マリア編3
腰まである艶のある黒髪に蒼い瞳、色白で綺麗な顔立ち。黒い帝国軍制服を着た凛とした大人っぽい女性。クレアと呼ばれたその女性がジェイクの腕をとり隣に座る。え、ホント誰!?
「やめろクレア、くっつくな」
「えー」
ジェイクがクレアと呼ばれた女性の腕を振り解く。帝国軍制服って事は帝国の人なんだろうけど…ジェイクの知り合い?
「んん?貴女、誰?」
クレアが私に気づいてこちらを見てくるが…それはこっちのセリフなんだけど?
「言っただろ、マリア・シルフィードだ。今回の任務に連れて行くって」
「あ、あ〜!あの!帝国学校で短剣術首席って言ってた?へえ、この娘が。ふーん?」
急に値踏みする様に私をジロジロ見てくる…何この失礼な女?
「私はクレア・ブランドよ。簡単に言えばジェイクの同僚。エルシオン様直属の諜報員よ」
「マリアは直接面識ないだろうがクレアはアルフィナ王国騒動の時も工作員として一緒に任務に就いてたんだ。今回の任務はこの3人でやる」
あの時の諜報員の一人なのか。王国を動かす騒動だからジェイクとエルシオン様以外に人がいるのは驚かないけど…でもそれとジェイクと馴れ馴れしいのは別の話なんですけど?同僚だから仲が良いのはあるとしてちょっと距離が近すぎませんかね?何だろ、妙にイライラする。
「収容所の壁は西側が崩れてたわ。脱走したなら西の森が濃厚じゃないかな?」
早速クレアが地図を広げて指差す。収容所の西は森が広がってる様だ。
「脱走したのは4名。アルフィナの元王太子アレク、ルクレアの元国王グリフィスとその騎士ホーネスト。あとの一人はケネスよ」
「!」
クレアの説明でケネスの名を聞いたジェイクが眉をひそめる。知ってる人なのかな?
「マリアちゃん連れて来たの失敗じゃない?今からでも帰らせたら?」
え、どうゆう事?せっかく来たのにいきなり帰れとはいちいち失礼な女性だな?
「……大丈夫だ。問題ねえ。マリアならオレが守るしな」
ジェイクまで真剣な顔で言うからそのケネスって人がヤバい奴なのは伝わってきたけど…ちょっと待って。
「私にもわかる様に説明して貰えないかしら?」
2人だけでわかってますみたいな顔してて疎外感が強い。任務とは聞いてるけどせっかくここまで来たんだ、何もないまま帰る訳にはいかない。何よりクレアの言いなりになるのは気にいらない。
「アレクは知ってるよね?アレはちょっと乱暴な人だけどそんな大した事ない。ルクレアの2人も似た様なものよ。でもケネスは…ケネスは私たちの元同僚なのよ。つまり同じ帝国諜報員。私やジェイク同様にエルシオン様直属だったけど余りにも残虐で目に余ったから収容所に送られたの。つまり、かなりの強者でヤバい奴ってわけ」
クレアが丁寧に説明する。アレクが大した事ないってのは王国でジェイクが軽くあしらってたのを見たから確かにそんな印象はある。そのケネスって人がジェイクと同じくらい強いって事ね?
「問題ねえよ。それよりこの村を警戒した方がいい。西の森林地帯ってそっちは断崖で先がねえ。普通に南下してるんじゃねーか?アレク達ならまだしもケネスがいるなら帝国の地理に詳しいはずだ」
つまり、この村が危ないって事か。
「じゃあしばらくはこの村に滞在して様子見って事?」
クレアが真剣な眼差しでジェイクに尋ねる。
「そうなるな。今日はもうじき日が暮れる。明日の朝から捜索に出よう。だが部屋の戸締りはしっかりしとけよ。来るとしたらこの宿だ」
「やったー!じゃあゆっくり温泉に入れる!さあさあ!マリアちゃん!一緒に温泉に行きましょ!」
「!?!?」
そう言ってクレアが今度は私の腕を引っ張ってき、呆気にとられる。何なの一体!ジェイクもやれやれって顔してるけど何も言ってこない。危ない奴がいるんじゃなかったの!?
「知ってる?ここの温泉は美肌効果があるのよ〜?」
何故かクレアと温泉に入る羽目になる。嬉しそうにはしゃぐクレアに連れられ温泉?の入り口で宿の店員のおばさんからタオルとロッカーの鍵を受け取る。中に脱衣所があるらしい。いや、温泉そのものはいい、私も興味あった。王国には温泉なんて無かったし入ってみたい。でも何でよりによってこの女と一緒に入る事になってんの!?
この村が山間にある田舎なのにそれなりに規模があるのと私が泊まってる部屋みたいに貴族向けの立派な部屋あるのも、村に温泉があるからでシーズンには観光や名物料理(さっきの猪料理とか)、温泉目当ての帝国貴族も来るらしい。割と帝国では有名なのか。
温泉というのは天然の湧き水が温かいものらしく、言うなれば自然のお風呂だ。今から入るのは露天風呂と呼ばれるもので何故か屋外にある。外で裸でお風呂に入るって、よく考えたら凄い恥ずかしいな!誰かに見られたりしない?何で外に造ったんだろ?寒くないのかな?
「うわ〜、マリアちゃん肌綺麗!やっぱ若い娘は違うわね!」
脱衣所で着替えながらクレアさんに言われる。何だろ、この人妙にやりにくいな…。
「クレアさんもスタイル抜群ですね…」
社交辞令を返すけど…いや、ホント抜群なんですけど?スラっとした長身でシュッと引き締まったウェストなのに胸が夏ウリくらい大きい…何食べたらこんな大きくなるんだ?女の私でも見惚れてしまうくらいプロポーションが良い。ジェイクは胸が大きな人が好みなのかしら?ふと自分の胸に目をやり何とも言えない気持ちになる…。
露天風呂は以前泊まったグランデ城のお風呂より広く、木々に囲まれた雪景色が美しい。見上げると暗くなってきた空に星が見え、開放感が凄い。外にあるって聞いて寒いんじゃあ?って不安もあったけど、熱いお湯に浸かってるのに顔だけ冷たいのが心地よい。これはマジでアルン様やコーデリアも連れて来たいわ。
「ジェイクはああ言ってるけど、私は貴女は帰った方が良いと思う」
お湯に浸かりボーっとしてたらポツリとクレアが呟く。
「ケネスはね、私達諜報員の中でも一番腕が立つの。正直ジェイクより強いわ。でも問題はそこじゃない。その残虐性よ」
とある国で諜報活動をしていた時、帝国は一つの街を占拠した。その時、最後まで抵抗していた敵の指揮官がいたがケネスはその指揮官を捕えた後、見せしめとしてその家族を皆殺しにした。その中には幼い赤ん坊までいたらしい。重く見た帝国はケネスを懲戒処分とし、捕えようとしたが何人もの諜報員、兵士が犠牲になったと。
「奴は平気で女子供を人質にするし、殺す様な奴よ。奴を捕える時ジェイクでも1人では叶わず大怪我をしたわ…わかるでしょ?この話を何故したか」
つまり、もしもの時は私が狙われるって言いたいのか。街中なら誰か民衆を人質に取るだろうけど、誰も居ない山中なら私が一番狙われる、と。
「でもそのまま帰るなんて私には出来ない。王国の、アレク元殿下が絡んでるならアルン様の為にも帰るわけにはいかない!」
多分ジェイクが私を連れて来た一番の理由だ。ジェイクならちゃんと再び捕らえてくれるだろうとは思うけど、もし帝都まで来てまたアルン様に危害を加えるかもと思ったら私だけおめおめと引き帰る訳にいかない。
「確かに短剣術首位は凄いけど、実戦経験もない学生では通用しないわよ?」
私が短剣術を過信してると思ってるの?ホント嫌な女だわ。
「私は自分を過信したりしてません。私が信じてるのは私を守るって言ってくれたジェイクです。私はジェイクの言葉を信じてます」
私だって怖い。ちょっと浮かれてたのは認めるけど帝国の任務だから遊びじゃないのはわかってる。自分が未熟な学生なのも。
でも、それ以上に私を守るって言ったジェイクは信じるてる!
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