立身出世

「山は登るものだ、人生は這い上がるものだ」

なんて気取った台詞で空の上まで辿り着いた。

そんな自分が誇らしいこともあるが、やはり恥じることの方が多い。

どれだけ取り繕い、消臭剤を振りかけても、己がゴミ屋敷で生まれた事実は消せない。

ふとした瞬間鼻をつく。ネズミの死骸の腐った臭いがさあ。

ようやく俺も人間になれたと思ったのだが、どうして、どうして。

虎のうごめく密林で生き抜く術なら知っている。

底なしの沼から這い出る方法だって知っている。

だのに俺は、ナイフとフォークの使い方すら知らないのだ。

それがどれだけ惨めなことか、段々わかってきた。

わかってきてしまったのだ。

今からでも遅くないと言ってくれ。

獣の俺が、絨毯の上に座ることを許してくれ。

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