第31話

「帝国の皇太子である私が何故王国にいるのか?答えは簡単だ。既に決着は着いているからだよ」


 エルシオン様が楽しそうに笑う。


「つまり、王国が王国として残るチャンスは同盟しかなかった…もしそのまま婚約が成立していたなら我が国も同盟を受けざる得なかったからな…」


 じっと殿下を見つめるエルシオン様…そうか、帝国としては婚約して欲しくないんだ。


「もう一度聞こう。オルシュレン嬢…いや、我が従兄妹アルンシーダよ。同盟は…婚約はしたくないのだな?」


 不思議な光景だな…アレク王太子殿下に公衆の前で婚約破棄され、辱めを受け、辛い思いをしてたアルン様が…アルンシーダ・オルシュレン公爵令嬢が今、王国の運命を握っている。王国の存亡を決めようとしている…。

 そんな事をぼんやり考えてると、ジェイクと目が合う。なんか申し訳なさそうな顔してる。いいよジェイク…私は。


「私は婚約を受けません。例え王国が亡び、帝国領となろうとも」


「決まったな」


 そう言って手を2回エルシオン様が叩くと外に控えていたのか兵士がなだれ込み、陛下と殿下を拘束し、連行していく…。

 呆然とする陛下。力なくうなだれる殿下。まさか宰相、将軍と共に帝国につくと思ってなかったのだろう。殿下もさっきまでの威勢が嘘のように静かだ。そりゃグランデ辺境伯まで帝国についたら王国軍が丸々帝国についたようなもんだ、いくら殿下でもわかってるんだろう。戦いにすらならない事に。


 それにしても帝国は恐ろしい。ティタニアを無血で落としたのもこんな感じだったのだろうか?我が国も結局はティタニアと同じ運命を辿ることになるとは。


「さて。大方片付いたな。ジェイク、お茶でも淹れてくれ」


 国一つ潰しといてまるで書類仕事を終わらせたようなエルシオン様。本当、アレク殿下とは器が違う。


「さあ、オルシュレン嬢もマリア嬢も、一息つこう」


 手慣れた手つきでジェイクがお茶を淹れる。王国で主流のラベンダーティーだ。鮮やかに入れるのを見て本当にお茶は気に入ってたんだなと思う。


「中々のもんだろ?」


 にこりと白い歯を見せる。うん、ホントすごいよジェイク。


「先ずは何から話すか。アルンシーダ嬢もマリア嬢も、とりあえずはお疲れ様」


 優しく微笑む。言われてみれば中性的な整った顔立ちと美しい銀髪はアルン様に似ている。さっきまでは怖かったけど、本来はいい人なのかも知れない。結果だけ見ればほぼ無血で事を終わらせてる。


「私をこの場に連れて来たのは…アルン様に婚約破棄を促すためだったんですね」


 そう、アルン様一人では万が一にも王国を捨てる決意が出来たかどうかわからない。そこへ、仲の良い私が背中を押すであろう事を見越して私は連れて来られたんだ。実際、後押しするような事をさっき言ったし…。


「さすがに察しがいいな、マリア嬢。報告に受けた通りだ。さっきの王家連中より余程頭がまわる」


 さっきジェイクが食堂で私の隣に来たのも偶然じゃないのね?チラッとジェイクを見る。申し訳なさそうな顔してたのもそういう事ね?


「マリアさんが部屋を出た後すぐにエルシオン様が来られて、そのまま連れてこられたんです」


 どうやら家族しか知らない母の話や父、宰相が帝国に与する趣旨の手紙を見せ信用させて連れ出したらしい。


「今後…王国はどうなるんですか?」


 恐る恐る聞いてみる。ティタニアの件もある、酷い扱いは受けないと思うが…私やコーデリアみたいな弱小貴族はどうなるかわからない。ダドくんは…おじ様が帝国についてるし大丈夫とは思うが…。


「今後は最終的には王国はアルンシーダ嬢に治めて貰うつもりでいる」


「「えっ」」


 エルシオン様の言葉にアルン様と同時に声がでる。


「まあ、心配しなくてもすぐじゃないし、治めると言っても帝国の一領主みたいな感じでな。当面は宰相イシュト殿が務めてくれる予定だ」

「あ、あの…陛下や殿下はどうなるんですか?」


 そう、ティタニアは元国王がそのまま帝国貴族として治めてると聞いた。アルン様が治めるなら今の王家は。


「基本的にはその国の王を領主に据えるんだがな。その方が国を纏めやすい。元々纏めていたのだからな。税収が帝国に流れるだけで反感もある程度抑えれるし予測し易い。だがまあ、見ての通りアレはダメだ。多分僻地へ送る事になる」


 なるほど。


「とは言え、今いる王国貴族は既に査定は始まっているし、ある程度は解体されるだろうな」


 ある程度。どの程度なんだろうか。


「心配要らないよ、マリア嬢。貴女には出来ればそのままアルンシーダ嬢を補佐して欲しい。そうすればそのまま子爵として残そう。なんなら侯爵くらいに爵位を上げてもいいぞ?」


 え、いやそれは私決めれないよ、両親がどう言うか。でもアルン様の補佐は喜んで受けます。


「ただまあ、アルンシーダ嬢には一旦帝国へ上がってもらう。皇帝陛下への御目通りもして欲しいしな。マリア嬢が来てくれたらアルンシーダ嬢も安心だと思うんだが?」


 私も…帝国へ?


「ちゃんと帝国のお茶を用意するよ」

 ジェイクが悪戯っぽく言う。

 

 これからどうなるか、帝国ってどんな所か知っておいた方がいいよね。アルン様一人じゃ不安だろうし、行くしかない。




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