司はどんな人なんだ?」

「えっとね………。沼木悠って人でね、マーケティング部の次長なの。ちなみに31歳既婚だよ?」


 私は東大経済学部を卒業し、大手企業のマーケティング部に入った。私にはなぜか経済系統がしっくりきて、楽しかったからだ。


「あとは……そうそう。この前上司の竹森さんと将棋を指しながらお話ししたんだけど彼の好きだった人もショタコンだったんだって」

「その人は何歳だ?」

「56歳!お疲れお父さん!」


 すぐ年齢を聞いた労力をねぎらってやる。私の結婚相手にしようなど無理なもんじゃ!


「他にはどんな上司がいるんだ?小説のネタにしたい」

「我が弟よ。私の人生はそんな君の小説で綴れるものではないんだ」

「別にいいからさ〜」


 弟が座椅子の背もたれで重心を移動して器用にゆりかご状態にする。いいな〜。


「えっと……部長の花井さんはね、夫婦で部長と副部長をやってるんだけど夫の方がテトリスをやってそれを嗜めるというか叩きのめすって構図なのよ。

 でも部長が本気出すと一週間の仕事が1日で終わるスーパーマン」

「なんじゃその妻がいないとやってけませんみたいなの」

「そんなもんでしょ。あっそろそろ紅白も最後じゃない?」

「そうね。年越し蕎麦食べましょうか」


 お母さんが立ち上がった。


 ーーーー


「次長!会社訪問いきましょう!」

「ああ。そろそろだな」


 私たちは東京駅の4番ホームに入る。次長は途端に懐かしそうな顔をした。


「どうかされました?」

「あ、失礼。ただ懐かしいなって」

「何がです?」


 言っちゃ悪いが蟻のようにうごめくホモサピエンスが蔓延する東京駅が懐かしい?

 気持ち悪すぎて記憶に残るならまだしも。


「三歳の時にそこの3番線のホームで電車が来てるのにしゃがみこんだ時に女性に助けてもらったんだ。そのシーンだけなんとなく覚えてるんだ」


 その話を聞いて私はなんとなく想像できた。


「ふふ。今私の中にその助ける女性の視点で想像できましたよ」

「そうか。もしかしたら繋がってるとか?」

「だったりするかもしれませんね」


 ーーーー


 会社帰り。満員電車からゲロのように吐き出された私はいつものように疲労回復のため、この時間帯にここを通るショタを眺めていた。


「う〜。眼福眼福………あっ!」


 そんなにまじまじと見なければよかった。そのショタの足を街灯が照らし、その足からは………スネ毛が生えていた。嘘だ!嘘だ!そんな!


 私はショックでその場で座り込んだ。大通りに面した歩道で。そうしていること数分、パトロールのお巡りさんに助けられ、立ち上がってとぼとぼと家に向かって歩いた。

 裏道の暗い道を歩いているとなぜかこの時間帯に外を出歩くショタがいた。

 そのショタの脛をまじまじと見るが可愛らしいうぶ毛だけしか生えていなかった。


「どうしたの?こんな時間に?大丈夫?」


 私は彼を抱き上げ、ほっぺを突っつく。ショタはふにゃと笑い、先ほどの恐怖はなくなった。

 しかしそんな私を後ろから照らすライト。


「いたぞ!誘拐犯!その場で人質を下ろしてをあげろ!」

「ふぇ……ふぇーーーーん!まーまーー!」


 ライトに驚いてショタが泣き出す。二人の警備員が私を挟んだ。

 泣いちゃったじゃないの!


 私はショタを下ろし一瞬で警官に近寄り、ライトを叩き落とす。銃を構えられる。

 発砲したらその音でもっと泣いちゃうでしょ!

 私は目にも留まらぬ速さで警官の手首をひねり、背負い投げをする。

 そしてショタは私に感謝して、仲を深めて、彼の両親にも結婚を許されて………。

 ぐへへへへ。


「やっぱいこいつは不審者だ!東京都××の×丁目に誘拐犯を発見応援を頼む!」

「見ろ!口からよだれを垂らしているぞ!金目にくらんで頭がおかしくなっているんだ!今のうちに捉えよう!」

「やっぱり通報されていたショタを狙う誘拐犯はこいつだったのか!」


 私はいつの間にか留置所にいた。時々裁判所に連れて行かれて何かを喋らされる。

 私の弁護士を名乗る男がこう言われたらこう言えと指示を出してくる。


 母さんが来て、私を弾糾する。私は記憶が混濁していた。今まで見ていた光景が何となくかぶる。

 約30年前のPCが置かれたマーケティング部。

 ショタを助けた東京駅の3番線。

 満員電車で私をかばう竹森本部長の若い頃の顔……。


 気づいたら無期懲役を宣告され、刑務所に入れられた。

 ようやくその頃になって記憶がはっきりしだした。

 私は前世でもショタコンだったこと。今までのデジャブは本当に前世の私が体験したこと。そして転生前の神様の言葉も思い出した。


 大学を卒業したらショタに気をつけろと。

 運命的な未来が見えるそうで数十年後の世界はショタコンが蔓延していて追いかけると今まで以上に不審者に間違われると。


 そして………。


「何がアンドロメタ星雲でスネ毛がない世界よ!ただの地球じゃないの!

 あの老害ジジイィィィィ!」


 私の独房での叫び声は遠く空の先まで響いた。



















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