マリア編4

 正直言うと私が何かの役に立つとか思ってない。ジェイクの足を引っ張る可能性もある。でもジェイクは私を守るって言ってくれた。なら私はその言葉を信じるだけだ。それにアレクが絡むとは言えわざわざ私を連れて来たのはジェイクに何か考えがあるはずだ…多分…あるよね?


 温泉を出て自室に戻りベッドに寝転ぶとクレアの言葉が色々浮かぶ。いや、態度も。何よ、ちょっとジェイクと同じ諜報員だからって、ちょっと胸が大きいからってベタベタし過ぎじゃない!?


 ……あれ?さっきからずっと私、クレアにイライラしてる?あの食事処で会ってからずっと。落ち着いて冷静に考えるとクレアが言ってる事は決しておかしな事は言ってない。想定より危なくなりそうだから学生である私は帰れ、て話だ。でも何かこう…モヤモヤというかイライラというか…素直に受け入れたくない。何だろこの気持ち…。


 ん?んん?もしかして、これ、私、嫉妬してる?クレアに?ジェイクと親そうにしてたり、腕を組んだり…それを思い出すとイライラするってこれ、私が嫉妬してる?そう考えると何もかもを急に腑に落ちてしまう。


 嫉妬するって事は私、もしかしてジェイクに恋してる?今までも好きって気持ちはあった。でも漠然としていてただ何となくジェイクと一緒に居たいなとか、会いたいなみたいに思ってだけどそれが恋って感情からくる事を自覚してなかった!思えばこの任務もちょっと浮かれてたのは私がジェイクを…好きだから?これが、恋?そう考えると何故イライラしてたか辻褄が合うし、今ならリーリの気持ちも少しわかる。勿論リーリは今でも許せないけど…いや、ホントにめっちゃ解るわ、クレア邪魔!って思ってる自分がいるもん…自分が怖い!リーリも私に対しそう思ってたのが今なら解る。ヤバい、どうしよう…。


「マリア、居るか?」


 ドアの向こうからジェイクの声。え、待って待って!私、今どんな顔してジェイクに会えばいいかわからない!落ち着け私!とりあえず深呼吸!


「ど、どうしたのジェイク?」


 何ともないフリでドアを開ける。目が合うだけでめっちゃドキドキしてるのが自分でもわかる。き、気づかれてないよね?


「ああ、いや、大した用事じゃねーがちょっと顔見たくなってな」


 うわぁァァァァァ!何言ってんだこの坊主頭はァ!ダメだ!絶対今顔が赤い!赤くなってるの自分でもわかる!タイミングぅ!何で今そんな事言うのよ!


「な、何よそれ!ば、バカじゃないの」


 バカは私だぁぁぁ!素直に嬉しいと何故言えないの!顔が見たいって言われてすごく嬉しいのに!こ、これが恋?な、なんて恐ろしいの!


「いや、まあ、ホラ、クレアに連れられ直ぐ温泉行っただろ?必要な物買えてないんじゃあと思ってな」


「あ、ああ!うん、そうね!着替えとか下着とかも売ってるの?歯ブラシとか石鹸とかは備え付けあるみたいだけど」


 一応夜遅いからとジェイクが一緒に売店までついて来てくれる。下着とかも買うから恥ずかしいとか思ってたら離れたロビーのソファに座ってる。お互い見える位置だけど一人にしてくれる。マジホントそう言う気配りは上手いのよね、ジェイク…好き。うわぁ!好きって何!?今までだってちゃんと気を使ってくれてるの知ってたし見て来たよ!?何で自覚した途端にこんなちょっとの事で前よりトキめいちゃうの私!!…いやヤバい、好きって気持ちが明らかに前と違う…意識するだけでこんな違うの!?ちょっと私、気持ち悪い奴になってない!?世のご令嬢は皆んなこんな気持ちどうしてるの?コーデリアとラドくんもこんな気持ち抱えてるの?これコントロール出来るか私!?


「お?終わったのか?」


「うん…」


 買い物が終わりジェイクと二人で2階の部屋に戻る。ダメだ…顔が見れない。こんなふわふわした気持ちで任務なんか出来ない気がして来た…悔しいけどクレアの言う通り、帰った方がいいかな?でもクレアの事はハッキリさせときたい。


「ねえジェイク。クレアさんとは…どういう関係なの?その、ちょっと親しそうに見えたから…」


「ん?単なる同僚だよ、それ以上はねえ」


「でも…何か腕を組んだり親しげだったから…」


「何だ、気にしてたのか。まあそうだな、確かに王国なら過剰なスキンシップに見えるか。帝国なら普通なんだがな」


 普通…一応、田舎者と言えある程度淑女教育を受けてる身としては帝国の普通はよくわからないけど普通なの?学校も私達のクラスは帝国に併合された国の生徒が多く、帝国人は少なくてわからない。


「まあ、マリアが嫌なら止めるよう言っておくが…クレアは…」


 ジェイクがそこまで言いかけたタイミングで下の階からガタンッと大きな音がする。



「ジェイク!マリア!来たわよ!」


 隣の部屋から飛び出して来たクレアが叫ぶ。来た?まさか、脱走した囚人!?


「マリア、とりあえず直ぐ準備しろ!部屋から出るな…とは言わねえが無理はするなよ?」


「え!う、うん!」


 買い物した荷物をベッドに放り投げ、ジャケットを羽織る。懐にはジェイクに貰った短剣を装備する。わかってる、部屋から出るなと言わないのは下手に部屋に閉じこもっているよりジェイクの側が安全だって言いたいのは。


 気持ちを切り替えろ私!弱音を吐いてる場合じゃない、もう引き返す選択肢は無くなった!さっきまでおちゃらけてたクレアも顔つきに険しさが増している。


「行くぞ」


 ジェイクの声と共に三人で二階の廊下を走る。


 大丈夫、きっと何とかなる。ジェイクがいるんだから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る