第30話

「私は嫌です!殿下とは…殿下とは結婚したくありません!」


 アルン様…!よく言ってくれた!嬉しい。


「は、ははは!聞いたか父上?この女も嫌だと言ってるぞ?」

「ならば我が国は終わる。ティタニア同様併合されてな…アルンシーダよ…それでもよいのか?」


 圧力かけてきたか。私的にはもう併合されてしまえとは思ってるけど…アルン様は…?


「はい!それでも…したくありません!」


 こちらを見ながら…震える手を握りしめ涙目で答える。うん、頑張ったね、アルン様…強くなった。


「バカな事を…」


うなだれる陛下。


「こんな女に頼るなど、それこそ愚かだ!我が国は負けぬ!帝国が攻めるというなら徹底抗戦だ!」

「ははは、随分と強気ですねえ」


 激昂する殿下を笑うエルシオン様。


「何がおかしい!」

「我が帝国に本気で勝てると思ってらっしゃるところとか、可愛いですね」

「貴様ッ!愚弄する気か!」


 殿下が剣を抜きエルシオン様に斬りかかる!


「ジェイク」


 エルシオン様が短く、呟くように名前を呼んだ瞬間、そう、本当に一瞬だ。殿下の正面から腕を抑え剣を奪うとそのまま背後にまわり、関節を極め床に押し倒す!ふと気づいたらエルシオン様は抜刀し陛下の喉元に突きつける!!あまりにも流れる様に、一瞬の出来事で私もアルン様も呆然とする…。


「認識が甘すぎませんかねえ?今、ちょっと力をいれたらこの国は亡びますが…?」


 エルシオン様の冷たい声に私達だけでない、陛下も殿下も呆気に取られ身動き一つ出来ない。


「王太子殿下。本気で帝国と戦う気なら私にのこのこついて来たりせず、それこそ兵士でも呼んで捉えるべきです。もっとも、帝国は層が厚い。私程度捉えても交渉の材料になるかな?って程度ですがね」

「き、貴様ッ!!」


 漸く事態を把握したのか、もがき、暴れようとするがジェイクが完全に抑え込んでる…びくともしない。


「ま、待て…早まるな、余は帝国と構える事は望んでおらん!アルンシーダ!そなたも考えなおすのだ!」


 陛下が鎮痛な叫びを絞り出す。アルン様はまだ呆然としてる。私も頭がついていかない。


「考えてもみよ!もしそなたが婚約に応じず、同盟がならねば帝国と戦争になる。そうなればそなたの家族や友人もタダでは済まなくなるぞ!」


 陛下のおっしゃる事もわかる。もしそうなればダドくんも戦場に駆られるだろう。私やコーデリアの様な下級貴族は領地を追われたり徴収されたりと色々苦しくなるだろう。


「バカな!同盟など必要ない!そんな女を娶る気もない!汚らしい帝国女など!」

「ジェイク」

「ぐあっ!」


 エルシオン様が短く名を呟くと同時に殿下が叫ぶ。え…今鈍い音がしたけど…折った?ジェイクが腕を!?


「お立場がまだお解り頂けていないようですな」


 ゾッとするような冷たい低い声でエルシオン様が話す。


「仮にも…オルシュレン嬢は帝国皇帝の姪だ。その彼女に対して汚らしいなどと、不敬にも程がある。本来なら死罪に値するぞ…言葉に気をつけろ」


 うめき声をあげ、恐怖と痛みで涙を流す殿下。顔が青ざめ力なくうなだれる陛下。これが…これが帝国か。確かに帝国と戦って勝てる未来が見えない。国の、指導者の器が違いすぎる。さすがの私も怖くて震える。


「とは言え私からも、もう一度伺いましょう。王太子殿との婚約、どうなされますかな?オルシュレン嬢?」


 アルン様も震えている。ここに至り何が正解か、どうすれば良いかわからないんだろう。私だって…どうすれば良いか…。


「どうすれば、戦争になりませんか?どうすれば、殿下と婚姻を結ばずに戦争を回避出来ますか?」


 震える声でエルシオン様に問う…アルン様。


「つまり、同盟は結びたくない、だが戦争もしたくないと言う事ですな?中々欲張りでいらっしゃる。さすが我が従兄妹。そうなると方法は一つしかありません。ティタニア同様無血降伏ですね」

「そ、そんな事は許さな…ぐわっ!」


 殿下が反対しようと口を開けたとこを再びジェイクが押さえ込む。


「私はオルシュレン嬢に聞いている。お前の意見は聞いてない」


 仮にも一国の王太子であるのに容赦ない。


「だが、ま、いいだろう。まだ歯向かう気骨があるようだからな、教えてやろう。反帝国派の王弟殿は既に我が手の者が捕らえている」

「!!」

「さらに、今何故宰相殿がこの場に居ないと思う?」

「それは…余が王太子を説得する間、帝都に残り交渉を長引かせるためではないのか!?」


 陛下が青ざめる…なるほど、陛下だけ先に帰って来られたのはそういう事だったのね…本来なら。


「もう一つ。帝国の貴族であるジェイク…私の部下だが、何故ここ学園に入れたと思う?」


 え、その言い方じゃ宰相様や陛下が便宜を図った訳じゃないのね?確かにタイミング的に陛下らが指示したにしては早すぎると思ったけど。


「まさ…か…」


 陛下も殿下もさらに青ざめる。


「宰相殿は早々に見限って帝国に付いたのだよ。ましてや娘を辱めた王家に対して義理を果たす必要ないしね。そしてジェイクが学園へ調査で来れるよう裏で手配したのはこの国の将軍グランデ辺境伯だ」


 ダドくんのお父さん!?おじ様が…この国の軍部を預かるおじ様が既に帝国と内通してたの!?


 つまり、この国は宰相と将軍という二つの国の柱を既に失っていたんだ…確かに勝てるわけない。




 

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