第20話
「はあー、マジかよ〜」
自室に帰りベッドに転がりながら頭を抱える。まさか、調査対象の公爵令嬢が婚約破棄されてるとは。さすがに想定外過ぎる。だいたい、その辺の貴族じゃねえ、王族と公爵家の婚約だ。普通破棄するか?ありえねえ!
ふと呼び鈴が鳴る。ドアにはあらかじめ鍵はかけてない、来訪者は返事を待たず勝手に入って来る。
「報告は聞いた。なんだか凄い事になってるようだな?」
かぶったフードを脱ぎながら来訪者がソファーに座る。長い銀髪があらわになる。まるで女性の様な中性的な顔立ちだが声は紛れもなく男性のものだ。
「いや、ホント意味がわからねえよ。王国はうちと戦争をやらかす気なのか?」
ベッドから起き上がり、ジェイクも椅子に座る。
「少なくともオルシュレン嬢を建前に同盟国として不可侵条約を結びたがってたはずだがな、王国は」
「王弟派がなんか画策したんですかね?」
国王の後継は王太子だが帝国との和議に反対する勢力がある。交戦派の王弟一派だ。ティタニアは小国なのもあり、戦わずして降ったが大国である王国には戦力がある。戦えば帝国とて負けはしないが苦戦するだろう。
「仮にうちとやるにしろ、時間を稼いで準備が出来る。既に成り立っている婚約の破棄は必要なくないか?」
「ですよねぇ…」
そう、婚約破棄は国王にも王弟にも、もちろん帝国にもメリットがない。
「だがまあ、国王は今帝都にいる。つまり、婚約破棄自体が最近で国王自身まだ知らないのかも知れん。王弟派が同盟を成立させない為に手をうった…とかならあり得るか?」
「だとしたら王太子が王弟と手を組み、うちと戦争するために勝手に破棄したって事ですか?」
そんな事あり得るのか。本来なら相反する派閥じゃないのか。仮にそうだとしたら王太子は反帝国派なのか。だとしてもどんな狙いがあるのか?
「とりあえず、せっかく学園の生徒になったんだ、一応当初の目的通りオルシュレン嬢を調べといてくれ。ついでにその辺の事情もな」
銀髪の男は不敵に笑いそのまま部屋を出ていった。
「今日!から!大会ですよ!」
朝からテンション高いな…コーデリア。いや、わかるけど。
中庭を三人で歩きながら会場へ向かう。今日、明日と騎士科の大会だ。通常授業もなく、学園は全体的にお祭りムードだ。中庭を抜けて北校舎のさらに北側に運動場はある。普段は騎士科の訓練や運動部の部活で使うのだがこの日ばかりは学園の全生徒が集まり、騎士の卵達が武技を競うのを観戦する。
「今日が予選で明日が本選らしいですよ?」
学園外にも配るパンフレットを片手にアルン様も興奮気味だ。
「まさか、予選で負けないよね?ランダード様ぁ?」
コーデリアが挑発的に笑う。煽るなあ。
「負ける気はないが…くじ引きで対戦相手が決まるからな。多少は運も絡むからなあ」
「お?既に言い訳考えてる?」
「わかった、そこまで言うなら優勝してやるよ!そしたらちょっと高級なとこで飯奢って貰うからな?コーデリア!」
珍しくダドくんがムキになる。え、実はこれ優勝したらデートってやつ!?
「お、言ったね〜じゃあもし優勝出来なかったら何してもらおかな?」
コーデリアが有利過ぎな賭けを成立させようとする。しかしなんやかんやで仲良いな。アルン様も微笑ましく二人を見てる。
運動場に着くと出場騎士の控室へ行くダドくんと別れ応援席に向かう。既に人が一杯だ。熱心なファンは徹夜で前の席を確保する生徒もいるとか…寮員に怒られないのかな?
学園長の長い話が終わり、少しして、開会の鐘が鳴る。ついに始まったか。騎士の卵たちが会場8ヶ所くらいで戦う。予選は同時に8試合やるみたい。え、コレ反対側で試合されたらほとんど見えなくない?
「あー!向こう側でイケ騎士No.2のソーリュ様が戦ってる!」
「手前ではイケ騎士予備軍のライゴス様が戦われてますわ!」
でたイケ騎士!噂のイケ騎士か!というかアルン様、いつの間にそんな詳しくなったの?コーデリアの影響か?
騎士達はそれぞれ得意武器が違うらしく、模擬武器ではあるが片手剣、槍、斧、と様々だ。
「お!来たよランダード様!!」
第一試合が終わり、遂にダドくんの出番。やった、近い!目の前での試合だ!
ダドくんは両手剣か。うわっ、相手の騎士、ダドくんより大きいぞ?縦も横も!すごいぞ?勝てるのダドくん?
「アレは騎士科で最重量を誇る重騎兵、トルネードアックスのシュナイダー様だ!強敵だ!ランダード様、いきなりピンチか?」
二つ名付!?いやホント詳しいなコーデリア。これはいい解説付きだわ。
と、試合開始の合図。その刹那、シュナイダー様が見た目からは想像出来ない速度で間合いを詰める!そのまま横なぎに斧を振るう。ウソでしょ、あんな速度!?ホントにトルネードじゃん!模擬武器とはいえ当たったら死んじゃうんじゃあ!?
と、心配をよそに大剣で受け止めて流し、その勢いで一撃、肩を打つ。一瞬の出来事。シュナイダー様が崩れ落ちる。ダドくんの勝ち…なの??
「勝ったぁぁ!!」
「やったー!」
隣でアルン様とコーデリアが飛び跳ねる。あんな自分より大きな相手に勝つなんて、ダドくんもしかして強い?結果だけ見たら素人目には圧勝に見える。
「自分じゃないのにめっちゃ緊張した〜」
「ホントですね、手に汗かいちゃいました!」
確かに。そして勝った事が純粋に嬉しい。
「しかし暑いね…声も出し過ぎて喉乾いちゃった」
「次の試合まで時間あるね、私飲み物買ってくるよ」
「マリアありがとう!」
大会は専用の許可を得た屋台やら出店やら多い。だいたいは貴族の所縁のある業者が出してるが、ちょっと割高だがぼったくりというほどでもない値段で会場の周りに出店している。ただ、学食も開いてるから行けば安く済むだろけど、若干遠いしめんどくさい。
「暑いから飲みやすいアイスティーがいいな…」
飲み物を売る屋台を探してると、どっかで見た坊主がウロウロしている。
「ジェイク、何してんの?」
「マリア!良かった!知ってる奴がいて!教室に行ったら誰もいなくてどうしようかと…」
「貴方、聞いてなかったの?今日から大会があるから授業ないって先生言ってたでしょ…」
「あー…」
「聞いてなかったのね…」
そう言えばよく授業中寝てるわ、コイツ…。
「ま、まあな…いやそれより良かった、じゃあ大会を見てたらいいんだな?」
「まあ…そうなるかな。一緒に観る?アルン様もいるわよ?」
「そうだな…ヒマだしな…それにしても、騎士の大会ねぇ。そんな大会してるのに寮の引っ越しとかする奴もいるんだな」
んん?
「引っ越し?」
「ああ、なんか迷子になって校舎裏に行ってしまったんだがオレが来た時と同じ台車が…」
こんなタイミングで引越し?大会の日に?
「それ、いつの話!?」
「え、今朝だけど…」
「ちょっと何処それ!案内して!!」
「え!」
今度こそ間違いない。リーリ嬢だ!!
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