第25話
「決勝…惜しかったな、ランダード」
「兄貴…」
大会が終わり、表彰式が終わった後の控室で声をかけられる。決勝戦、お互い力、技術とも近接していた。だが騙し騙しで戦っていたが予選で負傷した足が限界を迎えていたのだ。
「とは言え、お前が準優勝ならグランデ家としてなんとか顔は立つ」
「…そんな話をしに来たのか?」
兄、クリュートとは仲が良いとは決して言えない。当たり前だがグランデ家時期当主は兄が継ぐ。それ故に昔から兄は後継として教育を受けてきたし、兄貴と比べるとオレの方が比較的自由に生きてきた方だと思う。マリアのいるシルフィード領なども姉のエルザと遊びに行ったりしたが、兄貴と行った記憶はない。だから羨ましかったのか、兄貴はいつもオレや姉にキツく当たってきたので険悪、まではいかないが仲は良くない。
「いや…」
言葉を濁す。兄貴にしては珍しい。
「最近、オルシュレン嬢と仲が良いようだな…」
「…それがどうかしたか?」
マリアには聞いている。兄貴はアレク殿下の側近として一緒にアルン様を断罪した時、その後リーリ嬢がアルン様に学園に残るように指示したのに賛同したと。
正直言って呆れている。何故婚約破棄に賛同したのか。学園のパーティはオレもいた。断罪理由は稚拙でとても国家の政治的な婚約を破棄する理由に思えなかった。それに、何故アルン様を学園に残したのか。マリアに聞いた話でもアルン様は辛い生活を強いられたはずだ。コーデリアが明るく振る舞っていたから楽しそうだったが、だからこそ修道院見学などと言う公爵令嬢にあるまじき行動をしたのだろう。
「…もはや私に語る資格はない。だから、伝えてくれないか。すまなかったと…」
「何言ってんだ?何の事かよくわからんが、謝るなら自分で謝ってくれよ」
「…」
「なあ、何かあったのか?」
何やかんやでグランデの長男として育ってる、プライドは高いはずだ。
「殿下の事だ…」
「アレク殿下?」
「婚約破棄後から様子がおかしくてな…リーリ様に冷たくなったかと思えば、リーリ様を学園から追い出そうとしてるらしい…」
「…」
「最初は、政略結婚ではない、本当に好きな人が出来たから力になって欲しいと…純粋な殿下の愛に心打たれて婚約破棄に協力したんだが…」
「どんな協力をしたんだ?」
「オルシュレン嬢の落ち度を探したり…国王、宰相が不在の時に公然で破棄し、既成事実を作れば例え陛下でも認めざる得ないと進言もした…」
「あんただったのか!あんな公衆の前で破棄させたのは!」
これはアルン様に申し訳ない。まさか兄があの婚約破棄を画策した張本人だとは。
「…もう私は殿下が何を考えてるかわからない…一体何の為に婚約破棄をさせたのか。本当に…オルシュレン嬢には申し訳ない事をした」
「というか兄貴ですら殿下のお考えがわからないのか…」
「…」
マリアに情報が渡せるかと思ったが、進展はなさそうだな。しかし、兄貴が殿下の側近だからいつも一緒にいるとは思ってたがまさかそんな進言をしていたとは。ちょっとばかりアルン様に顔が合わせにくいな。
「なあ、何でリーリ嬢が婚約破棄後、まだアルン様に学園に残るよう進言したのを認めたんだ?」
「…あの時は、純粋にオルシュレン嬢が酷い人間だと思っていた。リーリ様から聞いた話ではな。だから、単純にリーリ様がお許しになられたのだと思ったんだ。自分を虐めた人を許すなんてなんと慈悲深い人なのかと」
「…本気でアルン様をどんな方か調べなかったんだな…リーリが言ってる事も…」
「…申し開きはない、すまない…」
昔からこう、視野が狭い?一つの事しか見えなくなるとこはあったが…ちょっと酷いな、我が兄ながら。
ここでマリアならさらに誘導したり上手く情報を引き出したり出来るんだろうがあいにくそう言う駆け引きは得意じゃない。素直に、正直に頼む。
「マリアが…シルフィード子爵令嬢が今アルン様がなんとか修道院に送られないよう手を尽くしてる。もし、兄貴が本当に悪い事をしたと思ってるなら手を貸してやってくれ…」
「わかった…」
「もし、何か殿下の真意がわかるなら調べてみてくれ。オレもアルン様が…が修道院に送られるのは見たくないからな…」
参ったな…殿下の側近だから多少は関わってるとは思ってたが、むしろガッツリ進言までしてんじゃないか…しかし側近ですら殿下の真意を知らないとか、政治的な意味合いで破棄したのではないのか?
マリアやコーデリアと関わり、アルン様とそれなりに仲良くはなった。オレも、アルン様が良い人だと思うし、友人だと思ってる。だからこそ、兄貴には自分で謝れとは言ったがオレからも謝らなければならないと思う。同じグランデの人間として。
どうするかな。優勝は出来なかったが、コーデリアを飯に誘って相談に乗って貰うか…
マリアは…怒られそうでちょっと怖いからな…。
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