第14話

 グランデ城は古城だ。歴史は古く、建国時まで遡る。周りは城壁が高く、所々に大砲が設置されてるのが見える。が、内装は近代的で当時の面影を残しつつ、居住に最適化されている。とは言え前線の基地である。城の外には騎士が寝泊まりする宿舎や捕虜を捕まえる地下牢やらあるそうでどことなく戦場の名残がある。


「お帰りなさいませ、ランダード様」


 執事長が出迎える。急な来客にもかかわらずメイド達も一斉に全員集まる。どうやらダドくんが帰宅したのが嬉しいらしい。ダドくんが慕われてるのがわかる。


「悪いな、急に」

「いえいえ、何を仰りますやら。さあさ、どうぞご友人方も。お部屋に案内致します」

「急な訪問になり申し訳ございません。オルシュレン家のアルンシーダと申します、お世話になります」


 さすがに公爵令嬢、アルン様は堂々としてらっしゃる。が、言い出した肝心のコーデリアは緊張で目が泳いでる。


「コーデリア。そんな緊張しなくても。いつも通りで大丈夫だ」

「そ、そうだよね?」


 コーデリアの手を取り優しくエスコートするダドくん。単に落ち着かせる為にコーデリアに話しかけてるだけなのにもしかしたらとダドくんを注視してしまう。気になる。


 夕食後、サロンで寛ぎながら明日の予定を煮詰めていく。執事長が言うには治安も良く活気もあるが敷地内は男子禁制らしい。とは言えオープンなので女性であれば出入りは自由だし見学も問題ない。コーデリアの情報通り、周辺は市場があり多くの商店も連なっているらしい。国境も近いことから宿もあるが、さすがに貴族が泊まるような宿ではなく行商人向けだ。とは言えあくまでも修道院、交易の要まではいかない。扱う農産物や工芸品の質が良いのと大きな街へ行く通り道なので交易のついでに立ち寄る中継地となっているようだ。


「お湯のご用意が出来ました」


 メイドが知らせる。グランデ城には広い大浴場があると聞きコーデリアが楽しみにしていた。


「お!行きます!マリア、アルン様も、一緒に行こうよ!」

「えっ」


 いきなり振られ驚いてるアルン様を浴場へひっぱる。


「私は後から行くね。まだアルン様の腕、治ってないんだから気をつけて!」


 念のため声をかける。いいタイミングで連れ出してくれた。私はまだ執事長に聞きたい事がある。過去に修道院に送られた貴族の令嬢がいるかどうか、いたとしたらどんな扱いを受けているか。アルン様がいたら聞きにくい。


「ここ数年はいらっしゃりません。最後に受け入れたのは20年ほど前かと存じます。とは言え、身分のあるお方は私どもの耳に入りますが従来なるべく人知れずお入りになりますので全員を把握はしておりませぬ」


 ふむふむ。そりゃそうか。あまり名誉な話ではない。公爵令嬢ほどになると流石に隠しきれないが下級貴族クラスならこっそり人知れずになるか。


「結局現地でそれとなく聞き込む事になるか」

「ダドくんはどうする?少なくとも修道院内には入れないみたいよ?」

「市場や商店でそれとなく噂話でも聞いておくよ。修道院内なら護衛が無くても大丈夫だと思うしな」


 さすがにコーデリアほどは楽観してない。修道院は貴族が入ってすぐ慣れるような場所ではないだろう。せっかく来たんだ、万が一修道院送りになった時に少しでも役立つ情報を持って帰ろう。あと農作物と工芸品も一応見てみたい。


 大浴場でゆったりお湯に浸かり旅の疲れを落とした後は個室に戻る。が、コーデリアが何やら見せたいらしくて再びサロンへ。


「じゃーん!」


 得意げにクルッと回るコーデリア。白いチュニックにブルーのフレアスカートを合わせ、ショートブーツを履いている。


「可愛い!」

「似合うな?」

「どっから見ても町娘ね?」


 なるほど、どうやら庶民服を用意したらしい。執事長にいつの間にか頼んだようだ。確かに貴族が修道院をうろつくのは目立つ。変な噂がたっても困るし。四人とも着替えてみる。


「まあ、俺はどっちでもいいんだけどな。多分顔が割れてる」


 そりゃそうか、行った事なくても領主の御子息だもんね。


「に、似合いますかね?」


 コーデリアとは別の服だがある意味似合ってる、アルン様。これは…こう…形容し難い可愛さがある!だがこんな美人は庶民には見えない。頑張って大商人のご息女って感じ。


「明日はいよいよ修道院だし、今日は疲れたし、早めに寝ときますか」


 それぞれ個室に戻り明日に備える。


 部屋は寮よりは狭いが客室だからそれなりに広さはある。さすがに浴室はないが女性客用の部屋なのだろう、置いてある家具や調度品が可愛い目だ。

 有事の際はここも詰所になるのかな?とか明日の事とか色々考えてたら眠れなくなった。廊下をでて夜風に当たろうとテラスへ出ると既に先客が。


「アルン様も眠れないんですか?」

「マリアさん…」


 ふと見るとアルン様、泣いている。


「…怖いんですね」

「…」


 楽しそうにしてたが、やはり修道院に送られるかも知れないと思うと怖いんだろう。今まであった生活を捨て、未知の場所へ行くのだから。


「まだ行ってもないのに変ですよね…コーデリアさんの言う通り、ひょっとしたらそんな悪い場所じゃないのかも知れないのに…」

「アルン様…」

「でもね、修道院が嫌なんじゃないの、怖いんじゃないの。私が本当に怖いのは、もう…みんなに会えなくなるかも知れない、せっかくマリアさんやコーデリアさん、ランダード様と親しくなれたのに…そう思うと…」


 そうか、学園でも孤立してずっとひとりぼっちだった。またそうなる事が怖いんだ…。


「大丈夫です、アルン様。例え修道院に入っても私達は友達です!何ならコーデリアはついて行かせます!自分でも言ってましたし!」

「うん…ありがとう…ふふ、そうね、コーデリアさんにはついてきて貰わないとね!」

 

 少し落ち着きと笑顔を取り戻したアルン様におやすみを言い部屋に戻る。まだ先、どうなるかわからないけど、やれる事はやろう。改めてそう思う。


 

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