第12話

 授業が終わりやっと食堂へ駆け込む。昨日の夜から何も食べてない。夕食は自室で食べる生徒の方が多いから人はまばらだ。


「大丈夫?マリア?」

「ひゃっ!?」


 びっくりした、コーデリアか!付いてきてたのね。後ろにアルン様も。あ、そうか、昼間エマ様について行ったからか、仮にもアルン様虐めてた四人のうちの一人だもんね、心配してくれたんだ。

 とは言え、食堂でする様な話ではない。後で私の部屋でゆっくり説明するからまずは夕食を食べさせて!


 三人で夕食を食べ終わり、寮の自室へ戻る。明日から三日間連休でゆっくり出来るから軽くつまめるクッキーとラズベリーリーフティーも用意。ついでにアルン様に課題の評価も貰っておこう。


 二人にソファでくつろいで貰いながら昨日の出来事、今日のエマ様のお話を掻い摘んで話す。もちろんビンタや蹴られたのは無しで。


「殿下は相当私の事お嫌いですのね…」


 わかってた事だけどと、しゅんってなるアルン様。いやこうなるとは思ったけど先に進むためだ、仕方ない。


「もし差し支えなければ、殿下との婚約の経緯をお伺いしても?」

 

 アルン様と殿下は当然だが政略結婚だ。国王陛下は子に恵まれず男子は一人、アレク様しかいない。

 婚約はアルン様が12歳の時、殿下は二つ上だ。王室会議の時に陛下と宰相様で決めたらしい。オルシュレン家は我が国でも屈指の名家、四大公爵家の一つだし他の公爵家に歳の近い女児はベルトラーゼ家にもがいるが王家と折り合いが悪い。特に不自然な縁談ではない。

 取り決め自体は12歳の時だが初顔合わせはアルン様が14歳の時。その時から殿下はあまり好意的ではなかったらしいがむしろ初対面ならある程度は仕方ない事かも知れない。

 婚約後もさほど接触はなく、会うのは公式の場だけ、とりわけ邪険な扱いはされないが、かと言って親密になれたわけでもない。文字通り政略結婚なんだな、とそれはそれで公爵家の娘として責務を果たすだけ。そう割り切っていたが学園の入学を機に既に在学している殿下と仲良くなれるかもと淡い期待を抱いたが実際には何故か殿下はリーリ嬢と仲良くなり、婚約破棄に至る。


 話しながら少し悲しそうな顔するアルン様に心痛めてしまうが、うーん、むしろ接点が少なくて好かれないにしろ嫌われる理由も見当たらないな?アルン様はすごい美人だし、婚約破棄されるまでは普通に男子にも女子にも人気あった人だ。これはやっぱりアルン様本人以外に別の何か要因があるんじゃないか?


「よく解りませんね。こんな可愛らしい美人さんを嫌いになるなんて。私なら毎日イチャイチャラブラブしちゃいますよ」


 コーデリア…もっと他に言い方ないの?アルン様も顔真っ赤にしてるよ?だがまあ、コーデリアの言い分はもっともだ。

 とは言えこれはやはり殿下側に問題があると思って良さそうね。しかも王家の取り決めを反故にするほど相当根深い問題を。殿下に探りを入れてみたいが…スカート斬りつけたり女性に怪我をさせるような人だ、コワイ。侯爵令嬢を相手にするのとはワケが違う。

 …切り口を変えてみるか。婚約破棄のもう一人の重要人物、リーリ嬢。学園を追い出したい殿下とは別にアルン様を学園に押し留めた思惑が謎だ。

 最初は嘲笑う為かと思ってたけど、もしかしたら裏があるかも知れない。学年は同じだけどクラスは違う。確か、選択科目は商業科クラスだったな。うちのクラスで商業科の子は…。


「マリア、めっちゃ悪い顔してるよ?」


 考えにふけてたらコーデリアにちゃちゃ入れられる。え。そんな悪そうな顔だった?


「せっかくの連休なのにさァ、もっと楽しいお喋りもしようよ?」


「そうは言っても、このままだとアルン様、修道院に送られてしまうかも知れないのよ?出来る事はやっておきたいじゃない」

「じゃあさ、三連休だし、明日修道院を見に行ってみる?」

「「!?」」

「もしかしたら修道院、いいとこかも知れないよ?そしたら私もアルン様についていっちゃうもんね」


 たまに突拍子のない事言うな?コーデリア!?


「そう…ですね、送られる前に一度見ておく方が覚悟も出来るかも知れません」


 アルン様も何言ってんのォ!?そんな覚悟いらないよ!?修道院なんかに送らせないから!私が何で裏で色々考えてると思ってるの!?

 …いや、でも確かに修道院送りって言葉は耳にはするけど実際どんな所でどんな事する場所か知らないな?


「よし、そうと決まれば馬車予約しとくよ〜」


 連絡機を取るコーデリア。なんでそんなノリノリなの?


「私、お友達とお出かけするの初めてです!」


 なんでそんな楽しそうなの、アルン様?ピクニックに行きましょうみたいな話じゃないよ!?友達と初めてのお出かけが修道院でいいの!?というかもう行くの確定なの?わかったわよ、そんなに行きたいなら行ってやろうじゃないの!


「マリアの気持ちもわかるよ、私だってアルン様を修道院に行かせたくない。一緒に卒業したいよ」

「コーデリア…」

「だから、マリアは一生懸命方法を考えて!アルン様が修道院に行かない方法!」


 ん?


「私はアルン様に楽しい思い出を作る係なので!」


「えっ何それ…ズルくない?それに修道院見学って楽しいかそれ?」


「ふふ…フフフ…あははははっ!もうダメ!笑っちゃう!」


 堪えられず笑い出すアルン様。釣られてコーデリアも笑い出す。

 …まあ、いいか。確かに婚約破棄やら虐めやら暗い雰囲気になりがちだもんね、釈然とはしないけどコーデリア案、乗ってあげるわ。釈然とはしないけど。


 明日の事をあれこれ話して盛り上がり、結局遅い時間になってしまったので寮員に連絡して寝具を持ってきて貰いお泊まり会になった。


 さて。どうなる事やら…ホントにわからない…。

 



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