第15話
せっかく庶民服を着ても公爵家の馬車だと意味がない。という訳でグランデ家の普通の馬車を貸してもらい修道院へ向かう。ダドくんには本当にお世話になるな。ありがたい。王都にいるグランデ辺境伯にもお礼のワイン送っておこう。
街道をすれ違う荷馬車が多くなってくる。商人達の通行が増えてきてるんだ、遠くに街並みが見えてくる。クリスト修道院だ。
「敷地は男子禁制って聞いたけど、敷地自体は普通のお屋敷ぐらいで周辺は後から出来た集落が発展したみたいだよ」
本を読みながら説明するコーデリア。ちょっとした街、と言うが広さ的には村みたいなものか。ただ村にしては商業施設が多く、建物も多い。
街?の入口で馬車を預け、商店街をぬけ修道院を目指す。
「じゃあ俺はちょっとその辺で聞き込んでくるよ」
修道院の入り口でダドくんと別れ、女子三人で門をくぐる。
「見学の方ですか?それともお買い物ですか?」
中に入ると農園があり、農作業をしていたらしいシスターに声をかけられる。
「見学させて貰いに来ました!」
見学…買い物より先に聞かれるとこをみると普通によくある事なのか。
建物を案内されつつ話を聞くと、どうやら観光業の一環らしい。そうか、よく考えたら歴史ある古い建物だし修道院としても名のある有名何処らしい。しかも今は男子も入れるとか!観光業にも力を入れ出し3年くらい前から男子禁制は廃止されたらしい。…ダドくん…外で待たせちゃったよ。さすがに在籍する修道士は女性のみで男子は受け入れないらしいけど。
話を聞けば聞くほどこの修道院は宗教色よりも商業的な色合いが強い。作業こそ農家のような感じだがかなり自由だし何より結婚して家庭を持つ者もいるって!そういう者達が外側の集落で商売してるんだとか。…修道ってなんだ?
とは言え私の様に実質農家みたいな貴族はともかく公爵令嬢のアルン様にはやっぱり厳しいだろなあ。それとなく送られて来る貴族令嬢がいるかと聞いてみたけど守秘義務があるからと聞けなかったし。そりゃそうだよね。ただ、思ったよりは酷いとこじゃない。もし結局ここに送られても私達がフォローしたり出来そう。というかコーデリアは絶対ついて行かせるように画策してやる。
「どうだった?」
外に出ると既にダドくんが待ってる。聞いた事、見た事を話すと複雑な顔になる。
「まあ、俺もその辺で聞いた話も似たようなもんだな」
「そんなに悪い所ではないですね。もしここに来る事になっても私頑張ります!」
確かにそんな酷くはない、それ自体は良かったけれど。昨日アルン様の涙を見でしまってからもう修道院の中身はあまり意味をなさない。アルン様が今本当に恐れてるのは私達と別れて孤独になってしまう事だから。
「さあ、修道院も見たし、商店街も見て周ろうよ!」
さすが楽しむ係、切り替えが早い。しんみりさせる隙を与えない。とは言え私も気になってたんだよね、店頭には王都ではあまり見た事ない物が沢山あって。
「私、あっちの雑貨店見てくる!可愛いのあったんだ!」
「あ、私も気になってたの!行きたい!」
何気にアルン様とコーデリア、相性がいい。二人とも仲良く同じ店に行こうとしてる。
「私は茶葉のお店気になるから見てくる。ダドくんはアルン様についてて。公爵令嬢だし」
「マリアは一人で大丈夫か?」
「大丈夫でしょ、聞いてた通り治安もいいし」
本当はダドくんとコーデリアを二人きりにする隙を作ってあげたかったがアルン様コーデリアと仲良いしさすがに公爵令嬢には護衛はつけたいし。
グランデ領は基本的には軍事拠点だけど薬草の産地の側面もある。珍しいハーブやらここにしかない薬草やらがあり、それらは薬だけでなく紅茶や緑茶の茶葉になる。修道院に向かう途中にも何軒かハーブや茶葉のお店を見つけてたのだ。楽しみだ!
お目当てのお店に着き、色んなハーブティーの茶葉を見てまわる。もうそれだけで楽しい。何買おうかな、ここでしか買えない茶葉は外せないし、他の物も思ったより品質がいいぞ?王都でもこれ程の品揃えは見た事ない、これは幸せだ!
「はあ!?使えないってどういう事だ!?」
と、いきなり店内から怒号が聞こえる。カウンターの前にスラっとした背の高い坊主頭の若い男が店主と揉めてるらしい。
「申し訳ありません、当店はティタニア通貨はご利用頂けますが、帝国通貨はちょっと…」
「マジかぁ!?コレしか持って来てないぞ?どうしたらいいんだ!!」
どうやら帝国人らしいが…帝国通貨しか持ってないとか、ここまでどうやって来たんだ?
店主も困り果ててるし、私も待たされて困る。仕方ない…。
「もし宜しければ、王国貨幣をお貸し致しましょうか?」
男が振り返ってこちらを見る。ダドくん並みに背が高い。髪は短く刈り上げてる、金髪の坊主頭で切長の目、顔立ちはすごい整ってる。ダドくんに負けないイケメンだ。ただ、少し雰囲気は良く言えばワイルド、悪くいうなら怖い。
「本当か!助かるが…何ぶんこっちに来たばかりで帝国通貨しか渡せる物がないんだ…」
「いいですよ、お困りのご様子ですし、茶葉はそれ程高い物でもないですし」
「助かる!ティタニアでは普通に使えたから気にしてなかった…」
なるほど、ティタニアから来たのね。選んでる茶葉は王国ではポピュラーでそれ程高くない。店主に頼んで一緒に払う事にする。
「お茶、お好きなんですか?」
思わず聞いてしまった…失礼ながら見た目は確かにイケメンだけど、ハーブティーを嗜むような風貌に見えない。ちょっと興味を惹かれた。
「ああ、実は最近ハマってな。ティタニアで頂いたお茶があまりに美味しくて」
「あら、それは良いですね、ティタニアならローズヒップかしら?この茶葉は王国で主流のラベンダーですが宜しいのですか?」
「そんな名前だったな?いいんだ、しばらく王国で暮らす事になりそうだから王国のもので。あんた、お茶に詳しいんだな」
「お茶は大好きなので」
危ない、そういえば庶民に扮していた、危うく侍女を目指してるとか口走りそうになった。
「そ、そうそう、ここから西の大きな街なら両替商もあるのでもしかしたら通貨を交換して貰えるかも…」
「本当か!何から何までありがとうな!せめてコレを取ってくれ」
そう言って金貨を一枚差し出す。帝国の通貨はよくわからないけど、金貨だし高額なんじゃあ?
「いいから受け取ってくれ、俺の気持ちだ!」
「それじゃあ、せっかくなので…」
なんか熱意に負けて貰ってしまった…。
「そう言えばまだ名乗ってなかったな、俺はジェイク。ジェイク・レスターだ」
「マリア。マリア・シルフィードよ」
あっ。思わず本名名乗っちゃったけど…まずかったかな?
「早速西の街目指してみる、馬車はまだ待たせてるからな。縁があれば、また、何処かで会おう、マリア」
そう言って手を取り、固く握手をし、店を出る。女性に握手するとか帝国の習慣なのかしら?イケメンだったからちょっと照れてしまう。
帝国人か。ティタニアが併合され隣国が帝国領になったからいてもおかしくはないけど。なんか、印象に残る不思議な人だったな。
とりあえず目的の茶葉は手に入れた。色々あったけど、皆に合流しよう。明日には学園に戻る。これからの事、また考えなければ。
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