第13話

 大陸の最西に位置する王国は北を山脈、西と南は海に面し、気候は温帯であり四季もある。海に面している事もあり交易も盛んで大陸では大国の方だ。近年、東の隣国ティタニアが軍事国家である帝国に併合されたが外交による帰順であった為、治安は比較的良い。これから向かう修道院は東の国境に近いがさほど問題はないだろう。

 

 修道院は文字通り修道者のいる場所であり、神に身を捧げ、生涯独身を誓う者が住まう場所でちょっとした街の規模がある。罪人が送られたりするのではなく、身寄りのない者、世間を捨てた者等が最後にたどり着く場所だが修道者以外は普通に暮らしている。主に自給自足の生活を送っているが、農作物や工芸品を生業にする為、周辺に市場も出来て生活には不便はない。


「という事らしいよ?案外いい所かもって気がして来た!」


 馬車に揺られながらコーデリアが手にした『修道院の生活』という図書室から借りた本を読む。いつ借りたのか。


「ちょっとした街の規模があるとか想像と違ってましたね…もっと閉鎖的な場所かと思ってました」


 確かに意外。アルン様も興味津々だ。


「というか修道院に行くの!?聞いてないんだけど!?」


 …ダドくん。いや、本当ごめん、申し訳ない。


 朝起きたらコーデリアが全て段取り着けてたのよね、そこは流石侍女科の人間。手配した馬車もちゃっかり公爵家のもので中は広くて乗り心地も良い。まあアルン様を連れ出すんだから私でもそうするけど。

 昨夜のうちにサリサさんにも連絡を入れ許可を取り、なんやかんやで女子三人旅は危ないから護衛を手配する…ダドくんを。


「申し訳ありません、急に…ランダード様…」

「い、いや!護衛はいいんだ!騎士科は実質従騎士扱いで任務を受ける時もあるから!」


 アルン様に頭を下げられ慌てる。美人に弱いなダドくん。お姉様にも弱い。


「ランダード様!美女三人に囲まれて馬車の旅なんですよ?もっと喜んで下さい!」


 コーデリア、貴女はちょっとダドくんに頭を下げてもいい。

 とは言え、ダドくんを護衛にするのは良い人選だ。これから行く修道院はグランデ領、つまりダドくんの実家の領内だ。地理にも詳しいだろうし勝手も効くに違いない。


 修道院までは馬車なら日暮れまでには着く。途中休憩を挟みながらついでに観光するというのがコーデリアのプランだ。夜はダドくんの伝手を使い貴族用の宿を現地で取る。悔しいが即興の割に中々考えられたプランだ、やるな、コーデリア。ただ、目的地が修道院なのはやっぱりおかしい。

 でもまあ、良かったのかな。行く先々で楽しそうなアルン様を見てると。


「なあ、修道院送りはもう決まりそうなのか?」


 休憩に寄った街の店頭で物珍しいものでもあるのか、はしゃぐアルン様とコーデリアを遠目に見ながらダドくんが聞いてくる。


「今のままじゃあ、時間の問題じゃないかな。宰相様が帰国されたらおそらくは」

「…良い人だよな、アルンシーダ様。修道院になんか行って欲しくないな」


 半日馬車で一緒に揺られダドくんもすっかりアルン様と仲良くなった。


「それにしてもコーデリア、凄えな。修道院見学とか普通思い付くか?」


 それ。流石に意表つかれたわ。


「面白い奴だよな、コーデリア…」


 ん?ダドくんがコーデリアを見る目が心なしか熱を帯びてる。え、そうなの?ダドくん…まさかコーデリアを?えっ?


 昼過ぎにはグランデ領に入る。グランデは隣国ティタニアに面し、200年ほど前までは国境をめぐり小競り合いがあったため軍事拠点として防衛線の機能していた。和平が結ばれてからは友好な関係を築いているので今や隣国との貿易の要だった。

 が、隣国が帝国に帰順したため再び軍事拠点として動き出してる。でもまあ、それは今のところ軍部の動きだけなので街そのものはいつも通りだ。


「修道院まであとどれくらいかしら?」

「グランデ城から1、2時間ってとこですね。城には夕暮れ過ぎに着きそうです。実のところ、俺も修道院は行った事ないですね」


 アルン様とコーデリアが休憩の度にはしゃいでたので予定より時間は押している。どのみち今日は宿を取って明日行ってみようという話だったがグランデ城下町に着く頃には日が暮れるだろう。さすがに夜道を令嬢が歩くのは許されない。


「という訳で、ランダード様のお家で泊めて貰えないかな?」


 わざとらしい。今気づいたけど初めからそのつもりだったな?コーデリア。だから率先してはしゃいで時間をかけたのね?宿代節約で。


「別にいいけど普通の城だぞ?」


 普通の城。普通の城って何?


「お屋敷じゃないの?」


 思わず聞き返す。


「ああ、うちは屋敷ないよ。城塞にそのまま住んでるから。一応緊急時に司令基地になるけどね」


 公爵令嬢のアルン様はともかく、私達単なる子爵令嬢からするとお城は憧れだ。王城すら行った事ない。ダドくんがうちに来ることはあっても私は行った事ないからちょっとテンション上がってきたぞ?


「やったー!お城だー!楽しみ!」

「私も王城以外は初めてです!」


 お城に泊まる事になりアルン様もコーデリアもテンション上がってる。


 なんやかんやで完全にグランデ領観光旅行になってきたな。まあいいか、私も楽しもう。

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る