第2話 徳島、移動手段に焦る
翌朝、午前五時五〇分起床。
「おはよう。いい夢は見れた?」
いや、ろくに眠れなかったかな……。部屋が狭くて妙に暑いのもあったけれど、ちゃんと起きれるかどうか緊張しててダメだった。
「そっか。でも、今日がこの旅一番の目的なんだし、焦らずに行こうよ」
……何か性格変わってない?
「ほら、せっかくのイマジナリー彼女だからね。今度は大人しく優しい感じでいってみようかってことらしいよ」
なるほどねえ。
東横インの朝食は施設によって時間帯が違うのだけれども、一つ言えることは早朝にチェックアウトをする予定で旅を組むとまず食べられないってこと。
「というか、あんまり食べる気ないんだよね?」
それもある。
パンとコーヒーくらいは食べたいかな?って思っても、あのロビーで食べるのはなかなか勇気がいるというか、尻込みしちゃうんだよな。
という訳で、早々にチェックアウト。朝食は昨晩の内に買っておいたおにぎりとサンドイッチを後で食べることにする。
「いつ食べられるのかしら?」
高速バスの中で食べられたら良いかな?って思ってるよ。
半駅分歩いて地下鉄に乗り込み、そこからさらに乗り継いで大阪駅へ。梅田駅から大阪駅の高速バスターミナルへの移動は思ったよりもスムーズに行けた。
「おかげで七時二〇分のバスじゃなくって六時四〇分のバスに乗れることになったんだもん。早起きして良かったね」
そうだね。何とか間に合ったから本当に良かったよ。これが二人旅とかだと初動が遅れて絶対に間に合わなかっただろうなあ。
「一人だからこその機動力だね」
起きて五〇分で電車を乗り継いでバスに間に合わせるなんて、普通の旅じゃああんまりやらないだろうね。
「ちゃんと予定のバスで行けて偉いね」
おかげで体調は若干下がり調子だけどね。鼻水が止まらないわ。
「ポケットティッシュもちゃんと用意してるんでしょ?」
たしなみ程度にはね。
大阪駅の高速バスターミナルから阿波エクスプレスに乗って一路徳島へと向かう。
都市圏の高速道路はどこもそうなのだろうが、とにかく複雑だ。自分で運転していたら車線変更すらまともに出来ずにとんちんかんなところへ行ってしまいそうなほどに。
「でも、あなたは運転しないじゃない」
そのための高速バスだからね。あ、ほら。右側に内海が見える。
「このバスは大阪湾沿岸を通って淡路島を縦断するのね」
確かに地図を見るとそれが徳島への一番の近道だからね。電車が通ってない分、バスをきっちり使っていかないと。
「このルートに関しては、結構何度もインターネットで調べたものね。バスの場合は色々不慮の事態が起こりそうだからって」
この時期に限らないけれど、高速バスや観光バスのようなものって、電車に比べてどうしても事故が起こりやすいってイメージだからね。不慮の事態に備えておくのは大切かな、って。
「お金も余分に持ってきているもんね、えらいえらい」
ああ、頭を撫でられると眠くなってくる……。
車窓から見える樹木の植生も普段と違って見えるから、やっぱり旅って不思議だな、と思うよ。
「瀬戸内だと、やっぱりレモンや玉ネギだったりするのかしら?」
詳しくは分からないけれど、葉の色が違う感じがする。針葉樹と広葉樹の違いなのかな?常緑樹と落葉樹の違いって訳ではなさそうだし……。
「あなたそんなに植物に興味あったっけ?」
うーん、昔取った杵柄っていうか……そんな感じかな。
「ふぅん?海はキレイだけれど、渦潮は見えないのね」
運が良ければ通り道に見えるはずなんだけど、結局見られなかった。ちょうどその辺りで眠っていたのもあるし、ここでちょっとしたハプニングが起こったのだ。
ハプニングというのは少し語弊があるかもしれない。あれだけ入念に下調べをしていたにも関わらず、降りるバス停を間違えたのだ。正確には、インターネットに載っていた停留所よりももう一つ前の停留所に降りていれば、より早く目的地に着いていた。
「わあ……。あの案内は四国の方からの説明だったんだね」
あああ。大阪から高速バスでやってきた人用の説明じゃあなかったんだ……。
そのために、五キロメートル弱を逆戻りする羽目になる。余計な金と時間とを使って、ただただ移動距離を伸ばしてしまったのだ。
こじんまりした観光情報センターに人はおらず、僕と、僕と同じように目的地のために降りた女性二人組が一組。
「バス……待ち時間結構あるね……」
鳴門公園口で降りていれば歩いて五〇〇メートルってところだったなあ……。多少上り下りがあるとは言っても、全然向こうで降りた方が早かったね。
「ド、ドンマイ。あ、ほら、せっかくだから昨日買ったおにぎりとサンドイッチ、食べよう?バスの中でも途中でトイレ行きたくなったらって我慢してたんでしょう?」
そうだね。
待合所でもくもくと朝食をとっていると、この時間さえももったいなく感じられる。ゴールデンウィーク中は開館が早まっているので、ここから発車するバスに乗り込む時間くらいには開館するのだ。
「な、泣かないでよ?」
泣かないよ。かなり悔しいけれど。
この時のシーチキンおにぎりのパサパサした味は、本当に砂を噛んでいるかのようだった。
結局、何分くらい待っただろう。
案内所の人が臨時バスが出ると言うので、本来の待ち時間の三分の二程度でバスに乗り込む。
「何とか致命傷で済んだ?」
既に心はズタボロだけどね。まあ、目的を果たす前からズタボロじゃあ楽しさも半減だから、気を取り直して行くよ。
「うん、それが良いと思う」
バスに乗り込んで揺られる間、道路にも、駐車場にも、見渡す限りに自動車が停まっているのを見る。
「わあ、自動車だらけだねえ」
うん。四国中の車が集まっているんじゃないかって思うよ。
四国は島だから、何ていうかこうやって四国中の自動車が集まっているように見えると、天秤がこちら側に傾いているって感じがするよね。
「うーん?ちょっと何言ってるか分からないかなあ」
いやほら、四国を真ん中から糸で吊り下げてさ?鳴門って四国の端っこじゃん?だから、そこにたくさん自動車があればさあ。
「いや、四国を糸でぶら下げるっていうのがちょっと……」
アッハイ。
とにかくそのくらい自動車がたくさんあった。一〇時前だというのに、かなりの数の自動車が通っているし、実際バスは渋滞に捕まって何度も止まった。
そうこうしながら目的地の大塚国際美術館に辿り着く。
大塚国際美術館は、日本で本格的なレプリカの美術品が見られることで有名な美術館だ。飾られた美術品を触ることができるというのが特徴で、一番の見どころである「システィーナ礼拝堂」の壁画「最後の審判」の一室は、去年の紅白歌合戦で米津玄師が歌って話題となった。
今回の僕の旅の目的は、この「システィーナ礼拝堂」のレプリカを見ることであり、また大塚国際美術館を楽しむことである。
「人はたくさんいるけれど、やっぱり早朝だけあって想像していたほどではないね」
入るだけで一時間かかる、って感じではないかな。自動車の量に比べたらずいぶん人は少なく感じるよ。
「多分だけど、美術館ってそこまで熱心に見ようって人は多くないんだよ」
やっぱりそう思う?
「あの自動車の数は、もしかしたら鳴門の渦潮を見に来た人と半々なのかも」
あるいは朝食をゆっくりとってから午後いっぱい美術館を堪能するのかも。
などと考えつつ、あっという間にチケットを購入。大して並ぶこともなくサラリと入場。
「うわあ、ずいぶん長いエスカレーターだね」
確かに。東京駅の総武快速線から地上に出るエスカレーターよりも長いかも。
「さっきから分かりづらい例えばっかり」
いや、こっちは多分分かる人には分かるよ。しかし何て言うか、山の斜面に建てられた美術館って感じだね。ほら見てよ、エスカレーターを上り切った先が地下三階表示だ。
「……どういうこと?」
山の斜面に作られたから地上に出るまでにさらに上る必要があるってことなんだろうな。色々、特殊っていうか、面白い美術館だなあ。
チケットをもぎられて入ってすぐ目に入るのが、件のシスティーナ礼拝堂のレプリカ。礼拝堂の壁画がそっくりそのまま収まっている様子は、レプリカであることを一瞬忘れるほどに荘厳。
「うわあ……すっごいねえ!」
確かにこれはすごい……。壁面いっぱいの最後の審判は圧倒されるなあ。
「来て良かったね!ほら、長椅子があるから座ろうよ」
礼拝堂らしく、中央の通路とその横に長椅子がノートの罫線のように並んで置いてある。その一つに腰かけて上を見ると、アーチ状の屋根にも天井画が描かれている。
聖書の『創世記』をモチーフとしてミケランジェロらによって作られたそれは、アダムと父なる神の指先が触れようとしている「アダムの創造」が最も有名だろう。
「筋肉がすごいね」
ルネサンスの特徴だね。ほら、「最後の審判」の中央に描かれているのが誰だか知ってる?
「あの右手をあげた腹筋バキバキの人でしょう?……誰?」
あれがイエス=キリストだよ。
「え……だって、キリストって行ったら角材でできた十字架を背負って這う這うの体でゴルゴダの丘を登ったあのキリストだよね?」
そうそう。
「あの人がキリストだったら角材の十字架なんてひょいと持って行けそう……と言うかそもそも十字架が折れそうだよ」
だよねえ。でも、モチーフの人となりよりも肉体美、それもその時代において「美しい」とされた肉体が描かれることがより重要だったんだ。だから、天井画も壁画も登場する人物は全て肉体が隆々としている。
「『最後の審判』にしても、下の方は地獄に落ちる人たちなんだよね。苦悶の表情をしている人たちもみんなムッキムキなのね」
面白いよね。
うーん、しかし実際こうして間近で見て写真を撮ってみると、やっぱりレプリカなんだなあって思うところもあるかなあ。
「そうなの?」
色合いがね。何か微妙に違うなあって思っちゃうんだよな。発色の関係なのか、それともレプリカをつくる元となった図像の色がそうさせるのかは分からないけれどね。
あと、陶板に焼き付けているから、作品の原寸が大きいと陶板が複数になる。そうすると写真に撮った時に分かっちゃうんだよね。
「それは、もったいないけれど仕方ないところでもあるよね。写真に撮られることが目的ではないのだし」
鑑賞していて聞こえてきた声の中に「光が反射してうまく写真が撮れない」っていう言葉があったんだ。でもそれは陶板に焼き付けたものだからであって、本物は陶板のように光が反射することもない。
やっぱり全部が全部本物と同じようにって訳にはいかないし、創始者の言葉「一握りの砂」にあったように、陶板の耐久力が保障する新たな美術の形というのも納得できる。
「難しい話みたいね」
いや、別に難しい訳じゃあないんだよ。やっぱり、本物が見られるのなら本物を見るのが一番だよってこと。本物には本物にしか持ちえないオーラがある。
「それは、大塚国際美術館の理念を蔑ろにしてない?」
そんなことはないよ。
大塚国際美術館には大塚国際美術館にしか持ちえない魅力があるから。
例えば、環境展示。
システィーナ礼拝堂やスクロヴェーニ礼拝堂、カッパドキアの聖テオドール聖堂や近現代で言えばゴヤの黒い絵シリーズなんかは、その環境でしか見られない芸術だ。そこに行くには時間もお金もかかるし、美術品は決して動かすことができない。そういう美術作品を、レプリカとはいえ身近に見られる場所があるっていうのは、とても大切だと思うんだ。
「確かにそうね。実際にシスティーナ礼拝堂に行こうとしたらそれだけで今回の旅以上の時間とお金がかかるわ。ましてやその他の作品も、ってなるとさらに」
そうそう。この美術館はレプリカとは言え本当に有名な作品がたくさん展示されている。むしろ有名な作品で飾られていない美術品はないんじゃないかと思えるくらい。
「彫刻や骨董品はないけれど」
それは……ほら、陶板を使って絵画を中心に集めた美術館だからね。
とにかく僕みたいな絵画鑑賞が大好き、っていう人には、さまざまな有名どころの絵画、それも西洋美術を場所年代問わずに原寸大で鑑賞することができるのはとっても嬉しい体験なんだよ。それが、大塚国際美術館の持つ魅力その二。
「そうね。館内は広いし、ものすごく並ぶっていうことも無かったわ」
早く来て本当に正解だったね。
一番並んだのは環境展示の一つ、「鳥占い師の墓」かな?あんまりピンとは来なかったけれど、そのすぐ隣の「貝殻のヴィーナス」も環境展示だったね。
「『貝殻のヴィーナス』はモネの『大睡蓮』と同じで、その絵の前の植物が花咲くことによって完成すると考えると、環境展示ってこういうことなんだなあ、って考えさせられるわ」
スクロヴェーニ礼拝堂やシスティーナ礼拝堂の圧倒される感じも環境展示の醍醐味の一つだけどね。
「あなたが一番良かったって思ったのは何?」
それはやっぱりシスティーナ礼拝堂「最後の審判」の環境展示かな。地下三階から順に上っていく作りの順路なんだけれど、その途中に出窓があって、二階相当の部分から礼拝堂を見ることもできるんだ。そこからの景色も圧巻だったよ。
「それじゃあ、目的は達せられたのかしら」
うーん、そうだなあ……。後半を駆け足で行ってしまったのと、ゴヤの黒い家の環境展示を見そびれたのはちょっと失敗だったかな。
時間がなくて焦ってたっていうのもあった。
正確には、周囲の道路混雑状況を鑑みると、バスと電車との連絡に不安があったのだ。
「だから、ちょっと早めに出ようって思ったのね」
そう。
だけどそれでまたちょっと失敗したんだよね。朝のうちにバスの時刻表を調べておけば良かったんだけど、微妙な時間に外に出ることになってしまった。
次のバスまで四〇分近く待たなければならない。でも、朝の臨時バスの事を思えばもしかしたら臨時バスがやってくるかもしれない。逡巡が僕の頭を重くする。
「どうするの?」
バス停にはどんどん人が並んでいく。どうせバス内で立つくらいなら、バス停のベンチで待っていればいいだろう。と思っていた。
このくらいなら乗れるだろう。そう思っていた僕が間違っていた。人はどんどん増えていく。バスに入れるかどうか微妙なほどに人が増えていく。
「並んだ方が良いんじゃない?」
そう思った。だから列に並んだ。前には結構な人数がいる。しかし、このくらいなら全然入るだろう、そう思っていた。
バス停に、時間通りにバスがやってくる。
次々と入っていく。入れる……入れるだろう。じゃなきゃ四〇分も待ってベンチに座ってのんびりしていた僕がバカみたいじゃないか。
あと数人、というところでバスは発車した。
「すぐ後に臨時のバスが来ますので、そちらをご利用ください」
マジか。
「あらら……」
いや本当にあららだよ……。どうしよう。え、マジで困るっていうか、のんびり座ってたの、バカじゃん、僕。
「あ、ほら、向こう。臨時のバスってあれじゃない?」
バスが去ったすぐ後。本当にすぐ後に次のバスがやってきた。ああ、本当にすぐ後だったんだ。良かった。
「こちらのバスは、徳島駅には向かいませんのでご注意ください」
その言葉に並んでいた人たちがざわついた。
恐らくバスで徳島駅に向かおうとしていた人たちだ。
「あなたは大丈夫?これから広島に向かうんでしょう?」
大丈夫。広島に向かうためには岡山駅から新幹線に乗る必要があるんだけど、徳島の方には鳴門駅からも行けるから。
「じゃあ大丈夫だね」
そう、大丈夫な……はずだ。
臨時のバスに乗り込んで、それから鳴門駅前に到着する。
おそらく僕と同じように、鳴門駅から電車に乗り継ぐ人たちだろう。数人がバスから降りる。何やらとても焦っているようだった。
「どうしたんだろうね」
耳をそばだてる。「急がないと電車に乗れない」「ねえ、あれが電車じゃない?」そんな言葉が聞こえる。
「もしかして、もう電車が来てるのかな?」
そうかもしれないね。って、流暢なことも言っていられないのかも。
「私たちも乗らなきゃいけない?」
ちょっと駅員さんに聞いてみる。……って、あれだ!他の人たちも言ってたやつ!あれに乗らないとダメっぽい!
今まさに鳴門駅に止まっている電車。
僕が知っている電車というよりは路面電車に近い車両ではあったが、駅員に聞けば高松方面に向かうには向かうらしい。
乗らないとダメということはないが、乗らなければまた何十分も乗り換えのために待ちぼうけを食らってしまう。今乗らなければ、バス停で待った無為な時間と同じ時間を過ごすことになってしまうのだ。
「じゃあ、早く乗ろう!」
乗る!乗ります!!
急ぎ走って電車に乗り込む。駆け込み乗車になるかと思ったが、意外と待ってくれて助かった。
僕と、その後から続く数人を乗せて電車が動き出す。
「たぶん、バスと同じくらい待ってくれるのかもね。それにしても、良かったねえ」
いやあ、本当に良かったよ。
乗り換えで待つのだって、割と精神削るからね。
「まあ、一時間待ちとかだったら食べそびれたお昼を食べても良かったかもしれないけれどね」
それはそうかもしれないけれど、お昼食べてる間も気が気でない状態だっただろうなあ。
「パッケージツアーとかだとそういう心配がないんでしょうね」
パッケージツアーの強みだよね。今回の旅みたいに、全ての移動手段を考えて、不測の事態を考えて、ってする必要がないからね。
「旅行会社に全部任せて、安心して観光できるのはとても楽なんじゃないかしら」
考えておくよ。
さて、路面電車のような電車に乗って、それから乗り換えをいくつか。
「途中で特急に乗り換えて、岡山から新幹線に乗り継ぎかな?」
正直この辺りの乗り換えは覚えてないんだよね。当初の予定とはだいぶ違った電車を使ったから。
ただ、早め早めに行動したおかげで、予定よりもずっと早く広島に着けたことだけは確か。一八時前には着いたからね。
「当初の予定では何時に着く予定だったの?」
二〇時三〇分。
この予定だと、もしかしたら夕ご飯が二日連続でコンビニのお弁当になるかも知れなかった。
「あらら、それは嫌ね」
そう。それだけは本当に避けたい。
だから、少し早めに切り上げて徳島を出たのは本当に正解だったと思う。おかげで、こうして広島のお好み焼きを堪能できているからね。
「大阪とは違って、宿は駅に近いところなのね」
それでもちょっと迷ったけれどね。
駅に近かったし、周辺にお好み焼きのお店もたくさんあった。ゴールデンウィーク中でやっていないお店もあったけれど、やっている店に入って、こうして目の前で広島お好み焼きを焼いているのを見られるのは何とも言えないね。
「大阪ではお好み焼きは食べなかったものね」
うん。大阪ではたこ焼き。広島ではお好み焼き。そうしようって思っていたわけではないけれど、広島のお好み焼きが好きな僕としては、これで正解だったと思う。
「ふふ。良いんじゃない?広島のお好み焼きって、焼きそばが入ってるのよね?」
そうそう。まあ、そばかうどんか選べるんだけど、やっぱりお好み焼きにはそばだよね。
カウンター席だと目の前の鉄板でお好み焼きを作ってくれるのが嬉しい。
鉄板はカウンター席のぎりぎりまであって、提供されるお好み焼きは、鉄板の上にある状態だから、いつまでも熱々だ。
「食べる分だけ小皿に移しとって食べるのね。熱々で美味しい」
家で作る時は焼きそばに味付けをしていたけれど、このお店ではそば自体には味をつけないんだなあ。そばを味付けするとソースが鉄板を汚し過ぎるんだろうな。
「たくさん作るからこその作り方なのかも」
あるいはそばに味付けをしない方が本来の作り方なのかも知れない。ソースの物足りなさはちょっとあるけれど、それはこっちで足せばいいだけだし。
「それはそうと、テレビでカープ戦を流しているのね。壁にかかったポスターやチラシもカープ関係だし、もしかして、サインもカープの選手のなのかしら……」
広島だもんなあ。
「……ねえ。さっきお店で食べたのに、またお好み焼きを買って帰るの?」
う、うん。
「お店で一枚食べたのに、またお好み焼きを買ってホテルで食べるの?」
お昼ご飯食べてないし、お肉も食べたいし……だって大阪でも広島でも鉄板で焼いた肉を食べなかったら絶対後悔するもん。
「太るよ?」
グサッ!
いや、でもほら、お好み焼きだって一軒だけじゃなくって食べ比べしてみたいじゃん?……ね?
「ね?じゃないよ。太るよ、体に悪いよ、って私は言ってるのよ」
いいじゃん。せっかくの旅行なんだしさ、お昼ご飯分だと思えばさ……。
「夜に食べるのは昼に食べるよりも体に悪いんですよ」
ううう。
「……まったくもう。今回だけですよ」
ありがとう!さすがは僕のイマジナリー彼女!
「これって完全に自作自演の自分に甘い自分ってことでしょう?本当にさあ」
あ、ちょっと一日目の彼女になってるから。
「ほら、私が許している間に買ってくださいな」
はい。それじゃあ、この普通のお好み焼きとあとステーキを一つ。
「ステーキ!?」
さっき鉄板で焼いた肉を食べなかったらって言ったじゃん。
「~~~!!!んもう!太れ!太ってしまえ!それでゴールデンウィーク終わった後で同僚に顔をしかめられればいいんだわ!」
あああ、罪悪感。
でも、食べたいものは食べたいんだ……。ごめんよ。
お好み焼きとステーキは持ち帰りが可能だった。
持ち帰りのお好み焼きとステーキをもってホテルへと戻り、部屋の中でそれらを食す。お好み焼きにもステーキにももやしが使ってあるのがあまり見ないスタイルだ。またお好み焼きにはダイス状のお餅がはいっている。普通の広島お好み焼きなのだが、そのおかげでだいぶボリュームのある感じだった。
ステーキの方は普通に美味しかった。広島だからとか、そう言う理屈抜きに牛肉をガッツリ食べたという満足感があった。
「……」
君も一口どう?
「……食べる」
大阪の宿より、広島の宿の方が一室が広いように感じられた。掛け布団のセットの仕方も異なっていて、広島の方が好みのセットの仕方だった。
「それは、店舗によって違うのかしら」
多分ね。
しかし今日は朝からだいぶ移動したなあ。特急周遊カードを使いまくった桃鉄みたいな移動の仕方だった。
「やっぱり例えが分かりにくい」
ははは。
明日も早い時間に起きるから、今日も早めに寝ないとな。
今日と同じように、明日訪れる場所も今回の旅の大きな目的の一つだからね。
「厳島神社?」
そうそう。って、この回で言っちゃうの?
「だって、次の更新がいつになるか分からないでしょう?」
メタいことを言うねえ。まあ、それもそうなんだけどさ。
二日目は移動でかなり焦ったからね。三日目はそうならないように気をつけたいかな。
「でも、とりあえずは広島に来られて良かったね。反省することはあったかもしれないけれど、それは次の旅の時に生かせば良いんだし」
そうだなあ。とりあえず、移動手段は十分に調べておくこと。それに尽きるかな。
「十分に調べても、予測のつかないこととか、調べたりないところが出てきてしまうものっていうのも肝に銘じておかないとね」
そういう時に焦ったり怒ったりしないで、調べ直すこと。
今はスマホで何でも調べられるんだから、文明の利器はうまく使わないと、ってことだね。
「それだけ分かっただけでも、学びが多い旅になってるじゃない。後は明日、また楽しんで観光しましょうね」
そうだね。それじゃあ、おやすみ。
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