マリア編8
「いやぁ、ジェイクがこんな可愛い娘さんを連れてくるとはなぁ」
「あのジェイクがねえ…私、嬉しいわ!」
ウィリアム様と奥様のヘレナ様と一緒に食卓を囲む。ウィリアム様は50代くらいだろうか?シルバーの髪に綺麗に揃えた顎髭が似合う温和な感じの男性で、あまりジェイクに似ていない。ヘレナ様はブラウンの髪を肩から三つ編みにした40代くらいの女性で、お父様に負けないくらい温和な雰囲気で絶対優しい人だと伝わってくる。
「うるせぇな、いいからゆっくり食べさせろ」
ジェイクが朝食として出された鴨のソテーを頬張りながら二人を止める。照れてるな?
「もうこの子ったら!クレアちゃん、この子の元で苦労してない?大丈夫?」
「いえいえ、ジェイクは本当に頼りになるんですよ!」
「困った事があったらいつでも言って来てね?この子、たまに言葉足らずな事あるから…」
クレアは面識があるみたいね、奥様と仲良く談笑している。言葉足らず、ね…確かにこの村がジェイクの故郷とか聞いてませんでしたし!
「あら?」
手にして飲もうとしたお茶がラベンダーティーだ。
「ああ、それはね、『これアルフィナ王国のお茶だ』って送って来てくれてね、私も気に入ってうちに置いてるの。ジェイクは任務であちこち行くでしょ?各地の名産なんかも送って来てくれるのよ。マリアちゃんがアルフィナ出身と聞いて用意したのよ」
奥様が嬉しそうに言う。まさかこんな山村でこんな品質の高いお茶が飲めるとは。奥様の優しい気遣いを感じる。というか意外とマメで親孝行なのね、ジェイクは。
朝食を取りながら色々話を聞かせて頂く。この村は僻地だが温泉があり観光でなりたっていて割と豊かな村だとか、子供時代ジェイクがやんちゃで猪を狩っていたとか、北の収容所は元は国境を守る砦だったとか。昨日売店で店員をしてたのは避難して無人になった宿を私達の為に使える様にするためだったとか。ウィリアムさんも元は軍人でいざという時は手伝うつもりだったらしい。(今朝いたのは元からいた従業員さんらしい)
「マリアちゃん、良かったら今日はうちに泊まっていかないかね?」
朝食を終えるとウィリアムさんが提案する。チラッとジェイクを見ると無言で頷くのでお言葉に甘える事にした。
クレアさんはお子さんが待ってるから、と先にそのまま帰るらしく、帰りに手を握られ「また帝都で遊びましょ!あとジェイクをよろしくね!」と言われた。そう言えばジェイクと初めて会った時も握手されたな、帝国人は確かにスキンシップが多い国なのか。
クレアも最初は嫌な人だと思ったけど私が嫉妬してたからだし、今となっては尊敬できる女性だ。殿下直属の諜報員はやっぱりすごい。でもジェイクの何をよろしくなんだろ?
今日は領主の屋敷、ジェイクの実家に泊まると言う事で客室に通される。部屋の作りはあまり広くはないが宿の部屋より高級感がある。相変わらず暖炉もないのに暖かいのは温泉の熱を利用した暖房だそうだ。帝都の冬も近いがうちでは使えなさそうで残念。
部屋は日当たりがよく、窓から見渡せる村の景色が綺麗だ。特別な貴族や皇族が来た時にもてなす部屋だとか聞いたけど…私が使っていいの?
泊まりが決まって昼からはジェイクが村を案内してくれる事になった。ジェイクの育った村かぁ。ちょっと楽しみではある。
何となくボーっと窓の景色を見てたらドアを叩く音がする。ジェイクだ。
「少しいいか?」
「うん、もちろん」
ジェイクが部屋のソファに座る。私もその向かいに座る。窓から差し込む光がよく当たりさらに暖かい。
「ジェイクの故郷…実家だったんだね、この村。言ってくれたら良かったのに」
まあ、任務だって言ってたから知ってても菓子折りとか用意したり出来なかっただろけど。
「ちょっと言い出しにくかったんだよ…」
少し照れながらジェイクが言う。ジェイクはそういうとこあるよね。照れるジェイクは可愛い。
「優しそうで素敵なご両親ね。あまりジェイクに似てないけど」
「ああ、そうだな。俺は実の子じゃないから似てはいないだろうな」
えっ、私余計なこと言っちゃったかな?
「元々身寄りがなく、まあ一言でいえば戦争孤児ってやつさ。俺は覚えてないが、まだ先代の皇帝時代、帝国が武力で亡ぼした国の一つで瓦礫の中で泣いていたそうだ。それをオヤジが…部隊長だったウィリアムが拾ってくれてな。当時オフクロは…ヘレナは医者に子供が出来ない身体だと言われ子供を諦めていたんだ。それで俺を養子にしてくれたんだ」
「そうだったんだ…」
「俺の祖国を亡ぼしたのは帝国だ。だが、俺を育ててくれたのも帝国なんだ。だが両親は包み隠さず俺に話してくれた。正直複雑な気持ちになった時もある。だが見ただろ?オヤジとオフクロ。二人とも良い人なんだよ。あれこれ考えてもそれは変わらねぇ。だったら俺は二人の息子として帝国人として生きる、そう決めたんだ」
何だろ、素敵な話の気がする。そしてアレクの事が頭をかすめる。ジェイクのご両親も本当の事を話す事でジェイクに恨まれる可能性だってあったはずだ。でもご両親はそれでも真実を話し、ジェイクはそれに答えた。アレクも陛下が真実を話し、向き合っていれば…。
「素敵なご両親ね」
「ああ。だから、マリアに会って欲しかったんだ」
「え?」
「マリアに、俺の家族を会わせたかったんだ。そんで、俺の家族になって欲しい」
「えっ」
え、ええッ!?それって、つまり…?
私、プロポーズされてる!?
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