第19話

 翌朝教室に向かうとすでにアルン様とコーデリアが雑談してる。


「え?マリアさん?」

「マ、マリア、どうしちゃったの!?」


 ん?何?え、なんかなってる私?


「寝癖すごいよ?寝坊したの?」

「え!?」


 急いで手鏡を出し髪を整える。うわあ、恥ずかしい。そう言えば朝起きて何も考えず制服着て来たわ…やはり昨日の事でまだ動揺してるわ、私。

 とりあえず授業が終わったらまた会う約束はしてるけど…アルン様やコーデリアにどう説明したらいいか…


「授業を始める前に編入生を紹介します」

 ん?編入生?担任の先生が入ってくるなり衝撃発言を落とし、クラスがざわめく。そりゃそうだ、編入だなんてそうそうあるものでない。


「編入生だって、どんな子かなあ?」


 コーデリアがワクワクしながら小声で聞いてくるが…コーデリア、多分私は知ってるわ、ごめん。

 先生が促すと入口からどっかで見た事ある坊主頭が見える。


「ジェイク・レスターだ、今日からお世話になります。宜しくお願いします!」


 …ですよね。イケメンだから女子から黄色い声があがる。そう言えばアルン様を調査って言ってたし、昨夜も何やら寮員に特別扱いされてたし、これは学校ぐるみで協力してるよね?ジェイクに。同じクラスなのも当然意図してるに違いない、偶然じゃない。まあ私と同じ、じゃなく『アルン様と同じクラス』なんだろうけど。


「マリア!?」


 あ、気づかれた。多分アルン様のクラスだと思ってて私がいると思ってなかったんだろなあ。


「ちょっと何、マリア、あのイケメン坊主と知り合いなの?」


 コーデリアが聞いてくる。うんまあ、知り合いだな。言っていいものかどうか。というかいきなり名前呼ばれたら知り合い確定じゃない、やっちまった、みたいな顔してるけどフォロー出来ないわよジェイク?


「まさか同じクラスだとはなあ」


 ははは、と笑うがこっちは生きた心地しなかったわよ!

 コーデリアに昼は一緒出来ない、また後で説明するとアルン様に言伝し、食堂の端っこでジェイクとランチを食べてるが編入生自体珍しい。注目されてる。外で食べたかったが学食を食べたいとのジェイクの希望だ。


「ちょっと、内緒の任務じゃなかったの?いきなり声かけられてどうしようかと思ったわよ!今も思いっきり目立ってるわよ!」

「悪い、まさかオルシュレン嬢と同じクラスだと思わなくてな」


 やはりアルン様のクラスに意図して入ったのね。


「どうせすぐバレるだろうから言っておくけど、アルン様と私、友達だから」

「えぇ!?マジか!」

「修道院に居た時、アルン様も一緒だったのよ?私は一人でお茶買いに行ってたけど」

「あの時!?マジかよぉ〜!」


 ころころ表情変えるな、本当に密命受けた調査員なの?雑すぎない?この人…。


「大体、修道院で何してたんだよ…公爵令嬢が行くようなとこじゃねーだろ…」


 それは間違いない。


「ジェイクはどこまでアルン様の事知ってるの?」

「どこまでって…宰相イシュト・オルシュレン公爵の娘で王太子の婚約者だろ?」


 あ、そこからか。いや、そりゃそうか、陛下や宰相様に伝わってるかもまだ怪しい、帝国が知ってる訳ないか。


「はあ!?婚約破棄!?なんだそれ!」

「ちょ、ジェイク、声がでかい!!」

「いや、ちょっと意味がわからねぇ!!」


 それは激しく同意する…。


「あのさ、聞いていいかわからないけど…ジェイクはアルン様の何を調べてるの?」

「あー…うーん…いや、今の話を聞いたらもう前提から覆ったからなあ…ちょっと待ってもらってもいいか?」


 待つ?何を?


「本国に連絡入れるわ…わざわざ王国にまで来たってのにいきなり任務が無くなったようなもんだ…」


 あ、なるほど。よくわからないけど、婚約破棄は想定外だよね、うん。でもまあ、これで少しわかったわ、要は『殿下の婚約者』がどんな人かの調査だったのね…何のためかまではわからないけど。


 とりあえず本国、つまりは帝国からの指示を待つという事でジェイクと別れ午後の授業を受ける。


「ねえ、マリア、結局なんだったの?ジェイくん」


 侍女科の授業中にコーデリアが小声で聞いてくる。うーん、どうしよか?任務無くなったらしいから別にいいか?後で部屋に集まろう。


「「えっ帝国の人!?」」


 アルン様とコーデリアがハモる。今日はコーデリアの部屋に集まる。応援旗を作る約束だ。


「ついに王国も併合されちゃうのかなー?」

「変ですね、攻め込むにしろ外交で帰順させるにしろ学園に来る意味はないと思うんですが」


 さすがにアルン様は同じ見解ね、でもまさかアルン様を調査に来たとは言えない。不安にしてしまうだろう。


「これって誰かに報告した方がいいのかな?」

「学園に来てる時点で上の方の協力を得てるはずだからおそらく既に知ってるんじゃないでしょうか?」


 色々推測が飛ぶが答えはでない。何より当のジェイクがまず任務が無くなったと言ってたしな。


「まあ、考えても仕方ないよ、まずはランダード様を応援する事に専念しよ!」


 まあ、そうね。今後王国がどうなるかわからないけど、少なくとも単なる学生がどうこうする話じゃない。目の前の出来る事を片付けていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る