マリア編7
現場となった食事処は戦闘の跡が酷く、しばらく使えないが宿屋としては部屋は使える。疲れ切った私達はそのまま宿屋で一晩泊まった。部屋に戻る頃には深夜を過ぎてたけど本当に疲れた!大した事ない、とか言ってたの誰よ…
翌朝、起き上がり着替えようとすると全身が痛い。筋肉痛だ。いや、昨夜の戦闘は私は殆ど何もしてない。最後にアレクに抵抗したくらいで。この筋肉痛はこの村に来る時に2時間も歩いたアレだ。ちょっとカッコ悪い。
「いたた…」
呻きながら階段を降りて行くと既にジェイクがロビーのソファに座ってる。
「お、起きて来たか」
コートを着てるから判らないけどあちこち傷だらけのはずなのにいつも通りだ。というか昨日、ジェイクは本当に凄かった。カッコよかった…最後、アレクから助けられて抱きしめられたのを思い出し顔が赤くなる。
「お…お、おはよう!か、身体は大丈夫なの?」
「ん?ああ、大丈夫さ。問題ない」
ただの筋肉痛の私より元気そうでホッとする。
「クレアさんは?」
私に帰った方がいいと言うだけあって、クレアもやはり帝国の諜報員、ジェイクのサポートに入った時の動きは凄かった。正直、見直した。
「あそこで子供へのお土産選んでる」
ジェイクが指差す先を見ると、となりの売店でお土産を探してるクレアが目に入る。あ、私もアルン様やコーデリアにお土産買って帰ろう。ん?
「え?子供って?」
「クレアの子供。娘が二人いるからな」
は?えええッ!?あんな綺麗な人なのに子供がいるの!?ええ!?既婚者って事!?!?
「あ、マリアちゃーん!」
私に気づいて手を振るクレア。えー…あんな綺麗な人がお母さん?
「娘にお土産選んでるんだけど、どっちがいいと思う?マリアちゃん歳が近いから…」
待て。歳が近い?
「えーと…娘さんですか?何歳くらいの…」
「上が15歳で下の子が10歳よ!」
……え。えええ!?待って待って!?クレアさん幾つなのよ!?帝国の一般的な貴族の結婚はだいたい平均17〜18歳くらいだから…え?ウソだぁ!詐欺だァ!!
「ええっと、それくらいの歳ならこっちの方がいいとオモイマス…」
私から見ても可愛いと思う雪結晶と花の髪留めピンを指差す。
「お、こっちね!確かに若い子向きかも!妹ちゃんはお菓子にしようかな?」
何だろう、急にどっと疲れた。ウソでしょ私、そんな歳上の子供までいる既婚者女性に対して嫉妬してたって事?恥ずかしすぎる…途中、私に帰った方がいいって言ってきたのも純粋に娘を心配する親目線だったのかも知れない。いやでもスタイルもいいし普通に美人すぎるでしょ、若々し過ぎでしょクレアさん!!
「さて、腹も減ったしそろそろ行くか?」
お土産を買ってるとジェイクも売り場にやって来きて声をかけられる。ん?行くって何処へ?確かにお腹は私も空いてるけど食事処は昨日の戦闘でボロボロだから封鎖されて開いてない。
「何処に行くの?他に飲食店あるの?」
まあ村だから宿しか食べる場所がないって事はないだろうけど。
「俺の実家に飯食いに行く」
「えっ!?!?」
ジェ、ジェイクの実家!?え!この村ジェイクの故郷なの!?私、聞いてない!
「あ、聞いてないの?ジェイクのご両親、この村の領主なのよ」
呆然としてる私にクレアが言う。何で!そんな大事な事を!私に言ってないのジェイク!?
領主の館は宿を出て東へ山を登った先にある。山を登る、と言っても歩いて15分程らしい。筋肉痛の私には少しキツイけど。
館への道すがらジェイクが今回の騒動について教えてくれる。結局は全てジェイクが事前に段取りをつけていたらしい。脱獄者が収容所を出ても南下して村に来るしかない地形である事、脱獄日を逆算して今日明日辺りに村に着くであろう事(想定より早く、昨夜来たらしい)。そして、領主はジェイクのご両親であるため、事前に手紙で連絡し領民を避難させた事。領主の屋敷だから警備も万全だ。山間の村の風習で食料も地下に保存していて、地下への入り口は住民にしかわからない。民家を襲っても食料は見つからずに宿屋を狙うしかない状況を作り出していた事。雪山は猪を狩る罠があるため迂闊に動いては危なく、中々食料も手に入らないらしい。「猪の罠にかかってくれたらと期待はした」ってジェイクは笑ってる。
まるで手品の種明かしを聞いてる様だ。私達が村に着いた時には既に段取りが出来上がっていたのね。だからクレアも「詰んでる」って言ったんだ。唯一の想定外はケネスがいた事。女子供でも容赦なく、ジェイクとクレア2人がかりでやっと捕える程の強さ。一歩間違えれば犠牲者が出てもおかしくなかった。
何故そんな奴を死刑にせずに収容所に入れてるだけなの?って聞くとそれまでの数々の武功があったのと、ああ見えてケネスは古い皇帝の血筋を引く由緒ある貴族らしい。今回の事でさすがに処刑もあり得るとの事だけど。
結婚して子供がいるのにクレアは何で諜報員なんかしてるの?って聞いてみると「楽しいから」って笑いながら言われた。今回の任務も帝都に居たタイミングだったのと、温泉に入りたかったから受けたらしい。
旦那さんは公爵家の人で帝国では高い地位に就いてるらしく、任務に出る時はいつも嫌な顔するけど、知り合ったのも任務絡みらしくていつも渋々承諾するとか。任務で知り合うって私とジェイクみたいな感じかな?
娘さんはお姉ちゃんのリリナが来年私と同じ学校に入学だとか。妹のシェリーは短剣術で男子を倒すほどやんちゃとか。お母さん似か、クレアの短剣術は私も目を見張ったもんね。
「さて、着いた。先ずは飯を用意してもらうか」
領主と言うだけあって帝都の貴族程ではないが立派な屋敷だ。そう言えば以前、ジェイクは王国で言えば侯爵だって言ってたな、元は子爵だったとも。住民が何人いるか知らないけど避難させるには充分な大きい屋敷だ。既に避難してた住民は昨夜のうちに村に戻って行ったらしいけど。
屋敷の門をくぐり玄関に入ると、何処かで見たおじさんがいる。昨日の宿屋の売店のおじさんだ!
「よくぞいらっしゃった、マリアさん。お待ちしてました!私、ジェイクの父、ウィリアム・レスターと申します。本日はわざわざお越し頂き…」
「いやオヤジ!そう言うのはいいから!」
ジェイクが珍しく焦って慌ててる。
「まあ、上がってくれ、飯にしよう」
照れながら屋敷の奥に入って行くジェイクに私達も続いていく。しかしまさか、ジェイクの実家にお招きされるとは!何だか私も、変に緊張して来たぞ…。
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