マリア編2
「ふう、やっと着いたな、大丈夫かマリア」
あれからさらに1時間…まさか雪の中を2時間歩くと思わなかった!途中休憩は何度かいれたけど女の子を、仮にも貴族令嬢を連れてくる場所じゃないよ!
「やっと村に着いたの?何なのよジェイク!全然大した事なくないじゃない!普通に大変だったわよ!」
「半分はマリアが物珍しそうにあちこち見てはしゃいでたからだけどな」
うっ、否定出来ない…。慣れない山道、雪の中の寒さ。ちょっときつかったけどまあ、無理ってほどじゃなかったし、初めての体験で珍しさが勝ってしまいはしゃいでしまった…。
「王国も雪は降るけどこんな積もってるの初めて見たもん…」
多分冬の北部ならこれくらい積もるのかも知れないが私は行ったことないから見た事ない。
「本来ならこの季節、まだこんなに積もってないんだがな、今年は雪が早いらしい」
例年ならば馬車があんな手前までしか通れないのはもっと本格的に冬に入ってからで、今年は異例らしい。雪が積もると馬車ではなくソリを使うとか。今年は雪が早くてソリの用意が間に合わなかったみたい。
着いた、と言っても山岳地の山村、雪に覆われた建物はちらほら見えるけど人の気配はない。寒いから外には人はいないのかな?起伏がある山岳地帯だから斜面や山あいにも民家が見え、村全体を見渡す事は難しいが思ったより広く、規模が大きそうだ。
「宿を取ってあるから一息つこう、そろそろ日も暮れるだろうしな」
そう言ってジェイクが村の中央に見える大きな建物を指差す。やっとゆっくり出来る…ん?宿?待って、泊まり?待って私、聞いてない!
「待ってジェイク、泊まりなの!?聞いてないんだけど!」
「え?いやいやいや、どうしたマリア。むしろ何で泊まりじゃないと思ってんだよ、任務だし何より片道半日以上かかる場所なのに何で日帰り出来ると思ったんだよ?」
うわ!正論だ!いや、ホントその通りだわ!場所は事前に聞いてた、帝都からの距離を考えたら一泊するとか普通なら考えるわ!これは完全に私の見落としだ!…ちょっと浮かれてたのかも知れない。任務とはいえジェイクと二人でお出掛けだって…恥ずかし過ぎる!!
「まあちゃんと部屋は別々だから心配すんな。チェックインして荷物を置いたら後でロビーで合流して飯にしよう」
別々…そりゃそうよね、当たり前か、急にお泊まりだと聞いて内心慌てたけど少しホッとした。まだ未婚の男女でお泊まりとか流石に誰にも言えないし許されない。別にジェイクは嫌いじゃない、好きだけどまだそういう関係じゃないしね。というかちょっと私、浮かれ過ぎじゃない?もっとしっかりしなきゃ!
部屋は割と広くて綺麗で何か王国の学生寮を思い出す様な作りだ。貴族が泊まる前提なのか、そことなく高級感がある。良い部屋なのかな?
建物内は暖房が効いてるのか暖かく、荷物を置いて上着を脱ぐ。荷物と言っても泊まりだと思ってなかったから簡易な化粧ポーチとハンカチとかしか入ってない小さなカバンだけど。暖炉とかないのに暖かいのは何か特殊な技術なのかな?
ロビーに向かうと既にジェイクがソファに座って待っている。
「お、来たか。そっちにある売店で生活用品もあるぜ、飯食ったら寄って行こう」
あ、私が泊まりを失念して着替えとか持ってないからか。この男、そういうトコは気が回るのよね…。
宿のロビー奥の別館にある食事処で少し早い夕食をとる。雪だからか、それとも早い時間だからなのかはわからないけど客は他にいなくてまるで貸切だ。何か見た事ない山菜や普段口にしない猪の肉やら、あまり馴染みのない料理ばかりだけど美味しい!帝国に来てから食事はそこまで王国と違いはなかったんだけど、ここは珍しい料理が多い。調味料とか初めての味だな?いずれはアルン様達とも来たい。
「任務についてなんだが…」
食事が終わり、デザートの餡子の入った饅頭(これも美味しいな?)を食べてる途中に遂に任務についての話になる。行きの馬車で何やら脱獄した脱走者の情報を集める任務とは軽く聞いてだけど。
「元アルフィナ王国の人間が収容所を脱獄したらしくてな」
「え!?」
アルフィナ王国。それは私やアルン様の祖国。もはや帝国に吸収され帝国の一地域になってはいるが。そして殆どの貴族は帝国に忠誠を誓いそのまま王国で暮らしている。そんな中、「帝国で収容所に囚われている」のは一人しか居ない。元アルフィナ王国王太子でアルン様の元婚約者…アレク殿下だ!いや、今やただの平民らしいけど。元国王陛下は帝国に併合された後、病に伏せて軍の監視の元入院してるからアレクしかいない。
なーにが大した任務じゃない、よ!私に、アルン様にとって物凄く重要任務じゃない!
「王国が解体された後はこの村のさらに北にある捕虜収容所に収監されてたんだけどな。先日土砂崩れで一部の建物が壊れて他にも何名か脱獄したらしい」
帝国に合併したり吸収された国は基本的にはその国の王をそのまま帝国の領主として扱う。もちろん帝国の監視は付くが、いきなり帝国が支配しても民衆は混乱するし、既に国を纏めていた国王をそのまま据えた方が手間がかからないからだ。とは言え内政は帝国式に変わるし王達は単なる帝国の一貴族扱いにはなるんだけど。
その中でも最後まで抵抗した王族や、うちの元王太子みたいに問題がある人間は収容所に送られて厳しい監視の元、山間部の開発の人員に回されてるのは聞いた事ある。処刑しないのは何やかんやで帝国は平和主義なのと、やはり王族だけあって無闇に処刑すると貴族や民の反感を買う可能性があるからだとか。
「まあ見ての通り雪だからな、そんな遠くへは行けないだろうし行ける場所も限られる。そんな難しくはないだろう」
いや脱走者とか結構危なくない?アレクが含まれてるのは確かに気になるけどホント私いて大丈夫なの?
「ジェイク!久しぶり!」
突然、入り口のドアがバタンと開いたかと思うとこちらに向かって一人の女性が走って来てジェイクに抱きつく!
「クレア!」
え、急に何?ジェイクも知り合いみたいだけど…何か凄くジェイクに馴れ馴れしいんだけど?
誰よ…その女!?
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